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Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
Last Chapter 帰趨
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【あらすじ】

 クリストュルを助ける方法は一つ。十二糸全員の糸を完全に断つことーー。

 エリカは水鳥の巫女イナバを復活させるという最悪の筋書きを叶えてしまうのをわかった上で、それを成した。


 空は暗雲に覆われ、不穏な気配に満ちる屋外。何が起きてるのか把握できない状況の下、エリカたちは加護を得ているシュノーブを拠点にし、分散して各国の様子を見に行くことにした。



 サラはシュノーブに滞在。

 死んでると思い込んでいた仲間が実は生きてるという事実を再会したナナチから教わったユンリは、合流したコフォンとともに、遺恨が残された地アルバネヒトへ向かう。


 ララ•フェノン森林のなかにある寺院には、かつて僧侶だったジルバドと、多宗教国家クダラの一糸だった亜人イシュトゥが。


 エリカはサマラフ、セティナ、カニヴと和解し、パーティを再結成。群島ヤマタヒロへ向かった。




 群島ヤマタヒロのなかにある森で野宿することになった四人。エリカはセティナに「用を足してくる」と言って、一時的にパーティを離れた。



(暗くて怖い……)



 松明は持ってるが、見える範囲は狭い。チカラを使って周辺に敵が居ないか調べながら進む。


(あんまり遠くへ行かないようにしなきゃ)


 良さげな場所を見つけたエリカは万が一に備え、透明の防御壁を周辺に張る。


(早く済ませて、みんなの所へ帰ろ)


 持ってきたスコップを使って地面に穴を掘ったら、次はズボンを脱いで畳み、すぐ履ける所へ置いた。

 紙の代用になる葉っぱを近くに置いて完了。下着を途中まで脱いで、穴の上に跨る。


(こんなときに魔物やエルフに襲われるのが、一番恥ずかしくて嫌かも)


 と、思いながら、用を足していると。


「!」


 右斜め後ろから、地面を踏む人の足音らしき物が聴こえた。それも防御壁の内側で。

 焦ったエリカは顔だけで反射的に振り返り、言葉を失った。



「久しぶりの再会が、こういう形とはね」


 現れたのは、とんがり帽子を被ったシュノーブの男魔法騎士。彼は眼鏡のレンズ越しに黒い瞳を向け、目を丸くしながら少し驚いてる。

 オリキスの格好をしたクリストュルとの突然の再会を喜ぶよりも先に羞恥心が爆発したエリカは、悲鳴をあげそうになった。




°・.°




「おかえり……。!?」


 丸太に座ってカニヴたちと会話していたサマラフは一瞬、エリカが誰を連れているのかわからなかった。


「あのね。偶然、オリキスさん……、クリストュル様に会ったの」


 用を足してるときに会いに来たとは、さすがに言えない。


「エリカ。オリキスでいいよ」


「うん」



 サマラフは怪訝な表情をして立ち上がる。


「本物か?」


 何かが化けてエリカを惑わしに来たのではと疑いを向ける。オリキスを初めて見るカニヴとセティナも警戒し、いつでも動けるように武器へと手を忍ばせた。

 邪気は無いが、相手はあのクリストュル王。戦いになれば、世界のチカラを使えるエリカに頼らないと劣勢になる恐れがある。



「サマラフ卿。貴殿に会うのは、謁見の間以来だね」


 エリカは(えっ。いつの間に?)と驚き、自分の左側に立ったオリキスの顔をまじまじと見つめる。

 サマラフは眉間に皺を寄せ、挑発めいた笑みを浮かべ返した。


「エリカ恋しさに出てきたのか?」


「幽霊ではないよ。この通り」


 オリキスはエリカの肩に手を回して、自分のほうへと体を抱き寄せ、わざと見せつける。



(…………手が、冷たい……)


 手袋から伝わってくる彼の体温の低さは、死人である証拠。エリカの悲しそうな表情を見たオリキスは何を感じ取られたのか察して肩から手を離し、改めてサマラフの顔を真っ直ぐ見据える。


