表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ラノベでスッキリわかる!異世界ギルドの人脈を広げる5つの魔法 ~受付嬢アリサのギルド奮闘記~』  作者: ぽてと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/24

【返報性の原理】奪う前にまず与える「ギブ・アンド・テイク」 1/4

数日後。王都の中心に位置する豪奢な迎賓館では、王都商業ギルドが主催する『春の親睦ガーデンパーティー』が華やかに開催されていた。

 色とりどりの花が咲き乱れる庭園には、弦楽四重奏の優雅な調べが流れ、着飾った貴族や大商人、高ランク冒険者たちがグラスを片手に歓談している。


「うわぁ……先週の合同懇親会よりも、さらに一段とゴージャスですね……!」


アリサは、ギルドから支給された少しだけ余よそ行きのドレスに身を包み、バインダーを胸に抱えながら目を輝かせていた。

 これまでの彼女なら、この圧倒的なセレブ空間に気圧されて、真っ先に庭園の隅にある植え込みの裏に隠れていただろう。しかし、今の彼女には『エレベーターピッチ』と『オープン・クエスチョン』という強力な魔法がある。


(ふふん、今日の目標は、新しく王都に進出してきた『東方貿易商会』の幹部さんたちと名刺交換をして、顔見知り(ウィークタイズ)になることよ!)


アリサが意気揚々とターゲットを探しに歩き出そうとした、その時だった。


「だーかーら! 俺に投資すれば絶対に損はさせねえって言ってんだろ! なんで分かんねえんだよ!」


突如、優雅な庭園の空気を切り裂くような、粗野で甲高い怒鳴り声が響き渡った。


声の主は、派手な装飾が施された(しかし少し安っぽい)鎧を着た、若い剣士だった。手にはワイングラスを握りしめ、顔を真っ赤にして恰幅の良い初老の貴族に詰め寄っている。

 彼は中堅冒険者のザック。腕はそこそこ立つものの、態度の悪さと自己中心的な性格のせいで、ギルドでも少し浮いている存在だった。


「俺はいつか、絶対にSランク冒険者になって王都中からちやほやされる男だぜ!? 今のうちに俺の専用スポンサーになって、高級な魔法剣とポーションを無償提供してくれよ! そしたら、俺が有名になった時に『あいつを育てたのは俺だ』って自慢させてやるからよ!」


ザックのあまりにも横柄で図々しい要求に、詰め寄られた初老の貴族――王都でも有数の資産家であるヴァレリアン侯爵は、心底呆れたようにため息をついた。


「……君ね。さっきから『俺に投資しろ』『魔法剣をくれ』と要求ばかりだが、君は私に何を【提供ギブ】してくれるんだね?」


「あぁ!? だから、俺が有名になった時に自慢する権利を与えてやるって言ってんだろ! あと、たまには俺のパーティーの飲み会に呼んでやってもいいぜ!」

「……ふん。他人の金で手に入れた名声など、一文の価値もない。それに私は、君のような礼儀知らずの若者とお酒を飲む趣味はないのでね。失礼する」


「あ、おい! 待てよジジイ! クソッ、見る目のねえ奴らばかりだぜ!」


冷たくあしらって立ち去るヴァレリアン侯爵の背中に向かって、ザックは悪態をつき、手元のワインを一気飲みした。


その一部始終を少し離れた場所で見ていたアリサは、思わず顔をしかめた。


(うわぁ……。あれじゃあ、誰もザックさんのスポンサーになろうなんて思わないわよ。自分の『欲しいもの』ばかり要求して、相手にメリットを一つも提示していないんだもの)


第一の魔法『エレベーターピッチ』で学んだ通り、有力者が知りたいのは「あなたと組むことで、自分にどんなメリットがあるか」だ。ザックの言葉には、それが完全に欠落している。


「……あの剣士、典型的な【テイカー(奪う者)】ね」


アリサの隣に、いつの間にかシレーヌが立っていた。

 彼女は今日のガーデンパーティーに合わせたのか、淡いグリーンのドレスに身を包み、優雅にシャンパングラスを傾けている。


「テイカー……ですか?」


「ええ。世の中の人間は、大きく三つのタイプに分けられるのよ」

 シレーヌはグラスの縁を指でなぞりながら、静かに語り始めた。


「一つ目は、自分の利益を最優先し、他人から価値を『奪う』ことしか考えない【テイカー(奪う者)】。あの剣士のように『仕事くれ』『金くれ』『コネを紹介してくれ』と、クレクレ星人になっている連中ね。

 二つ目は、損得のバランスを計算し、『これをしてくれたら、あれをお返しする』という等価交換を好む【マッチャー(バランスを取る者)】。世の中の大部分の人がこれよ。

 そして三つ目が……見返りを求めず、まず自分から相手に価値を『与える』ことを優先する【ギバー(与える者)】よ」


「テイカー、マッチャー、ギバー……」

 アリサは忘れないように、バインダーの端にサラサラとメモを取った。


「いいこと、アリサ。人脈作りにおいて、あの剣士のような『テイカー』は絶対に成功しないわ。なぜなら、人間には本能的に【返報性の原理】という心理が働いているからよ」


「へんぽうせいのげんり……?」


「『人から何かを貰ったら、お返しをしなければならないと感じる』心理のことよ。裏を返せば、『奪おうとする人間からは、全力で逃げる』ということ」


シレーヌは冷ややかな目で、次のターゲット(金持ちそうな商人)を見つけて突撃していくザックの後ろ姿を見つめた。


「人脈という果実を手に入れたければ、自分が果実を『もぎ取る(テイク)』前に、まずは相手の畑に水を撒き、肥料を『与える(ギブ)』ことから始めなければならない。……さあ、あのおバカな剣士の失敗を反面教師にして、本当の『ギブ』の魔法を見せてごらんなさい」


「はいっ!」


アリサはバインダーを抱え直し、ガーデンパーティーの華やかな輪の中へと足を踏み出した。

 クレクレ星人テイカーにはならない。まずは自分から、相手が喜ぶ価値を提供する。

 第四の魔法【返報性の原理】の実践が、幕を開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