夢日記
こんな夢を見た
新年を迎えたばかりの1月1日午前1時。
初詣に向かうために僕は家を出る。
気温は氷点下-10で、積もった雪を踏みしめると雪が鳴く。
カウントダウンを見ながら酒を飲んでいて、いい具合に酔った僕の耳には心地よく聞こえる。
地元の神社に新年早々集まると言う決まり事ができたのは、中学三年の時で、
それ以来、中学時代のクラスメイト達の、懐かしい顔を見るために出かけていく。
そんな行事も、5年、10年、20年と時を重ねると、集まりも悪くなるのは当たり前のことで、
20年目の去年なんかは、とうとう誰とも合うことはなかった。
だから今年は中学時代の制服を着て出かける事にした。
メタボリックなお腹周りは、中学時代のズボンは履けなかったので似たようなグレーのスラックスを履いた。
ワイシャツは何とでもなり、その上に着る紺のブレザーは前のボタンを留めなかった。
首も太くなったのか、当時の青いネクタイは長さが足りない気がしたけれど、何とか結べた。
神社に着くと、初詣客で賑わっていた。
知った顔はいないかと、うろうろ歩いていると僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。
見ると中学時代に仲の良かった加藤君が手を振っていた。
僕と同じようにただのオッサンになっていて、そして中学の制服を着ていた。
横には同じように制服を着た委員長をしていた山田さんや、ムードメイカーだった杉田君、そして当時好きだった田中さんもいた。
「ひさしぶりだなぁ」
僕は近づいて行って話しかける。
みんな元気なようだった。
「じゃ、走るか」
突然、杉田君がそう言った。
「え?なんで走るの?」
僕は聞いた。
「長寿を願って願掛けみたいな。よくあるじゃん。お祭りとかで」
「……いや、俺、けっこう飲んでるからパス……」
「なんだ、仕方ないなぁ」
そう言うと、一同は移動を始めて、祭殿の中に入り、お払いをしてもらっていた。
僕は祭殿の中に入らず、遠くからその様子を眺めている。
お払いが終わると、走るためにスタート地点に移動すると、観衆の中、スタートの合図と共にどこかに向かって全速力で走り抜けていった。
僕はそれを見て、まだ明け切らない夜の道を一人で帰ることにした。
こんな夢を見た。
両親姉弟を交通事故で亡くした16歳の僕は、某国に移住した父方の親戚の所に引き取られることになった。
日本を発ち、現地の空港に付いた僕を、叔父が経営する寿司チェーン店で働く日系三世のデリンジャー・キョウコ・ヤマガタさんという若い女性が出迎えてくれた。
彼女の運転する車に乗り、親戚の家に向かう。
これから行くのは父の従兄弟である大二郎叔父さんのところで、まだ一度も会ったことはなかった。
キョウコさんにどんな人か聞いてみると、キョウコさんは笑いながら
「シュセンドデスネー。デモ、ショクニンサントシテハイチリュウデスシ、オカネヲモテイルカライイヒトデス」
と言った。
僕がこれから暮らすことになるこの国は赤道直下近くで、年間を通して気温が高く、そして貧富の差が激しく、何ヶ月に一度はクーデターが起きたりするような政情不安定な国だけど、キョウコさんはお金がある人には住みやすい国ですよと言うので、それはどこの国でも同じじゃないですかと僕が言うと、それはそうですねと笑って答えた。
低所得者層の住む住宅地を抜けると高い壁が見えてきた。
入り口らしき門の所には自動小銃を持った門番が数人立っていた。
「アノナカガコレカラアナタノスムバショデス」
そう言ってキョウコさんが門の所で車を一時停止して通行パスを門番にみせると、門が開いていき車は中に入った。
高い壁に囲まれた中には、家が10件ほど立っており、公園などもある。
キョウコさんによるとそれらの家には大二郎叔父さんの一族がそれぞれ暮らしているとの事だった。
中でも一番大きい屋敷の前に車を止めるとキョウコさんが言った。
「ココガカイチョウノゴジタクデス。アナタガスムトコロデスヨ」
屋敷に通され、僕は大二郎叔父さんに会った。
叔父さんはこれからの生活のことは何の心配もいらないし、好きなように生きて良いと言ってくれた。
夜には僕のために一族が集まって晩餐となり、叔父さんの子供達の紹介をしてくれた。
長男 伊知朗 車販売店オーナー
次男 次郎 寿司チェーン「いらっしゃい」営業部長
三男 三郎太 居酒屋「あまいもん」グループ副社長
四男 四朗 ラーメン「四朗さん」グループ社長
五男 吾朗吉 大学生
六男 陸朗 寿司チェーン「いらっしゃい」職人見習い
長女 和子 専業主婦
次女 真知子 デザイナー
三女 桜 小学生
六男の陸朗とは歳が同じで、すぐに仲が良くなった。
一日が終わり、与えられた部屋に戻り、ベッドに横になると、この国での日々を考えるうちに眠いに付いた。
2009/09/17に見た夢
暗い夜の道を自分は車を運転して走っていた。
自分の車のヘッドライトだけが、道を照らし、その先は星明かりもなく見えない。
なぜそんな所を走る事になったのかは解らないけど、きっとその先に我が家があると思っていた。
バックミラーに赤い光が見えた。
よく見るとそれはパトアーの赤色灯で、スピーカーから「前の軽自動車、止まりなさい」と言われたので車を止めた。
車を止めて待っていると、パトカーから警察官が降りてきて、窓を開けるようにと言う合図をしたので窓を開ける
「……こんなところで、何をしてるの?」
「いや、止まれと言うから止まりました。何か?」
「この道は封鎖されているんだけど、どこから入ったの?」
「どこって、普通に走っていたんですけど、封鎖って何があったんですか」
「この先で蛾が大量に発生していて、スリップ事故が多発しているんだよ
2009/09/21に見た夢 幼なじみ と マティンゴ
幼なじみ
「こんばんわ」
そう言いながら、窓から入ってきたのは幼なじみのスミレちゃん(仮名)だった。
僕らの住む家は二軒屋で、同じ建物に二世帯が入っていて、片方が僕の家族で、もう片方がスミレちゃんの家族が住んでいた。
「……もう、お互い37なんだから、窓から入ってこなくても」
僕はそう言った。
「37にもなって、エロアニメで一人エッチするのはやめなさいよ。それより何より、そのちんちんをしまいなさい」
スミレちゃんはそう言うと、エロアニメがかかっているDVDプレイヤーを止め、僕のDVDライブラリーから映画を探す。
「エロDVDばっかりね。しかもロリ系の。もっと普通の映画はないの?」
「あるけど、微妙な感じかな?安岡力也出演の山岳パニック物とか。安岡力也が襲ってきた雪男とかと戦うんだけど」
「たしかに微妙ね。他には?」
「もう何度も見た『さらば青春の光』か『レオン』ならあるけど」
「じゃあ、マチルダの出ていない『さらば青春の光』でいいわ」
僕はDVDを探しだし、プレイヤーに挿入する。
僕はスミレちゃんの横に座り、映画が始まるのを待った。
僕らが出会ったのは32年前で、僕の家族がこの家に引っ越してきた時に出会った。
歳が同じだった僕とスミレちゃんはすぐに仲良くなり、いつも一緒だった。
幼稚園、小学校、中学校を同じ所に通い、高校から別になった。
そして時を同じくして、彼女は引っ越していった。
それから二十年近く経ち、彼女は戻ってきた。
結婚して、旦那さんや子供と、かって自分が住んでいた場所に引っ越してきたのだ。
その旦那さんや、子供はもういない。
離婚して、出て行ったのは三年も前になる。
今では彼女一人でその家に住んでいた。
僕は引っ越しも結婚もすることなく、もちろん彼女もいないまま過ごしていて、何の変化もない37年間だった。
もちろん、スミレちゃんを異性として意識した事もあったけど、それは小学5年生から中学2年生にかけての思春期真っ盛りの頃の話で、もちろん振られてしまったのはトラウマみたいな物なのかも知れず、それが今の性癖に繋がっているのかもしれないと思う程度だ。
二人で映画を見ながらビールを飲む。
特に会話もなく、時間だけが過ぎていき、窓の外を見ると空が青白くなり始めていた。
映画は終わり、スミレちゃんは立ち上がると、そろそろ帰ると言った。
窓を開け出て行くときスミレちゃんは見送る僕に言った。
「これは夢なのよ。もうこの家も壊されて無いし、あなたも別な場所に住んでいて、私も別な場所に住んでいる。離婚もしてなければ夫婦仲も良く、子供も三人いて幸せに暮らしているの。あなたはまだ独身で、恋人もなく、エロ漫画とエロアニメが大好きで、最近はまっているパチンコで借金がある生活を送っているんだろうけど、もっと普通の幸せを探しなさい」
彼女はそう言って帰っていった。
マティンゴ
マティンゴ・ベドルスは11歳の男の子で、比較的裕福な家に生まれ育った。
それは彼の国ではとても幸運な事で、路上生活で産まれてまもなく死んでしまうか、それとも二十歳までに半数が、麻薬か、拳銃によって死んでしまうこの国の平均寿命に関わる事はなかったからだ。
生まれついての勝ち組で、父親は政財界の重鎮相手に弁護士をしていたし、母親はピアニストで世界中を駆けめぐっている。
マティンゴもいずれは父の後を継ぐか、父の人脈を生かし政治家への道を目指す事になると思われた。
年に何度かクーデターの起きるこの国では、軍部との繋がりも重要な事で、そのあたりには親戚筋が数多くいるので特に問題はなかった。
順風満帆な日々を過ごすと思われたある日、マティンゴの体に異変が起きた。
12歳の誕生日に親戚一同が集まってパーティが開かれていたのだが、マティンゴがケーキに乗ったロウソクの炎を吹き消した瞬間、マティンゴの体が赤い光りに包まれ、マティンゴが消えた。
突然の失踪に、誘拐説なども流れたが、家族の捜索も空しく、マティンゴが見つかる事はなかった。
それから30年後。
かっての軍事政権下で栄えたが、今は没落した大金持ちの家に、日本から仕事の関係でやってきた一家が住み着いた。
