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三人目 フェンリルさん1

「あ、あの。見合い相手ですか?」

 偉そうに宣言したトカゲに向かって私は恐る恐る尋ねる。何故このトカゲは私が見合い相手を探されていることを知っているのだろう。そしてトカゲが持って来る見合い相手という事は、まさか相手はトカゲだろうか。……マジで?


「なんだ? 私は嘘は言わないぞ? 竜以外の見合いがいいと言われたから、ちゃんとそういう相手を探してきた」

 へ? 竜以外がいい? いや。うん。その通りなんだけど。

 でもその話って、グノーさんとしたものだ。だけどまるでこの言い方だと、このトカゲに話したかのようで――。

「グノー。彼女はこの手の魔法をよく知らないから混乱しているようです。コハル。この小さな竜は、グノーの人工精霊です」

「人工精霊?」

 聞き覚えのない言葉に私は首を傾げた。

 精霊というのは、一応知っている。魔力の塊で、肉体を持っていないが自我を持つ存在だ。彼らは知的生命体の中でも、竜よりさらに人間からはかけ離れた存在だ。精霊は自然の中から突然生まれる為、精霊の親子というのは存在しない。

 それでも人工と頭に名のつくような種族は知らない。


「人工精霊は、魔力で疑似的に作った精霊です。人工精霊自体は意識を持たず、製作者の目や耳、口となります」

「そうだ。この人工精霊は私そのものだ。遠隔操作で動かしているのだと思ってもらえばいい。ただし人工精霊は魔法が使えない。使えばその肉体が魔力そのものであるがゆえに崩壊する。だからアクアに護衛を任せたんだ」

言われてみれば、緑と茶色の鱗とか、黒い爪とか、グノーさんもこんな配色だった気がする。グノーさんを縮めたらこんな感じだろうか?

「そうだったんですね。失礼しました」

「いや、いい。それで見合いなんだが、この間10日以後に休みがあるといっていただろ。だからその日にセッティングした」

「えっ?!」

 あの時点で10日後と言っていたのだから残された時間は10日もない。しかもこの休みの日に宝石を換金しようと思っていたので、突然埋まった予定に呆然としてしまう。


「あ、あの。突然お見合いといわれましても、着ていく服がないといいますか……」

「今着ている服で十分だ。必要なのは服ではなく中身だからな。相手だって服など着ていない」

 いや、そうかもしれないですが……。

 グノーさんも服を着ていないので、そういう発言なのは分かるが、人間で考えると少々変態っぽい発言となる。それをどう伝えていいものか分からず、私は口ごもる。

「グノー。そういう発言をするから、奥方に朴念仁やら女心が分かってないやら言われるんです。時間がないのは分かりますが服を着る種族の視点から考えれば、お見合いに着る服を考えるのは当たり前の事です。グノーもデートの前は鱗磨きをするでしょう」

「だが、見合いは早い方が……」

「私がいるのにコハルに何かあるはずがないと思いませんか? それにコハルは、貴方から貰った宝石を換金しなければ、まともなご飯も食べられないのですよ? 換金するのは次の休みの日しかできないそうです」

 お見合い自体を断るのは難しそうだと思ったのに、予想外にアクアさんが私の味方をしてくれた。


「何? ご飯が食べられない?」

「食べていないわけではないですが、美味しい物ではなく、腹を膨らますのを目的とした残念な食事をしています。コハルの体に何かあったら、もうあの魔石は買えないのですよ? 人間は魔素を直接体に取り込む事ができない上に、脆弱なんです。もっといいものを食べさせなければ」

「むむむ。そうなのか?」

「はい。換金はしようとは思っていましたが……」

 いや、あのご飯、結構私の中では贅沢な方なんですよなんて言えない。そこを言い争ってもなにも産まないので、宝石の換金の部分だけ同意しておく。

「それにその宝石商の所で、宝石を魔石に変えた方がいいなら、そういう作業もする予定でしたので……」

 宝石を原石にした魔石は石が手に入りにくいのと魔力の注入に癖がある為、そこらで売られている魔石とは金額面で雲泥の差が出る。魔石は光り輝いてみえる特性がある為、ほのかに発光する宝石はとても美しいのだ。

 しかしあまりに高価なので、買う人は少ない。そうすると需要と供給の関係で、わざわざ宝石を魔石にしない方がいい時もあるのだ。あまりに沢山の宝石が魔石に変われば、価値が下がってしまう。


