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十二人目 エルフさんと3

「お前はコハルが好きという事でいいのだな?」

 そうグノーが確認をしてきたのは、コハルがセイレーン族とお見合いをする事が決まってからだった。昼間に伝えに来た時はほのめかすようなことを言っても、ずばりと私の気持ちは尋ねてこなかった。一応グノーなりに気を使ってくれたらしい。……過去の事を暴露した割には。

「そうですけど? それが何か?」

「そうですけどじゃないだろ。見合いはどうするんだ」

「勿論付き添いますよ? コハルが変な相手に好かれて怖い思いをしたら困るじゃないですか」

 ただの友人ならば付き添いするのはおかしな事だが、私は小春の護衛だ。コハルに危険が及ばないように付き添うのは当たり前だ。


「……邪魔する気満々だな?」

「まさか。邪魔などはしませんよ。ただ、私の方が優良物件だとアピールはしますけどね」

 そう、邪魔などはしない。勿論コハルに対して不埒な事をするような人物がいれば、物理的排除する気満々だが、あくまでそういう相手だけだ。

 誰かを貶めたり排除した所でコハルに選ばれるとは思えない。そもそもコハルにとって私は『高嶺の花』状態で、恋人になる選択肢が存在しないのだ。好き好んで高嶺の花になったつもりはないが、実際にそうなのだから仕方がない。だからまずは私の存在になれてもらい、私が高嶺の花ではないと認識してもらうところからだ。

 

「まさかとは思ったが、本当に気に入ったのだな。それにしても早かったな。答えを出すのにもう少しかかるとは思ったが……」

 グノーは私の答えに納得しつつも、驚いている様子だ。確かにこれまで全然そういった話がなかったのだから驚くのも無理はない。

「私も精霊の占いのようなものを受けたんですよ。もしかしたらグノーは初めからコハルを守護するように呼ばれたのかもしれません。精霊は1が全で全が1がという変わった種族ですから。半分精霊族な彼もまた大元と繋がっていてもおかしくない」

「半分精霊族?」

「コハルの保護者のような男がその血筋らしく、無理やり気持ちの自覚を促されましたよ。結果的に良かったと思っていますが」

 無自覚のままならなら、気がついた時には彼女が結婚していたとかあり得たかもしれない。

「そんな男がいるのか。精霊族は一応生き物の分類だったのだな」

それは私も思ったが、実際に存在するのだからそうなのだろう。精霊族も人間と子を成す事ができるらしい。


「……これは私の個人的な気持ちだが、私はお前とコハルで番になってくれるのが一番いいと思う。勿論コハルの気持ちも大切だが、私にとってアクアは子供の恩人であり良い友人だからな」

「なら見合いが上手くいかなくてもグダグダ言わないで下さいね」

 直接的な邪魔はするつもりはないが、コハルに自己アピールをして、見合いは全て破談させるつもりだ。グノーが頑張って見合い相手を見つけてきても骨折り損となるだろう。

「元々フェンリル族との見合い話を持ってきた時から、そのつもりだ。気にするな。それにフェンリル族と顔合わせをした後に少し考えたんだが、コハルは相手を不快にすることがないタイプのようだ。それどころか、見合い話が破談しても好感を持ってもらえている。フェンリル族との状況が特殊だった事もあるかもしれないが、これからの見合いはコハルに危害が加えられないようにする為の顔合わせと考えろ。土竜が懇意にしている人間だと知らせておけば、鱗を持っているだけよりも安全は高くなるだろ。ついでに好感を持ってもらえれば、その種族の中でも安全が確保される」

 確かにコハルは他種族を知らず怯える様子はあるが、相手を不快にさせる行動はとらない。見目が違うために人間によっては相手を侮辱する者もいるが、そういった無知による傲慢さはなく、相手の立場も考えて会話をする。

「それはいいですね。どうせグノーの発言の所為で、コハルは既に注目されてしまっているのですから、隠すよりもいっその事味方を増やしたほうがいいでしょう」

 私だけで守れれば一番いいが、それだけでは穴があるのも分かる。閉じ込めて守るのでないなら、攫いにくい状況にするべきだ。


「どちらにしろ、早めにコハルに告白をしろよ」

「告白ですか? 断られるのは嫌なのですが」

 というか既に何度、圏外的な発言をされていると思っているのだろう。人間の告白は竜のように素晴らしい求婚の舞を見せればOKを貰えるようなシステムではないのだ。とにかくエルフ族になれてもらい、結婚相手になりうると認識してもらうのが先決である。

「嫌っているわけではなさそうだしな。だとしたら男である事を認識してもらうのが先決だろ。だったら、手っ取り早く告白だ。押して押して、押せば、おのずと道は開かれる!」

「……だから奥方に、脳筋と言われて喧嘩になるんですよ」

 グノーは悪い奴ではない。頭も悪くはないはずだが、たまに本気で頭が痛くなる。もう少しデリカシーを学んだ方がいい。これだから奥方に怒られるのだ。


 しかし確かに慣れてもらうだけでなく、男であると認識もして貰いたいところだ。元々私が女性に不自由はしていないと見栄を張るような言い方で、同居による護衛を認めさせた所為で、コハルの中で男と認識されてないのではないだろうかと思う場面もある。