その長男である僕は12歳で、明日から地元の中学に通う事が決まっている。
緊張と不安からか、眠れないのでジュースを飲みに居間に降りた僕は暗闇の中で、赤い光を見つける。
その光りの中から、一人の少年が現れた。
「気味は誰?」
僕は話しかけた
「僕はマティンゴ。12歳だ」
と、マティンゴが言ったらしいのだけど、現地の言葉はまだ解らない僕は、彼が何を言っているのかまったくわからなかった。
こんな夢を見た 2009/10/18
海沿いの坂の多い町に暮らす僕は、夢の中で印刷会社で働いていた。
印刷会社というのは、一年の中でもいま時期が一番忙しい時期で、徹夜続きだったのだけど、そんなさなかに社員旅行を控えていて、それに合わせて会社を休みにするために、スケジュールがキッチキチに詰まって来るという悪循環を迎えていた。
朝7時半には家を出る。
と言っても、帰ってきたのが朝方の5時半だったので、寝る暇などはなくて、シャワーを浴びて着替えただけだった。
空は秋晴れの雲一つ無い快晴で、このまま知らないどこかに行きたくなったりする気分なのだけど、そこはグッとこらえて会社に向かう。
長い長い坂道を上りきった所に会社はあった。
反対側を見ると、坂の下には海が広がり、景色だけは死にたくなるほど綺麗な場所だった。
中に入れば前夜から働き詰めの同僚達が死人のような生気のない顔で仕事をしていた。
もう三日も家に帰っていない工場長がしくしくと泣きながら断裁機で印刷物を切っていた。
「おはようございます」
僕が工場長に挨拶をすると、工場長は一度だけ視線を向けて黙ったままうなずいた。
そこで毎日の日課というか、持病というか、お腹が急に痛くなったのでトイレに駆け込んで個室に入る。
ズボンとパンツを降ろし終わると同時にドバトバと柔らかいウンコが流れ出た。
見ると白いウンコだった。
体のどこかが悪いのかと思ったけど、今日も漏らさなかった事に安堵しながら、自分の持ち場である印刷工場へと向かう。
ほんの数時間前まで動いていた二台の印刷機は電源が落とされていて、僕の他にまだ誰も出社してきていなかった。
だけど機械の稼動熱が工場の中に充満していて、何もしていないのに汗がダラダラと流れ落ちた。
印刷機を立ち上げ、機械の周りを掃除しているうちに人が揃い始めた。
二台の印刷機の片方の機長である山田課長に「こんな辛い思いしてまで、この糞忙しい時期に社員旅行に行かなくたっていいじゃないですかね」と話しかけた。
「しらねぇよ、俺に言うな。とりあえず、今日こそは早く終わらして帰るぞ」
山田課長はそう言うと印刷機を回し始めた。
しかし、一日の作業予定表を見ると、すでに朝コースは決定していて哀しくなった。
「東村山さん(仮)、至急事務所まで来て下さい」
社内放送で呼ばれたので、事務所に向かう。
何事かと思って事務所に行くと、カウンターの向こうに中学時代の同級生で、好きになり告白もした千石瓦さんが赤ん坊を抱えて立っていた。
「ひさしぶりね東村山君」
「そうだね。そういえば結婚したんだってね」
「うん。そして今年の始めに産まれたのがこの子。さゆりっていうのよ」
「そう。それで今日はどうしたの?」
「だんなが焼肉屋を始めたんで、チラシを作ってもらおうかと。そう言えば東村山君が印刷会社で働いていたなと思って来たの」
「あぁ、うちは制作からやっているから出来るよ。それじゃぁ、営業に紹介するよ」
僕は営業部長に話を通し、店名などのチラシに織り込む事を話し合う為に、デザイナーと千石瓦さんが応接間に行った。
僕はその間、さゆりちゃんを預かって、抱き上げていた。
さゆりちゃんはぐっすりと眠っている。
「似合うなw」
社長が事務仕事をしながら僕の方を見ながら笑った。
「そんな事はないですよ。やめてくださいよ。僕はまだ独身で、彼女だっていないんですから」
僕はそう言って背中を向ける。
さゆりちゃんが起きた様で、声を出して泣き始めた。
僕は腰から下が濡れた感じがしてきたので、見てみるとさゆりちゃんが漏らしていた。
それは赤ちゃんのおしっことは思えない量で、吹き出していた。
「あらあらあら!!御免なさいね、東村山君!!この子、ちょっと量が多いのよ。オムツをしても間に合わないの」
「ちょっとじゃねーよw」
着替えがあったので僕は着替え、チラシの打ち合わせが終わった千石瓦さんは、何度も僕に謝りながら帰っていった。
それから二日ほど忙しくて帰れなかった僕は、二日後の昼に釈放されて家に帰る事になった。
帰りついでに千石瓦さんの旦那さんが経営する焼肉屋さんに、刷り上がったチラシを届ける事になっている。
帰り道、ゴミステーションに木製バットが棄ててあるのを見つけたので手に取ってみた。
今なら何でも出来るような気がした。
ブンブン振り回しながら歩いていると、焼肉屋の看板が見えてきた。
「こんにちは、チラシを届けにまいりました」
そう言いながら中にはいると、何か様子が変だった。
「東村山君!救急車を呼んで!さゆりの様子がおかしいの!!」
そう泣き叫ぶ、後ろに旦那さんに抱かれたさゆりちゃんからオシッコが噴水のように吹き出していた。
それから5年間の闘病の末にさゆりちゃんは亡くなった。
葬儀に参列した僕は、千石瓦夫妻と後に産まれたさゆりちゃんの弟の珠一郎くんに挨拶をして会場を後にした。
2009/06/15に見た夢
小学生の自分はインドの地にいた。
照り付ける太陽は風を焼き、そんな中でも生きる人々の群れの中に立っていた。
「こんなところにいたんだ」
日本語が聞こえたので声のした方を見ると、そこには自分より、少しだけ年上の長い黒髪の少女が立っていた。
「だめじゃん。迷子になっちゃうわよ」
彼女はそう言うと私の手を取り歩き出す。
半袖のTシャツの袖から出た腕は、日本人の中でも白い方と思われ、その白さは周りの住民達の中で浮き上がる様に見えた。
「どこいくの?」
私がそう聞くと、彼女は良いところとだけ言って笑った。
町の外れまで行くと、海が見えた。
「ほら、あれよ」
彼女が指さした先には、いくつもの奇妙な形をした岩が、微妙なバランスで積み重なっている場所だった。
そこは彼女が言うには世界遺産にもなっているという奇岩地帯だそうだ。
観光地らしく、ショッピングモールもあって、その中に入っていく。
上へ、と階段を上がり続けると、屋上に出た。
屋上から奇岩地帯を眺める。
「奇岩地帯を挟んで向こうにあるのが神さまの洞窟って言われているところよ。何でも奇岩地帯の岩の上を伝ってたどり着くと、何でも願いが叶うんだって。じゃあ、私から行くから」
そう言うと彼女は屋上の柵を乗り越えて、一番近い岩の上に飛び乗った。
高さは地上から20メートルはある。
飛び移った岩が激しく揺れていた。
仕方ないから自分も飛び移る。
着地したけど、足下が揺れ岩の上にしゃがみこむ。
「サクサク行くわよ」
そう言って、彼女が次の岩に飛び移った瞬間、彼女の足下の岩が崩れ落ちた。
彼女も落ちた。
下を見ると砂埃が巻き起こり、それが落ち着いてきて彼女の姿が小さく見えた。
手足はそれぞれ別の方向に変な風に曲がり、周りには血が飛び散っていた。
首もおかしな方向に曲がっていた。
僕は必死になって彼女の名前を呼んだ。
返事はなかった。
それから数年が経ち、日本のどこかの病院で僕は意識不明のままの彼女が眠るベッドの横に腰かかけながら、あれからずいぶん経ったんだなぁ、などと思っていた。
こんな夢を見た2009/10/3
世界の果てで始まった戦争は激しさを増し、ついに国民総動員令が政府より発表されて、僕の元にも召集令状が届いた。
部隊に集合するのは一週間後で、同じように召集令状が届いた中学のクラスメイトから連絡があり、同窓会が温泉場で開かれる事になった。
すでに中学卒業から7年の歳月が経っていたので、みんな成人して中には結婚し、子供までいる元クラスメイトもいた。
そんなクラスメイト達は家族同伴で同窓会にやってきて、宴は始まった。
報道によると戦火は激しく、この中から生きて帰れるのはどれくらいいるだろうかと皆、思っているのだけど、そんな事を振り払うように、飲んで歌って過ごした。
「山田君はどこの部隊に?」
僕にそう聞いてきたのは、中学時代に好きで告白もした木村さんだった。
すでに二度結婚しているので、名字も変わっているのだろうけど、僕はその名字を知らないので木村さんと呼ぶ。
「陸軍上篠路第三歩兵連隊だよ。僕らが通っていた高校のすぐ近くに駐屯地ができたんだ」
「そう。私の最初の旦那さんは戦死しちゃったけど、山田君は死なないでね」
返事に困ったけど、僕は笑顔で返す。
「今の旦那さんは?」
「出征してもう半年になるわ。医療兵なのよ」
木村さんはそう言って寂しそうに笑った。
「戦争なんて早く終わればいいのよ。ずっと遠くで始まった戦争なのに」
「そうだなぁ。でも、すぐに終わるさ。終わらない戦争も無いよ」
その日は大広間にみんなで蒲団を並べて寝た。
僕の隣には木村さんが寝ていて、ずっと手を握ってくれていた。
部隊に出頭する日、同窓会で同じ部隊に出頭するという事が解ったトシと駐屯地前で待ち合わせた。
トシは小さい頃に煩った脳腫瘍の手術の後遺症で左半身にマヒが残っていた。
それでも小学校と中学を普通の学校で過ごし、高校には行かないで職業訓練学校に進んでいたのだけど、定職には就いた事が無かったようで、すなおに陸軍に就職できることを喜んでいた。
部隊に入隊し、銃の使い方など、兵隊として最低限の訓練を受けた4日後、僕らは訓練期間を終了し、前線に配備される事が決まった。
始めての実戦。
始めての戦闘。
敵の攻撃が激しく、塹壕に釘付けにされた僕らの小隊は全滅の危機に瀕していた。
僕の隣には銃弾を受け、腹部から血を流しているトシが横たわっていた。
大丈夫かと声をかけるが、爆音が激しく声は届かない。
