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第三十八回 こんな夢をみた 虎とヨークシャーテリアと修羅の門


こんな夢をみた。


夜の街を歩いている。

外灯は少なく、明るい場所は店内の灯りが漏れているコンビニの前だけだ。

そんなコンビニの前を通っている時、騒がしい物音に目をやると、何かの獣が二匹、格闘を繰り広げている。


一匹の小さい方は虎柄の猫だった。

それを追いかけている大きい方は虎だった。

こんな住宅街に虎がいるとはと驚いていると、コンビニの中から店員が出てきて猫と虎を引き離しにかかる。


主に虎の尻尾を掴んで引き離そうとしている。

よくよく見てみると、虎の方が猫に翻弄されていて、店員がなだめているのも虎の方だった。



こんな夢をみた。


夜の街を歩いている。

外灯は少なく、明るい場所は店内の灯りが漏れているコンビニの前だけだ。


先ほどの猫と虎とが死闘を繰り広げていたコンビニとは違う別のコンビニが見えてきた。

コンビニの前を通り過ぎようとした時、一匹の獣が私の足元に現れたのである。


それは犬であり、犬種はヨークシャーテリアである。


ヨークシャーテリアは私の足元をぐるぐると回り、一度だけワンと吠えた。


「悪いけど、連れて帰るわけにはいかないんだよ」


私はそう言うのだけれど、ヨークシャーテリアはいつまでたっても離れる事はなく、私の足元をぐるぐると回り続けるのであった。



こんな夢をみた


道場には大勢の入門希望者が殺到していた。

同様にスポーツ新聞の記者達もである。

理由は簡単な事である。


全日本異種格闘技トーナメントで名だたる格闘家達を打ち破り、優勝した私の凱旋の日であったと言う事で、私がお世話になっている道場に腕自慢達が集まってきていて、その様子をスポーツ新聞の記者達が取材に来ているのである。


私と組み手をしたければ、その道場に入門するのが手っ取り早いという事で、入門者が殺到しているのであるが、道場主の北上さんは、道場のキャパを越えるとして、ガラの悪そうな私との対戦を望む連中を中心に断りを入れている。


同様にマスコミを外に追い出した。

それとは別に、小学生やら年寄りの入門は認めていた。

金儲けではないのである。


「じゃぁ、お願い」


そう言って、北上さんは私に一人の小学生男子を割り当ててきた。

一宿一飯の恩は返さねばならない。

少年に聞けば、テレビで私が戦っているところを見て、対戦を希望しているという。


幸先有望な少年である。


「道着がないな。せめて下だけでもあればいいんだけれど」


私は少年に会う道着を捜して道場の中を歩き回る。

ちょうど良いのがないので、私が練習用に使っているジャージの半ズボンを貸してやると、ちょうど少年の足首まで隠れる長さだった。


「さて、何から教えたものかな」


全日本異種格闘技トーナメントで優勝しているとは言えど、指導者としての経験は皆無である。

何から教えたらいいのかが解らない。

北上さんに相談すると、


「じゃあ、組み手を観てもらおうか。ボクとキミの」


そう言って微笑む。


北上さんはもう50を越えて、競技者としては引退しているとは言え、過去に全日本異種格闘技トーナーメント5連覇や、海外の何でも有りの大会で優勝経験もある強者である。

裏の大会で、水の抜かれたプールの中で戦ったグリズリーとの試合は伝説となっている。

そんな実力者と私の組み手を見れるのは、何という幸運な少年だろう。


「リングサイドのテーブルで、試合を見ながらフランス料理のフルコースが食べられる様な席だよ」


私は少年にそう言う。


「おいおい、わたしはもう現役じゃないんだ。時間は三十秒。寸止めで頼むよ。痛いのは嫌なんだ」


北上さんは、そう言っておちゃらけるけれど、もう目が笑っていない。

真剣な表情だった。


「じゃ、三十秒で」


お互いに礼。


組み手が始まる。


私の上段蹴りが、北上さんの右頬に当たる直前に止まる。

北上さんの右中段突きが私の左胸に触れる前に止まる。


お互いに当たる事のない突きと蹴りを繰りだしていく。

少年は目を輝かせて見ている。


「おい、北上と試合してるぞ!!」

そんな誰かの声が聞こえて、マスコミが道場になだれ込んできた。



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