【第二幕】
同期は何人もいたけれど、一番親しくなったのは郁海だった。
「雅~、コーヒー飲みに行かね?」
「カフェテリアなら行く!」
「当然だろ。外行く金なんかねえよ」
彼が誘うのは、まず例外なく大学構内のラウンジ棟二階にあるカフェテリアだ。
広くて窓が大きいため明るく、何より安い。味も、コストパフォーマンスとしては十分だ。
郁海はいつも、清潔ではあっても衣服に気を配っているとは言い難かった。何でも着こなしてしまうのは間違いないとはいえ、本当に外見には無頓着なのだろう。
一人暮らしなので、洗濯機で洗えて特に手入れも必要ない服が一番だ、と話していたのが印象に残っている。
容姿に自信がありお洒落も好きな雅とは、共に過ごすとあまりにも雰囲気が違うのが目立ってしまうほどだ。
ただ、友人同士なのだから互いに気にしたこともない。
雅は自覚もしているが気が強すぎるというかはっきりしすぎていて、人によって相性の差が大きい。
もちろんサークル運営や公演については別で、合わせるべきところはきちんと考えている。
TPOを弁えずに我を通そうとするほど幼稚ではないつもりでいた。反面、完全プライベートでは余計な気を遣うのは面倒なのだ。
特に恋愛には一切興味がなかった。恋人に時間を使うのは勿体無いと感じる時点で向いていない。
自分でも我儘で身勝手なのはわかっている。
ただし友情はまた話が違う。
当たり前の話として誰彼構わず喧嘩を売るような真似などはするはずもなかった。
すべて自分に合わせて欲しいとも思っていないし、何より無理して合わせてもらってまで付き合いたくはない。
それはもう友情とは呼べないのではないか?
その点でも、美しい容貌に似合わず意外と口が悪くてきっぱりした郁海とは不思議と馬が合った。
彼は誰とでも当たり障りなく接することができる人間だ。
世話焼き体質なのは皆が知るところだが、それ以外は郁海の本質ではない気がした。
それこそ常に仮面を被っているかのように、「人当たりよく気さくな郁海」を演じているのだろう。
実際には、彼は雅と同じく強気で頑固なところもある。
気心が知れて来ると、郁海は雅を部屋に呼んで趣味の料理を振舞ってくれるようになった。
互いに構える必要はなく、共に過ごして快適な相手。
片付けができない彼の生活の場はいつ行っても雑然としているため、雅が食事の礼代わりに一通り掃除して帰るのが恒例になっていた。
常に洗濯物が無造作に放り出されている状態で、郁海の選ぶ服の基準にも納得が行く。
寮は自炊なのでやむを得ずしているものの、別に料理好きでもない雅とはまさにWin-Winの関係だと感じていた。
本当に貴重な友人を得られて、それだけでもこのサークルを選んでよかったと思える。
そして郁海は、もしかしたら雅より演技力があるのでは、と感じることもあった。
ずっと演技メインでやって来た雅より、脚本と演出希望で実際には裏方なら何でもやる彼の方が。
郁海は相当な努力家だ。
そのことは、たぶん誰よりも雅が知っている。ただその努力の内容は、決して演技力向上のためではない。
しかし目的とするところは違っていても、結果的に彼の演技力には磨きが掛かっている、と感じていた。
つまりは天性の能力のなせる業なのだろうか。
脇で舞台に立ったことはあっても、あくまでも例外にして欲しい、と言い切った郁海。
できるし上手なのに、彼は特に「役者」をやりたいわけではないのだ。
──あの劇団の先生の言葉は、「役者としてよりはモデルの方が」って意味でただの事実だったんだよね。
あくまでも雅のことを考えて、貴重な若い時間を無駄にしないようにアドバイスしてくれたのだ、と二十歳を過ぎてようやく理解できた。