だけど、僕の口の動きを読んで何を言っているのかは大体解ったようで、額に脂汗を浮かべながら大丈夫と口を動かした。
一時、敵の銃撃と砲撃が止み、戦場に静寂が訪れた。小隊長がその静寂を破り叫ぶ。
「総員突撃!前へ!!」
トシも起きあがり、僕と共に銃を構え敵に向かって突撃を開始した。
敵の銃撃と砲撃が再開される。
トシの頭半分が銃撃でいろんな物を巻き散らかしながらはじけ飛ぶのを見たが、自分は前に向かって進むしかなかった。
長い長い戦争は終わった。
各地を転戦し、国に戻ったのは6年後の事だった。
国土は荒廃し、かって住んでいた家に行ってみるとそこにあるのは瓦礫の山ばかりで、その中に両親と、姉弟、そして姉の息子である甥っ子が暮らしていた。
除隊するときにもらった食料を母親に渡すと飯を食うのは3日ぶりだと言った。
父親はすっかり体を壊していて寝たきりの生活を送っており、白髪も増えて年老いていた。
「これからどうする?」
と、横になったまま父親は言った。
「とりあえず、仕事でも探すさ」
そう言って僕は瓦礫の家を出て、帰還兵で賑わう近所の闇市に出かけた。
知った顔はいないかと、雑踏の中を見回したが、誰も見つける事はできなかった。
歩くのにも疲れ、腹が減ったので立ち並ぶ屋台ののれんを潜り椅子に座る。
「とりあえず、ビールと焼き鳥、Pトロ串とライス」
串焼きの網の向こうに起っていたのは7歳くらいの女の子だった。
「へい!お待ち」
女の子がジョッキに注いだビールを渡してくれた。
「……君がこの店をやっているの?」
「まさか、お母ちゃんがやっているんだけど、いま買い出しにいっているの」
そりゃそうか、と思った所に女の子のお母さんが戻ってきた。
「ごめん、ごめん、はい、ご褒美」
母親はそう言って、娘の口の中にあめ玉を押し込んだ。
微笑ましく見てると、その母親が木村さんである事に気が付いた。
僕がびっくりしているのに木村さんも気が付いて、
「や、山田君?」
と、驚いていた。
木村さんは億から僕の隣にやって来ると、僕の両手を掴んで泣きながら笑っていた。
「生きて、帰って来れたんだ」
「あぁ、なんとか」
その様子を見ていた女の子が言った。
「なに?お父さん?」
木村さんは女の子の方を向いて笑顔で言った。
「どうでしょう?」
僕は言った。
「なんもしてないじゃん」
2010/01/02に見た夢 噺家
こんな初夢を見た
落語家の泉屋一門に弟子入りした私は、師匠代理である泉屋花子師匠の付き人として、修行の日々を過ごしていた。
師匠代理というのは、本当は泉屋花子師匠の実の父親で、芸の師匠でもある泉屋金吾郎師匠の所に弟子入りしたのだけども、いつの頃からか行方不明になったので、姉弟子である花子師匠に拾われたのである。
花子師匠は、師匠と言っても私より10も若く、べっぴんさんで人気もあり、寄席の他にもテレビ番組にも出たりしてお茶の間にも人気がある。
まだ二十代のお嬢さんだ。
「金苦朗さん、出かける用意は出来ました?」
今日もテレビ出演があり、私はそれに同行する。
「はい師匠。仕度は全て整いまして、いまタクシーを呼びました」
自宅の居間で着付けの終わった花子師匠が携帯でメールのチェックをしているので、私はお茶を出した。
「ごめんなさいねぇ。せっかく入門してくれたのに、身の回りの事ばっかりで」
「いえいえ、師匠の日ごろの立ち振る舞いを見る事からが日々の修行でもありますし」
「せめてお父さんがいてくれたらねぇ」
金吾郎師匠は私が入門した次の日から、旅に出ると言う書き置きを残して失踪してしまい、もうすぐ一年になる。
タクシーが来て仕事場に向かう。
年末、年始の番組を収録するので、ここ最近は忙しい日々が続いている。
年が明け、一門勢揃いで年始の事始め会が、泉屋花子師匠の自宅で行われた。
元旦は朝から一門総出で食事をすると言うのが恒例になっている。
その中心に金吾郎師匠がいた。
「いつ帰られたんですか、師匠?」
そんな声が弟子達の中から挙がる。
「今だよ。たった今、帰ってきたんだよ」
金吾郎師匠はそう言って、豪快に笑う。
一年前と何も変わらず、非常に元気そうだ。
「おれ金吾郎師匠を見るのを初めてです」
そう言ったのは、弟弟子の金痔朗だった。
「私も間近で見るのは今回で2度目ですよ、金痔朗さん。なんせ、私が入門した次の日にいなくなったんですから」
私はそう言いながら、花子師匠を見ると、花子師匠は鬼の形相で金吾郎師匠の前にやって来ると、金吾郎師匠の襟首を掴んで隣の部屋に行き襖を閉めた。
「な、なにしやがる?師匠の襟首掴んで引きずり回すとは、どう言うこった?」
金吾郎師匠の怒鳴り声が聞こえた。
「行方不明になっておいて、師匠もへったくれもないわよ!どれだけ心配したと思っているのよ、お父さん!」
それに負けじと花子師匠の怒鳴り声が聞こえた。
「どうしましょう、おかみさん?」
金吾郎師匠の妻であり、花子師匠の母であるおかみさんに聞くと、おかみさんは何事もないような顔でみそ汁を一口飲むと、
「さぁ、あっちは放っておいて、みんな食べてちょうだい。せっかくのお料理が冷めちゃうから」
と言った。
2010/04/05に見た夢 恐竜大戦争
西暦20××年。人類は絶滅の危機に瀕していた。突如現れた謎の恐竜たちによってその生命を脅かされる事態になったのである。世界各地で恐竜たちとの闘いが勃発し、各国は一致団結してその対応にあたったが、その劣勢を覆すことが出来ずに崩壊し、滅亡していく国々が続出したのである。日本もその例外ではなく、自衛隊、在日米軍、警察が奮闘したが、すでに組織的な闘いは機能せず、国民から徴兵された名も無き兵士達が孤立無援の戦闘を繰り広げていたのである。私もその一人であった。
「くそ!囲まれたぞ!!」
手にした70㎜自動小銃を手にした腕には、疲労と追いつめられているという精神的緊張がかさなり、重く感じられていた。実際重かったのだが、恐竜相手の武器ともなると、それくらいの大きさがなければ意味がなかったのである。走り回っていたのは国内の地方都市の来たにある住宅街だった。すでに住民達は待避しており、聞こえるのは銃撃の音と悲鳴と、恐竜の咆吼だけである。私は民家の塀に身を隠すと、同じ三条六丁目小隊の同僚である年下の山下二等兵に悲痛な声で叫んだのだった。
「戦力比は1対9。圧倒的です。応援を呼びましょう!!」
山下は半泣きでそう言っていたが、それは出来ない相談だった。
「そうしたいのは山々だが、通信兵の木村がこの前の戦闘で体半分喰われて死んだ。無線機がないから応援も呼べない」
それに、おそらく本部にも応援をよこすような余剰戦力はもうないだろう。
「敵陣を中央突破するしかない」
山下二等兵の顔に絶望の色が浮かんだ。
「伝令!!」
そう言ってやって来たのは近くを探索しに出していた斥候の上松一等兵だった。
「どうだ、何かあったか?」
「近くに工事中になっている、地下鉄の駅がありました。中は開通していると思われます」
私はその工事中の地下鉄トンネルを抜け、包囲網を突破する事に決めた。
「上松、案内しろ。山下、それまでは何とか持ちこたえるんだ」
上松は先頭をきって歩き出し、山下も覚悟を決めたようだった。
突然の咆吼。気が付けば目の枚にティラノザウルスが忍び寄っていた。
「撃て!!」
私達三人は地下鉄の駅を目指しながら、自動小銃の引き金を引いた。大口径の銃が火を噴く。
薬室から飛び出した空薬莢が地面に落ちて乾いた音を連続して立てていた。
「残りの弾は?」
「6000発ちょっとです」「自分もそれくらいです」
山下と上松が答えた。
「くそ、フルオートで撃ったら、5分も持たないじゃないか」
私達は物資に不安を覚えながら、肉塊と化したティラノザウルスを横目に地下鉄の駅を目指した。
途中、プテラノドンやステゴザウルスとの戦闘を経て、私達は何とか地下鉄の駅に到達した。
地下に降りる階段を下り始めたその時、一番後ろを歩いていた山下の絶叫が聞こえた。振り返るとマメンチサウルスに襲われ、右腕を失っていた。
「山下!!」
わたしはそう叫んで銃を構える。
「行って下さい、隊長!!ここは自分が引き受けます」
山下はそう言うとウエストバッグから手榴弾を取り出し、ピンを口で抜いた。
「すまん!!山下!!」
私と上松は地下鉄の構内目指して走り出した。少しして爆音と爆風が背後からやってきたのだった。
2010/06/19に見た夢
こんな夢を見た。
夏も終わり、夜になれば長袖が必要になるほど季節の移り変わりを感じる様になった頃の話。 僕は仕事が終わった後、待ち合わせをしているカラオケ屋を目指して、すでに暗くなり街中のネオンが輝きを増す繁華街の一角を一人で歩いていた。
すでに酔っぱらった人たちが道端で管を巻いている中、僕は絡まれたりしない様に足早に通り過ぎる。
待ち合わせのカラオケ屋「店上天歌唯我独尊」にたどり着いたのは、約束の時間より30分ほど過ぎた頃だった。
店の中は混み合っていて、知り合いの姿を捜すのは困難に思えた。
「遅いでござるよ、山田殿。皆はすでに部屋の中に集合しているでござる」
そう僕に声をかけてきたのは、今日集まるメンバーの中で紅一点、華の14歳の内田さんだった。
僕は内田さんに手を引かれて、客室のある店の奥の方に入っていく。
部屋番号「4423」のプレートが付いたドアを開けると、見知った顔が揃っていた。
「やっときたでちゅね。じかんはげンちゅうしてとあれほどいっちぇるのに」
そう言ったのは見た目はほ乳瓶を手にした乳幼児だが、実はIQ60000の天才児である高階さんだった。
本来は36歳だが、過去に大きな病気を患い、その為に体は成長しなかったのだという。ほ乳瓶は世を忍ぶ仮の姿のアイテムであって、高階さんの性癖とは別に何も関係がないと、高階さんの名誉のために言っておく。