「そんな事が可能なのか?! 魔力が宿った宝石は天然ものしか聞いたことがない。それですら、希少価値だ」

「はい。癖はありますが、魔石に魔力を込めるのは得意ですので、私はできます。グノーさんが知らないのは価格が下がってしまわないように、あえてあまり量を作っていないからだと思います。基本人間だけで消費しているので、竜の国までは出回りがないのだと思います」

 魔石職人でもできる者は少ないが、私は出来る派だ。過去に、数回その宝石商に頼まれて魔力を注入した事がある。

「なら、頼めば作れるのか?」

「宝石を魔石にするのは時間がかかるので、休みの日にしかできませんが」

 宝石の魔法透過率は、あまり高くないのだ。見た目の良さぐらいしか、いい点はない。

「……分かった。フェンリルには見合い日をその次の休みまで伸ばす様に伝えよう」

「フェンリル?」

「ああ。相手はスノウクイーン山脈のフェンリルの雄で、ヴィオレッティという名前だ」

 グノーさんは何でもないように言ったが、私にとってはかなり衝撃的な内容だ。

 スノウクイーン山脈は、万年雪がある山の一つで学がない私でも聞いたことがある。そしてフェンリル族というのは、実際には出会ったことがないが、確か大きな狼の姿をした一族だったはずだ。

 ……狼。

 その情報だけで、気が遠くなりそうだ。

「竜では大きすぎるし、年が離れすぎていると言っていたからな。その点フェンリル族は始祖以外は小柄だし、寿命も500年程度だ。何より空も飛ばず、歩いて移動をするからそれほど人間と変わらないはずだ」

 小柄って、いや。うん。竜と比べればどの種族だって小柄だ。例え人間より大きくても。


「そんなことより、宝石を魔石にできるのなら、私にも一つ作ってもらえないだろうか? 嫁にプレゼントしたいんだ」

「そんなことって、貴方。だから奥方に女心が分かってないと怒られるんですよ。また何か怒らせたんですか?」

「私が悪いわけじゃなくてアイツが強情なんだ。ただ私も大人げないところがあったのは事実だし、そろそろ家に帰ろうかと思ってだな……」

「コハルはどうなんです? この依頼は引き受けますか? 無理なら断りなさい」

「えっ、あ。宝石はグノーさんにいただいたのがあるので大丈夫です。やります」

 予想を超えた見合い相手に呆然としていると、私の代わりにアクアさんが色々交渉していた。


「ならグノーは、人間のお金で代金を用意しておきなさい」

「むっ。宝石では駄目なのか?」

「換金に時間がかかって使えないんですよ。それぐらい何とかしなさい。それでどの石で作って欲しいんです? 石も貴方の持っているお気に入りの宝石を出しなさい。適当なものを送ったら、また奥方を怒らせますよ? コハルもグノーの奥方に恩を売っておくのはいい事です。素晴らしい石を作って、彼女の心を射止めなさい。そうすれば、例えグノーが貴方に不釣合いな見合い相手をゴリ押しして断りにくくても、この相手は嫌だと奥方に伝えれば大丈夫ですから」

「は、はい」

 アクアさんがトントン拍子で交渉してくれたので、私は頷くしかない。


「私もゴリ押しなどしない。番は大切だから、周りにとやかく言われてなるものではないと分かっておる……」

「貴方の存在自体がコハルには威圧的に感じてしまうんですよ。グノーもこういっていますし、嫌な相手ははっきり嫌と言って断りなさい。いいですか? 絶対妥協してはいけません。違う種族どうしのものですからね。エルフ族よりも、ずっと、生活や文化が違うんですからね」

 アクアさんに言われて、私は頷いた。確かにグノーさんが持って来る相手は見た目だけでなく生活習慣も違いそうだ。生活習慣が違うというのは、中々に大変だろう。きっとどれだけ頑張っても合わせられない事もあるに違いない。

「お前……」

「なにか? 私はコハルが幸せになれるよう、サポートするだけですよ?」

「ええっ。アクアさん。あの、護衛だけでも申し訳ないのに……本当にすみません」

「いえいえ。安心して下さい。私も貴方の結婚相手探しを全力でサポートすると決めましたから。コハルの隣に似合わない相手は弾き飛ばします……物理的に」

 アクアさんって、すごく面倒見がいい方なんだなぁ。

 最初は物言いと美貌で怖かったが、色々助けてくれると言うし、彼のおかげで少しだけ見合いの事も気が楽になった。うん。彼が居てくれるなら、合わない相手と無理やり結婚させられる事もなさそうだ。後グノーさんの奥さんには、私からも魔石をいくつか送らせてもらおう。

 こうして私は、その後の話し合いで初めての見合いを今月の末日と決めたのだった。

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