 人間の告白はどういう方法だっただろうか。

 私は使う事はないだろうと思った昔の知識を掘り起こした。



◇◆◇◆◇◆



「月が綺麗ですね」

「そうですねー。今日はお団子みたいに綺麗な満月ですね」

 ……これは伝わってないですよね。

 コハルの仕事の帰り道にサラッと言ってみたが、普通に感想を返された。お団子みたいとか言っているあたり、絶対気が付いていない。

 やはり少々文学的過ぎたか。

 

 人間の文化では、直接的に告白をせず間接的に想いを伝えるものだと人間と結婚した幼馴染は言っていた。

 とはいえ、そういった方法に不慣れな所為で、中々いい言い回しが見つからない。この月が綺麗だというのは、貴方と一緒だと普通の月もより綺麗に見える的な意味だったはずだが……確かにコハルが居なくても綺麗な満月だ。

「この先も、ずっとコハルと一緒の月を眺めたいです」

「いいですね。月見! 人間の国ではお団子を食べる風習とかもあるんですよ」

「……そうなんですね」

 『この先もずっと』が重要部分だったはずなのに、何だか月を眺める方に重点を置かれた気がする。……分かってスルーしているのかと思うが、そうではなさそうなのが余計に辛い。

「エルフ族の国でも月を眺めるんですか?」

「月よりは、星を眺める事の方が多い気がします」

「いいですね! 私、流れ星見たことがないんですよ。流れ星にお願いごとしたいなぁと思うんですけど、流れ星を探す暇があれば魔石作るか寝るかしていて、ゆっくりとした時間が過ごせないんですよね。アクアさんはお願いごとした事ありますか?」

「ないですね。でも今度してみたいですね」

 どうかコハルに告白が通じますようにと星に願いをかければ、少しは届くだろうか?


「何でもできるアクアさんでも願い事はありますよね。私も流れ星を見つけたらアクアさんの願いが叶うようにお祈りしますね。あ、でもこれって口に出したら駄目でしたっけ? 神様も今のはノーカンにしてくれないかなぁ」

 この言葉で、願い事はコハルに好きだと伝えたいという内容だと伝えることができなくなった。しかも私の願いは叶わないようなフラグが立った気がする。人間の神様が鬼畜でないことを祈るしかない。



 こうやって日々、想いを伝えようと頑張ってみているが、全てはスルー続きだ。やはり人間の神様は鬼畜なのかもしれない。

 例えば、ある休みの日。

「コハル、付き合って下さい」

「ああ。今日は服を買いに行く約束でしたよね。いいですよ。アクアさんも服買いましょう?」

 確かに今日は見合いに行くための服を買いに行く約束をした日だ。でもこの付き合って下さいは違う意味である。しかしこのいっそ天晴なスルーを前に、さらに言葉を重ねて告白するのをあきらめ、今日のデートを楽しむことにした私も悪いのかもしれな――いや、悪くないですよね?

 コハルの先輩が言っていた、複雑奇怪な思考回路によりゴールインは誰が相手でも難しいという言葉が身に染みる。

 コハルとのデートは楽しかった。お互いに似合う服を選びあい、家で使うおそろいのマグカップを買った。更にコハルが私の為の魔石を入れるお弁当箱をプレゼントしてくれて幸せだ。

「この服を着て、お見合い頑張りますね」

 そしてこの幸せいっぱいの気持ちを、持ち上げて一気に落とされる。そうだ。最初からこのデートはお見合いの為の服選びだ。誰かに可愛いコハルを見せびらかす為のものだ。

 しかし今まで楽しくデートをしていてこの言葉でしめられると、圏外なのだと強く認識させられる。デートの最後に告白なんて甘い雰囲気を出す隙さえもらえない。


 幸いなことに、セイレーン族との見合いでは、セイレーン族の方から身を引いてもらえた。……若干わざとだが、コハルと終始手を繋いで見合い会場に行って良かった。その姿を見て、現状を理解してもらえたようだ。

 邪魔し過ぎてる感もあるけれど、セイレーン族の見た目は人間好みなので、心配だったのだ。

 ……それでいくと、エルフ族だって人間好みの顔のはずだけど、どうしてこうも上手くいかないのか。


「コハルの作った味噌汁を毎日飲みたいです」

 今日も今日とて告白だ。私が真剣な顔で言うと、コハルも真剣な顔をした。これはもしかして伝わった――

「味噌汁は塩分が高いんです。美味しいかもしれませんが、普段それほど食物を食べないエルフ族の方が毎日飲むと、もしかしたら浮腫みとか出てしまうかもしれません。そうなったら、世界の損失です」 

――わけがなかった。

「……コハルは優しいですね」

「そうですか? 私はアクアさんが大切なだけですよ?」

 何だろう。

 毎日すごく振り回されている気がする。でもコハルの特別な位置に居るような言葉は、凄く嬉しいのだ。伝わって欲しいけれど、こんな毎日も悪くはないと思ってしまう。

「私もコハルが大切です」

 コハルは顔を真っ赤にして照れているが、多分上手く伝わっていないんだろうなと、経験で分かってしまう。それでもいつか伝わればいいと思い、今はこのぬるま湯のような幸せの中で私は笑うのだった。

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