「まあまあ、みんな仕事もありますし、それくらいで良いんじゃないですか。さぁ、山田くんも座って。何か飲むかい?」
「すみません。じゃぁ、ビールを」
温厚な中年太りの上杉さんが、了解と言って内線で注文をしている。内田さんもウーロン茶を頼んでいた。
「ガンガン飲みましょう!いぇーぃ!!」
すでにできあがっていたのは僕と同い年の田村だった。目の前には空いたジョッキがすでにいくつも列んでいる。
「今日集まってもらったのは他でもない、我が地球防衛隊の活動に関することだ」
皆の視線が高階さんに集まる。僕たちは日々、地球の平和と安全を守るために活動する私設の集団なのだ。でも、たった五人の集まりなので、軍と呼ぶにはおこがましいと言うことになり、隊を名乗ることになったのだ。
「何か問題でも発生したのでござるか、高階隊長?」
内田さんが真剣な顔で隊長である高階さんに聞いた。
「うん……冬コミに向けて、そろそろ同人誌の内容を決めないと、と思ってな」
「夏コミは悲惨でしたものね。3000部刷って、売れたのは各自が買った5冊だけとか」
上杉さんはそう言うと、押しつけられた在庫の山が自分の家の中を覆い尽くしているのを思い出して涙を流した。
「守るって言ってもねー、実際、俺たちが守らなきゃいけない物ってあんまり無いですし。だいたいは、警察とか自衛隊とか、この国の権力が守ってますから」
田村はそう言うと、空けたジョッキを置いて、新たなるジョッキを注文しにいった。
「そうなのでちゅ。じっっちゃいのところ、われわれにはてきがいないのでちゅ。そこであらたなるてきをちゅくり、そのちゃいりつこうぞうをどうじんちでてんかいしていこうとかんがえたのでちゅ」
「……その新たなる敵とは何物でござるか?」
内田さんがそう聞くと高階さんはほ乳瓶の先を甘噛みして「ちょれをはなしあうのがこんかいのぎだいでちゅ」と呟いた。
室内に重い空気が流れる。
カラオケのモニターにはサザンオールスターズの桑田佳祐が映っていて、どうやら新曲のプロモーションビデオらしかった。
全裸にスケスケのレースの衣装を身に纏った桑田佳祐が歌い、踊っていた。局部がかなり危険な感じで、カメラが股の下に潜って煽りで映すと、玉袋が衣装を透けてアップで映った。
「あ、玉袋でござる」
内田さんがそう言うと、他の全員が画面を見た。
2010/09/26 に見た夢 微生物
こんな夢を見た。
人には得意、不得意、向き、不向きというものがある。
どんなに頑張ったところで、出来ない事は出来ないのである。
頑張らなくても出来てしまう事は、当たり前の様に出来てしまうのだ。
そう考えてみれば、わたしは社会生活に向いていないと言えるであろうし、そもそもわたしは生きる事に不得意であったと胸を張って言えるのである。
職を失い、家族に会わせる顔が無く、家を飛び出して車上生活をする様になってから、すでに半年が過ぎていた。
町はずれの大きな公園にある駐車場が、今の私の住所である。
今年の暑かった夏は、まさに灼熱地獄の車内であったが、今はすでに季節変わりし、朝方の冷え込みが厳しくなって、寒さに震えながら目を覚ます様になったのである。
あともう少しもすれば、雪が降る様になるのだが、毛布を買うかどうしようかという事が、今のわたしの最大の悩みである事は、言うまでもない事である。
当然の様にお金はないので、毛布を買うどころか、今日のご飯の心配をしなければならないのであるが、あえて言おう、水は主食になりえないと。
もちろん、おかずにすることも厳しいのであるが、背に腹は替えられないと言うことわざの通り、今日の朝ご飯は公園の水道で賄う事にしたのである。
その公園はとてつもなく広く、遊戯設備の他に、陸上トラック、野球場、テニスコート、市営プールなどの設備があり、それと同じ規模の森林を有していた。
森林の中には人工の川が流れていて、放流されている魚はときどき晩ご飯にもなるのだが、やはり淡水魚は泥臭くて食えたものではないと言っておく。
わたしは朝ご飯を求めていきつけの水飲み場に向かう。
途中、ジョギングなどをしている人々とすれ違うが、あまり見ない様にするし、向こうもこちらを見ない様にしている素振りである。
自分を見てみれば、もう三ヶ月は着ているジャージがカピカピになっていて、いかにもそれな人という様相を呈しているのである。
「仕事を探さなければ」
ふとそんな泣き言が口から漏れたが、きっと見つからないと心の奥では確信があった。
このまま愛車がわたしの墓標となるのだろう。
水飲み場に着き、水で腹を膨らませたわたしはそんな事を思った。
することもないので森林の方に足を伸ばしてみた。
森林の中には、ときどき使えるモノが落ちているのだ。
「不法投棄は犯罪です」
と書かれた看板があるように、ここにゴミを捨てる不届き者がいるのである。
わたしは彼らに生かされていると言っても過言ではない。
散策をしている途中に、森林の中を流れる川の側でエロ本を拾ったのであった。
喜んでそれを手に取ると、どこからともなく悲鳴が聞こえた。
「ぎやぁぁ〜あああああ!!」
品もなければ、恥じらいもないその叫び声はどうやら女性の声の様であった。
見てみると、浅い川の真ん中で、若い女性が倒れていた。
「大丈夫ですか?」
わたしが手を差し出すと、その女性は申し訳なさそうにその手を取り、ずぶ濡れになって立ち上がった。
「すみません。足を滑らせて転んでしまいました。でも、怪我とかはないのです。大丈夫です」
見るとまだ二十代前半の黒髪の乙女であった。
ちなみにおっぱいは大きい。
濡れた服が体にぴったりフィットして、その体のラインを浮き上がらせているのである。
「服まで借りてしまい、本当に申し訳ありません」
ずぶ濡れのままでは何かと不便であろうと思い、わたしは彼女を連れて車まで戻ると、お出かけ用に取っておいた洗濯済みのジャージを彼女に貸してあげたのだった。
車の中で着替えている彼女を外で待ちながら、わたしはたき火を起こしていたのである。
「なに、構いませんよ。困ったときはお互い様です。ところであそこで何をしていたのですか?」
「水質調査です」
彼女はたき火に手をかざしながらそう言って笑った。
「と言う事は、市の環境課の方ですか?」
「いいえ、個人的な趣味なのです」
「水質調査がですか?」
「あの川は、上流である工場の下水も流れこんでいて、生態系に悪影響を与えていると言われています。そういった調査をする事を趣味にしています」
「それで、問題がわかったらどうするのですか?」
「訴えます。裁判です」
彼女がそう言った時の表情には凄味があり、趣味以上の何かがある事を感じさせたが、そこはプライベートな問題なのだろうから、聞いたりする事はなかったのである。
「工場に非があれば、訴えられるのもイヤでしょうし、お金で解決しようとします。こちらも大金を請求するわけでもないので、けっこう良いお小遣い稼ぎになるのです」
聞かなかったのに、彼女は自ら話したのであった。
「脅迫じゃん」
「脅迫されるようなことをしている方が悪いのです。それにわたしは裁判をしたって構わないんですよ?お金で解決しようとしているのは向こうなのです」
彼女に貸しを作ったという事もあり、わたしも一枚噛ませてもらうことにしたのであった。
早い話が、彼女のお手伝いである。
金に困っているというわたしの状況を説明したら、二つ返事で了承してくれたのであった。
「良いお金になります」
そう言って彼女は笑った。
何をするのかと言えば、水を掬ってその中の微生物を調べるのである。
わたしは川の中に入り水を掬った。
「どうですか?何かいますか?」
「何かって、微生物が肉眼で確認出来るわけ無いじゃな……ひぃぃぃぃぃいいいいいっ!?」
わたしは掬った水を中を見て、まるで少女の様な悲鳴を上げたのであった。
掬った水の中には見た事もない醜悪な生き物が蠢いていたのである。
それは微生物といえる大きさではなく、いつか図鑑か何かで見た寄生虫とか、回虫とか、サナダムシとかに似ていた。
「大漁ですね」
彼女はそう言って目を輝かせたのである。
「どれどれ……」
彼女はその中の一匹を手で掴むと、口に持っていって、ちゅるりんと飲み込んでしまった。
「くぅう〜!!のどごしが最高ですね!!」
「いやいや、喰うのは人としてどうだろう?」
「おいしいですよ?一匹どうです?これなんかコリコリしていていいですよ」
「遠慮しておきます……」
結局、彼女に無理矢理食べさせられたわたしは、嘔吐と血便と喀血を繰り返し、半死半生の身で、病院に救急車で運ばれる事となったのであった。
数週間の入院生活を送り、退院すると彼女が迎えに来ていたのである。
ちなみに入院費用は彼女が払ってくれていた。
「じゃ、行きましょうか」
「行くって、どこにです?」
「決まっているじゃないですか。全国水質検査の旅です」
彼女が指さした先には真新しいキャンピングカーが一台停まっていた。
「今回はけっこう稼げたので、思い切って買っちゃいました」
そうして、私達はキャンピングカーに乗り込むと新たな微生物を求めて旅立ったのであった。
2010/11/16に見た夢 逃亡者
こんな夢を見た。
世知辛い世の中を、颯爽と駆け抜けた日々を送った私にも、運の尽きというか、振り返れば黄金時代と呼べるだろう日々に、終わりを告げるがやってきたのである。
かっては美女を両側に侍らせ、高級外車に運転手付きで乗り回し、ラーメンを食べに行ったのも今は昔のことだった。
残されたのは莫大な借金と、年老いた両親ぐらいしかなかったのだが、今はその両親も捨て去って、逃亡の日々を送っているのだ。
逃亡の末にたどり着いたのは日本海側の、寂れた小さな漁村だった。
逃走資金も財布の中に160円を残すだけとなっていたのである。
空腹に目が霞む中、思いついたのは海で魚を捕ることである。