「何処へ行き、何をしていいかわからない貴殿らに助言をしてこいと巫女に言われ、此処へ来た」


「また、イナバ特有の悪巧みか」


 オリキスは歩を進め、サマラフの正面に立つ。


「姉君の呪縛から解き放たれたそうだが、生き返らせることができるかもしれないと言ったらどうする?」


「!?」


「選ぶのはエリカであって、僕でもなければ、貴殿でもないけどね」






 四人は丸太に座り、焚き火を囲む。オリキスの左側にエリカ、向かい側にサマラフとカニヴ。エリカの左斜め前に座っているセティナは、仲裁役のように見守る。


 痴情の(もつ)れに似た、物理的な喧嘩に発展しかねない雰囲気の悪さが既に漂うなか、オリキスは話を切り出した。


「アルデバランの娘と契約する際、糸を断つ代わりに、世界にチカラを返す(にえ)になれと言われた。僕の魂を捧げろともね」


 オリキスはサマラフの顔を見た。


「貴殿の英雄たる精神を信じ、エリカの優しさに賭けたのは正しかった」


「謁見の間でも訊ねたが、その優しさに漬け込んでの間違いでは?」


「あのときは意地を張ったけど、今回は認めよう」


「何だと?」


「最終的に、貴殿にとって悪くない話だったろう?家と呪いから解放され、僕のせいでエリカが傷付き、それをキッカケに丸く収まることができたのだから」


 サマラフはオリキスを睨みつけ、太腿の上で拳を作る。


「エリカ。此奴を一発殴っていいか?」


「エリカ。許可していいよ?僕にはされる理由がある」


 やはりこうなってしまう運命。カニヴは止める気がなく、セティナもそれなら良いだろうと、あっさり受け入れる。


 判断を委ねられた彼女は。



「……オリキスさんが生き返るなら、お願いしたいところです」


 殴ったところで何も解決しないのをわかっている。



「……。僕を生き返らせることはできるよ」


「!どうやって?」


「世界に挑んで、勝てばいい」


 サマラフは吐き捨てるように鼻で笑う。


「簡単に言う」


「その前に、僕に勝つのも条件に含まれている。世界に魂を掴まれているからね」


 希望が見えたエリカは小さく頷いた。


「わかった。頑張る」


 しかし、オリキスは真面目な表情で否定した。


「エリカ、考え抜かずに決めてはいけない」


「どうして?」


「君のご両親や、サマラフ卿のお姉さんを生き返らせることもできるんだよ?」


「!?」


「但し、叶えてくれる回数は君とユンリ殿、一人につき一度だけ。過去に戻って時間を修復するのはできない。失った者を復活させて未来に残すことなら可能だ」


 エリカが抱いてきた罪悪感を取り払ったり、欲しかった幸せな時間を再開するために願いを使うのも許される。クリストュルを取り戻して自分だけ幸せになることに抵抗があるなら、他者の幸せを優先してもいい。



「君が僕を忘れたいのであれば、存在した記憶を君のなかから消してくれ。サラが僕を覚えていることが可哀想なら、すべての者の記憶から取り除いていいと思うよ」



 残酷な提案に、エリカは虚な目をして涙を浮かべた。聴きたかったのはそんな言葉ではない。助けに来てくれるのを待ってると言われたほうが嬉しかった。



「話は以上だ」


「!」


 彼は零れる悲しみを拭うことなく、すっと立ち上がる。


「何も叶えたくなければ、世界に挑まなくていい。世界の子どもである神々を倒せば、国々に平和が戻る。

 ただね、解決しないと、君は生まれ変わってもまた同じことに巻き込まれてしまう」


「……オリキスさんは、どうなるの?」


「君が解決するまで魂は囚われる。君が来世で果たせば、僕は用無しとして消滅し、生まれ変わることは無い」


「そんな……」


「君が何を選択しても、君を恨みはしない。返せる物があるだけ良かった」


 エリカがサマラフの記憶を失っていた頃、弱々しくなってるのを好機に捉え、思うがまま愛し、尽くした。すべて自己満足だった。押し付けがましい愛し方しかできなかった。


 後悔は無い。

 断罪してくれるなら、ほかの望みと引き換えにされたい。


 オリキスは最後まで我が儘を貫こうとしている。





「エリカ。追いかけなくていいのか?」


 サマラフは、森の奥深くへと去って行くオリキスの背中を寂しそうに見つめる彼女にそっと声をかけた。


「俺に遠慮しなくていいんだぞ」


「……正しい選択をしたいの。それに、会いたくなったら来てくれると思う」



 だが、エリカの気持ちを裏切るみたいに、オリキスはそれ以降、自分のほうから会いに来なかった。

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