無論、釣り竿も持っていなければ、投げ網なども持っていなかったので、何か変わりになるものはないかと辺りを見回せば、遠くの方からなにやら叫び声の様なものが聞こえてきたのである。
声に引かれて、行ってみると、岩の上に乗ったお婆さんが、もの凄い勢いで海に向かってモリを投げている声だったのである。
「殺ったどぉおおおお!!!!」
お婆さんは、そう叫ぶと、モリに繋がれているロープを力いっぱい引き始めたのだった。
両腕に浮かぶ、力こぶと血管がとても男前だ。
引き上げられたモリの先には、七色に輝く体長5メートルほどの鯨が捕らえられていたのだった。
「ババ、ちょうだい」
そう言ったのはお婆さんの勇姿を見守っていた10歳ほどの少女だった。
お婆さんはニカッと笑顔で笑うと、腰にぶら下げていたナイフで七色に輝く鯨を切り裂いて、血が滴る肉の塊を切り出すと、少女に向かって投げたのだった。
2キロくらいの肉の塊を、である。
肉の塊を何のことなく受け取った少女は、その肉にかじり付くと、滴る血も気にせずにペロッと食い尽くしたのである。
あまりの食いッぷりの良さに見とれた私は、思わずお婆さんに声をかけたのだった。
「私にも、その肉を分けたいただけないでしょうか、色々事情がありまして、もう三日も何も食べていないのです。どうか、お願いですから、私にも肉を分けて頂きたいのです」
「なんぞ、そんなことならおやすいご用ね。いくらでも食べんしゃいね」
そう言うと、お婆さんは私にも肉を切り出して、渡してくれたのだった。
とても、血生臭かったが、それでも空腹だったので残さず食べた。
久しぶりの食事だったので、瞳に涙が溢れたのだった。
2010/12/29に見た夢
車の車庫に寝泊まりするようになって半年が経っていた。
生まれ故郷を追われ、たどり着いたのは南国の孤島。
家を借りるほどの金がなかったので、居酒屋で知り合った若者に、使われていない物置兼、車庫を月に五千円で借りたのだ。
北国生まれの北国育ちであるから、南国の冬は暖かく感じられ、車庫の中に置いたベッドの上で蒲団をかぶって寝れば、寒さもそれほどではなかったのだ。
雨が降ったときに中まで入ってくるのが難点ではあるけれども。
ある日目を覚ますと、室内のソファーに黒いスーツ姿の男が座っていた。
「起きましたか、山田さん(仮名)?」
「お前は……」
ベットから起きあがった私は醒めきらない頭を振りながら、男を見た。
「村田か……。そこで何をしている?」
こんな南の地に流れ着くきっかけになった男だった。
「何って、仕事の依頼ですよ。今回は、必ず受けてもらいますからね」
私はため息をついてテレビを付けた。
「もう、あの仕事には関わりたくないんだが」
「そんな事言わないで下さいよ。あなたから仕事を取ったら、何が残ると言うんですか?」
「とりあえず、今日は帰ってくれ。これから用事があるんだ」
用事などはなかったが、村田を追い返すためにウソをついたのだ。
「山田さん、いる!?」
そこに現れたのは、車庫を貸してくれた杉田と言う男がリーダーをしている集団のメンバーの一人であるミツコだった。
「どうしたミツコ?何かあったのか?」
「弟のトシユキが向日町の連中に拉致られたの!!助けに行くから手を貸してって、杉兄が」
「わかった。そんな訳だ。すまないな、村田」
「解りました。お取り込み中のようなので、今日は失礼させて頂きます。……でも、やっていることはかわらないんじゃないんですかねぇ?」
村田はそう言って車庫から出て行った。
「だれ?」
ミツコは私にそう聞いてきた。
「昔の知り合いだ。それより学校はどうしたんだ?」
出かける準備をしながら、通っている中学のセーラー服を着ているミツコに聞き返した。
「なに言っての。もう冬休みじゃない」
「そうか。もうそんな時期か。雪がないんで季節の感覚が無くなっているよ。でも、なんで休みなのに制服を着ているんだ?」
「めんどくさいじゃない。この辺りはみんな普通に休みでも着てるけど?」
「そうなんだ。じゃあ、行こうか」
車庫から出ると、杉田が率いる通称・杉田グループのメンバーが十数人集まっていた。
ほとんどが10代の少年少女だが、双子の菊池姉妹や、居酒屋経営をしている上村などの数人は成人している。
「杉兄は先に向日町に行っているって」
菊池姉がそう言った。
「車は上さんがトラックを用意してくれたから」
菊池妹が付け加えた。
長い黒髪が印象的なこの双子姉妹の見分けはいまだに付かない。
私達はそれぞれに武器を手に取るとトラックに乗り込んだのだった。
向日町グループを壊滅し、トシユキを救出した後、私は繁華街に繰り出した。
今のところ生活の糧はパチスロで稼いでいるのであった。
スロットは面白いように出て、等価交換でドル箱を4箱出したのだ。
それで夕食を買い車庫に帰る。
テレビを付けると視聴者参加型のバラエティー番組がやっていた。
「体操出来るかな?」
小学校の校庭らしき場所で、三人のお笑い芸人が体操をしていた。
それを参加している人々が、動きをまねるらしい。
「パンツ一丁で体操出来るかな?」
芸人がパンツ一丁で体操を始める。
参加者達も全員でパンツ一丁。
もちろん女性もいる。
「放送出来ないだろ」
そう思っていたのだが、内容はどんどんエスカレートしていく。
「フ○ラできるかな?」
私はテレビを消し、蒲団に入った。
初夢 2011/01/03に見た夢 発明王に俺はなる
こんな夢を見た。
生涯を研究に捧げ、孤高の時を生きてきて数十年。
黒髪の乙女に目もくれる事もなく、生涯を独身で貫いてきた潔さが自分のトレードマークであった。
ありとあらゆる人間関係を断ち切り、私は研究に心血を注いできたのである。
断じてコミュニーケーション不全の対人恐怖症ではないと、自身の潔白を主張しておく。
それも全てこの日のためであった。
長年に渡る研究が、ついに実を結ぶときがやってきたのであった。
「博士、ついにやりましたね」
助手のカマンベール・富田・珠子(12歳・ハーバード熱血教室卒)が歓喜の声を上げたのだ。
私は黙って頷いたのだった。
すでに私にも何がなにやら解らないコードが研究室を縦横無尽に走り回り、その全てが収束して一つの機械に繋がっていたのである。
「珠子くん、では最終実験をしてみよう」
「はい!!」
マンベール・富田・珠子助手は、机の上に乗っていたアンパンマンのぬいぐるみを機械上に置いた。
「ポチっとな!」
彼女はそう言いながら機械に備え付けられているボタンを押したのであった。
機械からあふれ出る閃光が、私達の網膜を焼く。
目映い光りに視界を遮られながらも、私は実験の成果を見届けたのであった。
実験は成功した。
アンパンマンのぬいぐるみは見事にガスとなって、小さな風邪薬のカプセルに閉じこめられたのである。
私は個体をガスにする研究をしていたのである。
さらに実験は続けられ、新巻鮭、ショベルカー、マンベール・富田・珠子をガス化してみたのである。
そのどれもが成功し、ガスとなって小さなカプセルに閉じこめられたのである。
元に戻すにはカプセルを割り、ガスを空気中に散布するだけでよいのである。
私はガスになった、マンベール・富田・珠子が閉じこめられたカプセルを開けてみた。
するとマンベール・富田・珠子が現れたのである。
「これはノーベル賞ものですね」
元の姿に戻ったマンベール・富田・珠子は興奮気味にそう言ったのである。
「そうだな。この機械を使っていろいろなものをガス化すれば、積載腸の問題であまり宇宙に持っていく事ができなかったスペースシャトルに変わって、膨大な量の物品を宇宙空間に持っていく事が出来る様になるだろう。そのおかげで、宇宙開発は一気に進むだろう」
「わくわくしますね。そう言えば、東京特許許可局に、特許の申請をしなければ、儲けが入ってきませんね」
「その辺は君に任せよう。私はその前にもっと実験を重ねなければならない」
「おやすいご用です。おまかせて下さい」
彼女はそう言うと、関係書類の用意をするために事務所に行った。
残された私は、新巻鮭とショベルカーも、元に戻してみたのである。
そのどちらも無事にガスから固体化し、実験の成功を知らせたのである。
それからしばらくが立ち、特許申請も遅れ気味の中、私の研究所に黒いスーツを着た男達が研究所に乗り込んできて、全て持っていったのである。
「何をする!!これらは私の研究成果である!!」
私がそう叫んでも、男達はダンボール詰めの作業をやめる事もせずに、黙々と作業をしているのだった。
その中から一人の男が立ち上がり話しかけてきたのだ。
「やってくれましたね。あなたは核ミサイルよりも危険なものを発明してしまいました。これは人類への挑発だと我々は理解します。よって、これらは国として管理させていただきます」
そう言うと男達は研究所が空になるほどいろんなものを押収して帰っていったのである。
私はただ立ちつくしているだけだったのである。
2011/01/12に見た夢 母乳ダイナマイト
こんな夢を見た。
貧乏、子だくさんと言うが私は子だくさんでもないのに貧乏であった。
職場結婚した妻との間には、生まれたばかりの娘が一人だけなのに貧乏であった。
それでも清く美しく慎ましく少ない手取りであっても、真面目に働いていたのであるが、その勤め先も不況の煽りを受けて倒産してしまったのである。
「お父ちゃん、もう今日食べるご飯もないわよ」
妻はそう言って空の電子炊飯器を開けて見せたのである。
「……すまない。俺がいたらぬばかりに、お前には苦労させるなぁ」
「そんな事はどうでも良いのよ。問題は今日のご飯をどうするか?って事なのよ」
「無いものはないとしか言えないしなぁ……」
自分の親に泣いてすがるという選択しもないわけではないが、よくよく考えてみれば、自分の親も金はなく、路上生活しているような状況である。
基本的には自ら望んで路上生活しているのだから、とやかく言う筋合いでもないのだが、こんな時に頼れないと言うのも悲しいものがあったのである。
「もうタマに飲ませるおっぱいも出ないもの。だいたい、お父ちゃんが飲み過ぎなのよ」
「申し訳ありません……」
妻はそういってツルペタの胸をさすったのであった。
妻と出会ったのは三年前。
新入社員として入社して来た妻の姿を今でも覚えている。
贔屓目に見てもちょっと発達の良い、長い黒髪の身長150センチアンダーな女子小学生だったのである。
それまでの人生経験から目の前に立つ人々が何を思ったのか理解出来たらしく、
「こう見えても20です。よろしくお願いします」
と頭を下げたのであった。
「合法ロリキター!!」
そう思ったのはきっと私だけではなかったと思う。
いつの間にか彼女は社内のアイドルとなり、取引先のスターとなっていったのであった。
すでにこの頃に、私の勤めていた会社は終わっていたのかも知れないと、今になっては思うのだ。
そんな彼女に対して私は背水の陣を敷き、対立する恋のライバル達を千切っては投げ、蹴り倒しては踏みつけ、獅子累々の日々を乗り越えて、彼女のハートを射止めたのは二年前の事だったのである。
そんな至福の日々も今は過ぎ、家賃も水道代もミルク代もない日々が続いていたのだった。
「仕方ないわね。もう、実家に帰ろうか……」
妻はそうポツリと呟いたのであった。
「そ、そんな!離婚とか言うなよ!!」
「はい?なに言ってんの?お父ちゃんも一緒に行くに決まってるじゃない?」
そして、妻の実家でのマスオさん暮らしが始まったのであった。
「一人や二人や三人くらい、今さら増えたところで何にも変わらないから、気遣い無用で良いからね」
義理の母はそう言って私達を糞狭い、一軒家に迎え入れてくれたのであった。
六男八女の大家族である。
もうすぐ15番目が生まれるという。
ちなみに妻は三女である。
「改めてみるとやっぱり大家族だな」
「そう?親戚の中じゃ少ない方なんだけど?」
「そういえば結婚式に同じ顔の人がいっぱいいたな……」
すでに上の五人は成人し、家を出たものもいるが、出戻りもいるのである。
その子供達も会わせると数えたくもなくなる人数である。
義父は外資系に勤めていて、一年のほとんどは海外出張で家にいないのであるが、もの凄い命中率であるとだけ言っておく。
私は義母が経営するラーメン屋を手伝う事になり、新しい生活が始まったのである。
ある日、混雑するラーメン屋を手伝っていると、店の外に見知った顔の人物が通り過ぎたのである。
路上生活をしていて、居場所の掴めない私の実の母だった。
半年ぶりに見た母を追いかけて店の外に出ると、母は店の向かいにある大きな公園に入っていくところだった。
「母ちゃん!!」
私がそう声をかけても母は振り向きもせず歩いていく。
走ってやっとこさっとこ追いつき肩を掴んだのであった。
「母ちゃん!!」
「あれ、幸司じゃないか?達者にやっているかい?」
「……ぼちぼちな。それより何よりどこに行くんだ?」
「私はね、もう疲れたよ。だから死のうと思っているのさ」
「なにい言ってるんだよ!?とりあえず、すぐそこに嫁さんの実家があるからそこに行こう」
私はそう言って母の手を掴んだのだが、母はその手をふりほどくと鬼の様な形相で言ったのだ。
「行きたいところには、行きたいように行く!!自分がどう生きて、どう死ぬかも自分で決める!!だからほっときな!!」
そう言い終わると母はシャツの中に手を入れて、中から一本のダイナマイトを取りだしたのだ。
口にくわえていたタバコで、ダイナマイトの導火線に火を付けると、力一杯放り投げて見せた。
「ちょっとぉ!?」
私がそう言い終わるか終わらないかで、ダイナマイトは炸裂し、衝撃波と大音響で包まれたのだった。
それでも母はなに喰わぬ顔で歩き出し、ついでのようにシャツの中から新しいダイナマイトを一本取り出すと、同じようにタバコで導火線に火を付け、それを持ったまま公園の奥に向かって歩き始めたのだった。
爆発する!!
導火線の根本まで火が到達したのを見て、私はそう思って伏せたのだが、爆発は起こらなかった。
見ると母の手の中で燃え尽きていたのだった。
「なんだ。火薬は入っていなかったのね」
母は燃えたときの火で、ダイナマイトを持っていた手を焦がしながら、まるで火傷の痛みも感じていないように呟いたのだった。
「もうやめろって!!」
私は母に向かってそういったのだが、母にはもう聞こえていないらしい。
そのまま歩みを止める事もなく、公園の奥に進んでいくのだった。
追いかけると公園の奥は崖になっていて、母は躊躇無く防護柵によじ登ると、そのまま飛び降りていった。
急いで崖の下を見たのだが、50メートルほど下の崖底には木々が生い茂っていて、母の姿を確認する事は出来なかったのである。
私も防護柵を乗り越えると、崖をくだり始めたのだった。
「母ちゃん!!」
返事はない。
木々だけが鬱そうと茂っている。
降りれども、降りれども、母の姿はまだ見えてこない。
2011/01/12に見た夢
こんな夢を見た。
世の中には殺されても仕方ない奴がいると思う。
今日見た夢の中で、僕にとってのそんな存在は養父だったの
である。
生みの親も知らずに育ち、物心がついたころには養父の家で
奴隷のように生きていたのだ。
「お前など、俺が拾ってやらねば死んでいた」
養父は事あるごとにそういい、ありがたく思えと付け加えた
のだった。
それでも人並みに学校にも往かせてくれたので、感謝するべ
きなのかもしれないが、酒を飲めば暴力を振われたのである。
その為に僕の頭は年中、コブだらけであり、目の廻りにはパ
ンダのように青アザが耐えなかったので、そんな事を思う必要
もないだろう。
養父は対外的には慈善家を気取り、僕と同じような境遇の子
供たちを引き取っては育てていたが、扱いは僕と同じようなも
のだった。
女の子などは年頃になると、日替わりで養父の寝室に呼ばれ
、翌朝には自殺した子もいたのである。
そんな日々の中でも、養母は優しい人だった。
ご飯をくれたし、家業を手伝えば、お小遣いもくれた。
養父に殴られて大きな怪我をしたときなどは、薬をつけてく
れたりしたのである。
そして早く大きくなって、この家を出て行きなさいと言って
くれたのだった。
そんな養母が好きだった僕は、義理の兄妹達が家を出て行く
中でも残っていた。
一緒に出て行こうと言ってくれた義理の妹の和子には、心動
かされることもあったけど、僕は家に残り続けたのだった。
幼い兄弟達の面倒を見ることが僕の仕事となっていたのだが
、ある日の夕食のときに養父がいつものように酒に酔って暴れ
だしたのである。
宥めようとした養母の顔面に養父がガラスコップを投げつけ
て、額に当たったあとに砕け散った。
養母は悲鳴を上げると、額から血を流して床に倒れて動かな
くなった。
それを見て笑っている養父の頭部に向かって、テーブルの上
にあったガラス製の灰皿を僕は振り下ろしたのだった。
何度も何度も。
養父は声を上げることもなく、陥没させた頭部から血と脳漿
と脳ミソを出して息絶えたのだった。
僕は黙ってみていた兄弟たちに向かって言った。
「警察と救急車を呼んでくれないかい」
養母は命に別状はなかった。
養父は当然のように絶命した。
もちろんそのつもりで殴ったので、警察署で養父の死を聞い
たときは僕はとても穏やかな気持ちになった。
警察に捕まった僕は、裁判を受け、そして有罪となり、懲役
4年6ヶ月の実刑となった。
弁護士によれば、執行猶予がついてもおかしくない生活環境
であったそうなのだけど、裁判での僕の態度が悪かった性か、
実刑になったそうである。
「殺されても仕方のない奴はいる」
僕はそう言っただけであったのだが、裁判人には受けが悪か
ったようだった。
遠くの刑務所に移送される事が決まり、刑事二人が僕に付き添う事になった。
「真面目に勤めれば4年ちょっとだ。逃げようとか思うなよ」
「そんな事は思いませんよ」
手錠を掛けられた腕をタオルで隠しながら空港を進む。
すれ違う人々の中に、一緒に養父の元で育った兄妹達が紛れているのに気が付いたのはすぐの事だった。
直接、声をかけてくる事は無かったが、笑顔で手を振る妹もいた。
「……ほんの数年だ。すぐに会える」
刑事の一人がそう言った。
どうやら兄弟達と別れをさせてくれているらしい。
所持品検査のゲートを潜る時に、手錠を外された。
「もうここなら逃げようは無いからな。そこのレストランでメシでも食ってこい。俺たちは店の前にいるから」
「……人質を取るとか、考えないんですか?」
「そんな事をする奴が、あのエロ親父を殺すかよ。いいから、メシ喰ってこい」
「…………お金持ってません」
刑事から5千円札を渡されて店の中にはいると、中はとても豪華な作りで、自分の人生の中で入った事がないような場所だった。
「兄ちゃん!!こっち、こっち!!」
声をかけられてその方を見ると、東京でAV女優をしているはずの和子だった。
「おまえ、どうしてここにいるんだ?結構、忙しいって聞いていたけど」
「刑事さんが電話くれたの。しばらく会えなくなるから、会っておきなさいって」
「……いたせりつくせりだな」
注文を取りに来た店員に和子はてきぱきと注文をしていく。
僕はその姿にとても感動していた。
「おまえすげぇな。都会の人みたいだ。兄ちゃん、この店に入ったとき正直、びびったぞ」
「まぁ、東京暮らしも長いし……」
和子は笑いながらそう言うと、泣きそうな顔をして言った。
「みんなでまってるからね」
「……あぁ」
「手紙書いてね。みんなも書くから」
「……あぁ」
「面会にも行くからね」
「……あぁ」
和子と食事をし、別れの時間がやってきた。
「じゃぁ、そろそろ飛行機の時間だよ。刑事さんにはきちんとお金を返してね。ここは私が払っておくから」
僕は席を無言で立ち、店の外へ向かった。
一度だけ振り返ると、和子は泣きながら笑顔で手を振っていた。
「……それでは、行きましょうか」
店の外に出ると待っていた刑事さんがそう言った。
飛行機は時間通りに飛び立ち、窓の外は澄み切った蒼い空が広がる。
窓際の席に座り、初めての飛行機に浮かれ気味だった私に刑事さんが話しかけてきた。
「和子さんでしたっけ、先ほどの」
「えぇ……」
「彼女、基本的にいつもはコンビニ弁当で、質素な生活らしいですよ。いつか兄弟達みんなで暮らせるための家を建てるんだって」
「そうですか」
僕はそう言って窓の外に目をやったが、もう和子がいる空港は見えないけど。
2011/01/24に見た夢
こんな夢を見た。
高校の修学旅行でやってきたのは、つい半年前まで住んでいた街だったのである。
両親の離婚で、母親に付いていく事になった私は母親の生まれ故郷に移り住んだのだが、編入した高校で待っていたのは、クラスメイトの顔を覚える前の修学旅行だったのである。
見覚えのある駅前に整列していた。
今でも父親が一人で住んでいる家までは、歩いて10分ほどで着く場所である。
日曜の昼前なので、恐らく父親は家にいると思い、後で行ってみようと思う。
自由時間の前にイベント参加する事になっていた。
テレビのクイズ番組なのだが、全国の学校が参加しているのだという。
出された問題は
温 湯船に浸かって
故 故人を思えば
知 知らない人でも
新 新成人
と言う、頭に使うお題が出されて、それで文章を作るという問題。
次々とクラスメイトが消えていく中で、私だけが残り、最後の問題は
お
お
お
お
だった。
私は答えた。
お おっぱいは
お 大きい方が良いと言うけど
お 俺からすれば
お おかしな事だ。
どうかと思ったのだけど、他に思い浮かばなかったので妥協したのである。
この文章で脱落した私は父の暮らす家に行ってみる事にしたのだった。
すでに連絡はしてあり、家にいると父親は言っていた。
父親が暮らす家に入ると、父親の他に親戚が数人集まっていた。
父親とは半年ぶりの再会だった。
以前の僕の部屋は、父親が同居する親戚家族の姉妹である従姉妹が使っているという話だった。
寿司などを出され、今の生活の様子などを報告したあと、僕は止まっているホテルに戻る時間が近づいていたので帰る事にしたのである。
帰りは父親と同居している叔父が車で送ってくれる事になった。
帰り道の峠を越え、霧がかかり始めた。
その霧はとても濃く、粘着性のある雲だった。
瞬く間に目の前が見えなくなり、車は道をそれて崖下に転がり始めたのだった。
咄嗟に飛び出た私は車を見ると、木と木に挟まれてかろうじて止まっていたのだけど、木が折れればいつ落ちても不思議では無い状態だった。
「おじさん、大丈夫?」
私はそう声をかけると、三浦友和に似た叔父は笑って答えた。
「前の女房と間に、もうすぐ子供が生まれるんだ。その子を見るまで死ねないさ」
私が伸ばした手を取ると、叔父は車の中から脱出したのである。
2011/03/22に見た夢
こんな夢を見た。
春も終わり、夏の暑さがやっと世界を覆い始めたそんな季節の夜の事。
私は深夜に家を出て、寝静まって夜の闇に包まれた住宅街を一人歩いている。
街灯の光りが時折、町角を照らしているだけで、それ以外は本当に真っ暗な夜だった。
これが都会の繁華街であるならば、盛り場のネオンと喧噪がいつまでもきらめいているのかも知れないが、田舎の住宅街であるこの辺りの住民達は寝てしまうのも早く、人通りもないのである。
そんな真っ暗で誰もいない世界というのは、まるで全てが自分のものの様に思えて、全裸になって走り出したい気分ではあったが、さすがにそれは変態であると思うので止める事にする。
町外れにある公園の山を登り空を見上げてみると、無数の星が瞬いているのが見える。
私は感動し携帯をポケットから取り出すと、美しく輝く星空に向けてカメラを向けたのだった。
しかし携帯の液晶越しに見る星空は、思ったよりも美しくなく、カメラを構えたところで何の感動もなかったのである。
私は携帯で撮影するのを諦めて、自らの脳裏に焼き付ける事にしたのである。
漆黒の闇に浮かぶ宝石はいつまでも目映く輝き続け、私は一人、公園の山の上で腕組みしながら見上げていたのである。
2011/04/12に見た夢
こんな夢を見た。
その日、目が覚めたときに、ラジオから流れて来たのは、小学生の頃に運動会で踊ったフォークダンスの「オクラホマミキサー」という曲だった。
どことなくやる気がなく感じる曲調が、当時を思い出させてくれる。
運動会という日常ではない特殊な行事の中で、普段は手を繋ぐ事などありえない、クラスメイトの女子達とは、初夏の晴れ渡った青い空と「オクラホマミキサー」が距離感を曖昧にさせる。
「ちょっとター坊、ちゃんと手を握りなさいよ。ちっとも踊れないじゃないの」
そう言って僕より頭一つ背の高い、畑海 京 (ハタミ ミヤコ )が文句を言っていた。
仕方なく、僕はミヤコの手をしっかり握りって、練習通りに体を動かすのだけど、もとより僕は運動やらダンスというものは香味もなければ、得意でもなく、どう見てもミヤコに振り回されているだけだったように思う。
ちなみに、ター坊というのは僕の名前は五所川原 真之介と言うのだけど、長すぎると言う理由でミヤコが付けてくれたあだ名だったりする。
そんな振り回している僕を見て、彼女は楽しそうに笑い、曲の終わりと共に、次の相手へと移っていった。
そして、曲のリピート。
当然のように僕にも新たなパートナーが現れる。
「ミヤコちゃんって、こういう行事が好きだよね。登山遠足とか。走って登って一番乗りで頂上に着くのに命がけだったりするし」
山田 珠恵 (ヤマダ タマエ)はそう言いながら笑顔で僕の手を取りミヤコの方を見た。
クラスで一番小さいタマエは、僕より頭一つ小さく、今度は僕が踊りづらい。
「降りるときも一番最初におりたけど、勢いあまって転んでしまって、膝小僧を擦り傷だらけにしてたけどね」
僕はタマエにそう言って「オクラホマミキサー」を踊る。
「でも、私達が集合地点に着いたときに、両膝に包帯巻きながらピースしてたのには驚いたわ」
「子供なんだよ。まぁ、でも来年になれば僕たちも中学生だし、いつまでもあんなんじゃないと思うよ」
「わたしはあのまま変わらないで大人になって欲しいわ。だってあの性格はミヤコちゃんの良いところだもの。ターちゃんはそう思わない?」
「そういうものかな?少しは女の子らしくした方が良いんじゃないかと思うけど」
僕たちは同じマンションの一階、二階、三階に住み、小学校入学前からの付き合いであり、おないどしと言う事もあり遊ぶ事も多く、ミヤコに引きずられる僕、その後ろから笑顔で着いていくタマエという関係がもう何年も続いていたのである。
それがすでに当たり前で、普通であったし、その事に疑問を持つ事はなかったのだけど、その関係性も、僕が変わってしまった事により、そのままというわけにはいかなくなってしまったのだ。
僕も変わったのだけど、ミヤコも変わったと言っていい。
それまで見た事のなかったミヤコのスカート姿。
正確には中学の制服姿なのだけど、僕は一発でやられてしまったと言っていい。
早い話がミヤコに恋したという、思春期特有の熱病みたいなものを煩ってしまったに過ぎない。
正確まではさほど変わらなかったのだけど、それさえも愛おしく思えたのは恋の症状と言うしかない。
「ちょっと、ター坊。なんであんた、最近私を避けるわけ?私がなんかしたっけ?」
体育館裏の焼却炉前へミヤコに呼び出された僕は、急激に身長が伸びて、ミヤコより少しだけ大きくなったのだけど、その分肉付きが追いつかないのか、華奢な体格の僕は不良に絡まれるような感じで、ミヤコに型へ腕を回されて詰め寄られている状況だった。
避けているわけではなく、意識してしまってまともに目も見れなくなっていたのだけど、ミヤコはそんな僕の心境には全く気が付いている様子はない。
僕は勢いあまって告白した。
後先の事は全く考えてはおらず、偶発事故のようなものであると言って良い。
「……あー……そう言う事か……。わたしも好きな人がいるんだよね」
「早ッ!!だっ、だっ、誰だよ!?そいつは、こんちくしょう!!」
そこにミヤコが僕を拉致ったと言うクラスメイトの噂を聞きつけてタマエがやってきた。
「なに?カツアゲ?それともイジメなの?いままで仲良くやってきた三人じゃないの。これからもずっと仲良くするの」
小学生の頃から身長は変わらず、髪だけ伸びたタマエが青い顔をしながらそう言った。
「そういうわけじゃないのよ、タマちゃん。何というか、愛の告白というか、そう言うの」
「誰が、誰に?」
「僕がミヤコに……」
「そうそう。告白されちゃった」
「それで?」
「轟沈?」
「撃破?」
「なんで?」
「思い人がいるとか」
「そうそう。すでに好きな人がいるんですよ」
「誰?」
「そうだよ、誰だよ、こんちくしょう」
「タマちゃんに決まっているじゃない」
ミヤコはそう笑顔で言った。
僕は固まり、タマエはちょっとビックリしながらも、口を開いて言った。
「わたしにも好きな人がいるのよ」
僕とミヤコは口を揃えて言う。
「誰?」
「二人に決まっているじゃない」
そうして僕らの関係は奇妙な三角関係を続けていく事になったのである。
そう、昨日までは。
ラジオから流れていた「オクラホマミキサー」は急に止まりアナウンサーの声が聞こえてきた。
「臨時ニュースをお知らせします。ただ今。○○県沖合を震源とした強い地震が発生しました。被害状況はまだ分かっておりませんが、多くの建物が倒壊した模様です。余震に注意し、ガスや火の扱いに注意して下さい。津波の危険もありますので海岸部へは近づかないで下さい。繰り返します。ただ今。○○県沖合を震源とした強い地震が発生しました。被害状況はまだ分かっておりませんが、多くの建物が倒壊した模様です。余震に注意し、ガスや火の扱いに注意して下さい。津波の危険もありますので海岸部へは近づかないで下さい」
暗い部屋の中にラジオの音声だけが響き渡っている。
部屋の中は瓦礫にまみれ、僕は倒れてきた家具に頭をぶつけて一瞬、気を失っていたらしい。
幸い、大きな怪我でもなく、ちょうど僕の周りには狭いながらも空間が出来ていた。
大学受験を控えて、学力の低い僕は深夜ラジオを聞きながら受験勉強に励んでいたのだけど、どうやら地震による影響でマンションが倒壊したらしく、一階にある僕の家族が住む部屋は、押し潰される形となった。
両親の寝室は居間を挟んで反対側にあるのだけど、両親の様子を伺おうにも身動きは取れない。
高校入学と共に買ってもらった携帯は手元にあったので、ミヤコやタマエに連絡をとってみたのだけど、地震の影響のためか繋がる事はなかった。
結局、僕が救助隊に助けられる事になったのは、地震から三日目の事で、両親は怪我をしていたものの、僕より1日早く救助されていた。
そして、それから僕とミヤコとタマエは会う事はなかったのである。
二人が生きているという事を、衰弱のために入院していた僕に教えてくれたのは両親だった。
たいした怪我もな無いそうだったが、ミヤコは父親を、タマエは母親を亡くしていた。
すでにこの町を離れて、被害を受けなかった親戚の家に避難しているとの事だった。
後日、二人から届いたメールはだいたい同じ様な内容だった。
「二人がが生きていますように、助かりますように。そう神さまに祈りました。もし助かるのならば、私達は二度と会えなくても、話す事が出来なくても構いません。どうか、助けて下さい。その祈りが通じたのか、二人は助かりました。だから、もう会えませんし、話も出来ません。わたしは二人が生きてくれればそれだけでいいのです」
メールもその一度だけであり、僕たちの繋がりは切れてしまったのである。
復興するまでに長い時間がかかった。
その間に、僕は大学を卒業し、地元を離れて就職してから10年後に結婚をし、一男一女に恵まれた。
日々の暮らしの中で、時折、ミヤコとタマエの事を思い出し、二人の消息を捜したりする事もあったのだけど、ついには見つける事は出来なかった。
妻に先立たれた自分は、人生の終焉を控え、病院に時折に見舞いに来てくれる孫達を楽しみにしながら残り僅かな時間を穏やかに過ごしている。
窓の外の初夏の空は晴れ渡り、頭の中にはいつか聞いた「オクラホマミキサー」が流れている。
病室のドアをノックする音が聞こえた。
孫達や看護士なら、ノックもなく入ってくるだろうから、他の見舞客だと思い、どうぞと声をかけた。
入ってきたのは最後にあった姿のミヤコとタマエだった。
「わたし達、もう死んじゃってるから神さまも許してくれるわよね」
ミヤコがそう言って笑う。
「これからはずっと一緒だね」
タマエも笑う。
二人に手を取られ、僕は幸せな人生の終焉を迎えたのである。
2013/12/03に見た夢
勤め先の新規事業開始のために、アフリカの大地に降り立ったのはつい昨日のことだった。
しばらくは安宿で暮らすことになるのだが、早いうちに住居を見つけなければならない。
アフリカと言えば暑いイメージを持っていたのだが、高地であって赤道からも遠く離れていると言うこともあり、南半球の12月は初夏の気候であって、涼しいくらいだった。
夜明けと共に目を覚ました私は、朝食を軽く済ませると、会社が用意した車で現地事務所へと向かう。
大自然に囲まれたアフリカのイメージとは違い、近代化された街並みが車の外に広がっている。
高層ビルもあるし、牛が道を歩いてもいる。
それでも街を抜ければやっぱりアフリカのサバンナが広がっていて、野生動物の王国であるそうなのだが」、少なくとも今は目に入ってこない。
生活水準はきっとアフリカの中でも高い方であるように思えるのだが、そんな街の一角に平屋建ての事務所が見えてきた。
事務所と言っても、机やパソコン、などが運び込まれたばかりで、事務所にはいると梱包された資材の山が目に入ってくる。
これからしばらくはそれらの整理に追われるわけであるが、現地で雇われた従業員達もいるのできっと何とかなるのだろうと思う。
玄関を入ってすぐの所に私の机があった。
正直言って、私はここで何をやるのか見当が付いていない。
とりあえず、私の机の上にはなにやら資料が置かれているのだが、見たところで高度な数式が大量に書かれていると言うことが解るくらいで、ちんぷんかんぷんであった。
二日目の夕方からは事務所開きのパーティーが開かれた。
それには従業員の家族が呼ばれていて、当然のように私の親も日本からやってきた。
現地政府関係者や、取引業者のお偉いさん達も大勢駆けつけて、和やかな雰囲気の中でパーティーは進行していた。
そんな時、私の親父の携帯が鳴り、親父が出た。
電話の相手と話をしている親父の顔がどんどんと険しくなっていく。
私は何かあったのかと聞いてみると、親父は苦々しい顔で、
「タマコが警察に捕まった」
と、言った。
タマコとは私の姉である。
五年ほど前に家を飛び出し、消息不明になっていたのだが、その姉が警察に捕まったと、日本にいる私の弟から連絡が入ったそうだった。
「何やったんだよ、姉ちゃんは」
私はそう聞いたのだが、親父も詳しいことは解らないようだった。
その話を聞いた母親はしくしくと泣き始めた。
パーティーの和やかな雰囲気が台無しであった。
次の日の朝、親父達は足早に日本へ帰国していった。
私も気にはなるが、仕事があるのでアフリカから帰るわけにも行かず、いまだに何をするのか解らないと言う不安を抱えながら、事務所の中の整理をするしかないのであった。
休憩時間を利用して、事務所の周りを散策してみると、牛丼屋を見つけた。
どうやら日本から進出してきているらしく、看板も日本語で書かれていた。
牛丼屋に入り、牛丼を食べながら、私はこの国で何をすることになるんだろうかと考える。
だけども考えたところで解らない事は解らないので、事務所に戻った。
それから数瞬間が経ち、事務所の中も整理され、私はこの街の暮らしにもなれて、アパートも決めて住み始めた。
六畳二間の部屋ではあるが、男の一人暮らしであるのだから充分であると言えるだろう。
ただ一つ気がかりなのは、その部屋にはどうやら出るらしい。
夜中に寝ていると足音が聞こえた気がして目を覚ましたのは一度や二度ではない。
ただでさえ、自分がこの国で行うという新規事業がなんなのか解らないと言うことがストレスになっている私には睡眠不足は応えるのである。
足音はすれども、未だ姿を見たことはない。
もしかしたら、鼠やトカゲなどの小動物であろうかとも思う。
毒のある生物であるならば、命に関わる事であるので、私はその正体を暴いてやろうと思い、狸寝入りすることに決めたのだった。
灯りを消し、目を瞑ってどれだけ経ったのであろうか、部屋の隅から物音が聞こえ始めたので私は布団をはねのけ飛び起きたのであった。
手にしたマグライトを向けるとそこにいたのは小人だった。
光りに驚き、ぷるぷると震えながら、動きが固まっていたのである。
「あやしいものではないのです」
小人は流暢な日本語でそう言った。
「……ここは私が借りている部屋で、私が住んでいる部屋だ。君は何の権利があって人に断りもなくこの部屋に入り、何をしているのか」
「もうしわけありません。じつはいぜんもここには、にほんじんがすんでいたのですが、そのひとにわたしはけがをしてこまっているところをたすけてもらい、ここにすまわせてもらっていたのです。ですがそのにほんじんはきゅうにかえることにになり、わたしはまたひとりになってしまったのです」
「自分の家に帰ればいいだろう」
「それがけがをしたときにわたしはいぜんのきおくをなくしてしまったのです。だからどこにいけばいいのかもわかりません」
ハムスターほどの大きさの小人はそう言うと顔を手で覆い泣き始めたのでした。
チュウチュウと。
ねずみじゃん!!と私は思いましたが、それは言わずにどうせ日中はいないから、好きなようにしていいと言いました。
「ありがとうございます。わたしはやこうせいですからなんのもんだいもありませんね」
と言うので、私は夜中は静かにして欲しいといったのです。
それから数ヶ月間はあっという間に過ぎました。
工場新設の為にアフリカのあちこちを視察に飛び回りました。
何の工場であるのかは、私は全く解らないのですが、とりあえず現地にまで行き適当に頷いている日々でした。
それに小人も付いてくるようになり、大抵の場合は私のウエストポーチの中に住んでいました。
どうやら、人前では姿を透明にするという特殊能力を持っているようで、他の誰にも見つかることはありません。
私が小人の姿を見つけることが出来たのは、マグライトの光りに驚いて、姿を消す能力を発揮しているときに使うドングリを手から落としてしまったからだったそうです。
ちなみにそのドングリは見えるので、小人が一人で歩いているときなどは、小人の姿を見ることは出来なくても、不思議な移動をするドングリの姿は見ることが出来ます。
そんな小人との生活が続いたある日、事務所からアパートに帰るといつもなら迎えに出てくる小人が、その日に限ってやってきませんでした。
「でかけているのか?」
私は部屋にはいると見回してみたのですが、小人の姿はありませんでした。
その時、テーブルの上に置かれた一枚のメモ帳に気が付きました。
手に取ってみると、それは小人の書き置きでした。
「じごくのまおうがふっかつした。ちょっとたおしてくる。すぐにもどるからしんぱいしないで」
なにやらもの凄く急展開な気がしました。
私はそのメモをポケットにしまうと、小人を探しにアパートを飛び出して行ったのです。
それは何をするか一考に解らない仕事よりも、小人の事の方が重要な気がしたからでした。




