【ウィークタイズ】「ちょっとした知り合い」が扉を開く魔法 3/4
「どうやったら、この関係を一過性のものにしないで、長く付き合っていけるか……ですか?」
アリサはガルドの言葉を繰り返しながら、ふふんと胸を張った。
異業種交流の場で最も多い悩みがこれだ。その場では盛り上がって名刺を交換したものの、その後どうやって関係を維持すればいいのか分からず、結局そのまま疎遠になってしまう。
「ガルドさん、大前提として勘違いしてはいけないのは、彼らと『大親友(強いつながり)』になる必要はない、ということなんです!」
「え? 親友にならなくていいのか?」
ガルドは拍子抜けしたように目を丸くした。
「はい! もし、学者先生や商人さんと、自分たちのメンバーと同じように毎日一緒にお酒を飲んで、お互いのプライベートまで深く知り合おうとしたら、時間がいくらあっても足りませんよね? そもそも生きる世界が違うんですから、無理に深い絆を結ぼうとすると、お互いに疲れてしまいます」
アリサは手帳の『ウィークタイズ』の文字を指差した。
「この魔法の本質は、あくまで『ゆるくて、浅い関係』をたくさん維持することにあります。親友になるのではなく、【信頼できる、ちょっとした顔見知り】のままでいることが重要なんです!」
「ちょっとした顔見知り……。でもよ、そんな薄い関係のままで、次に困った時、本当にまた助けてくれるのか?」
盗賊のメンバーが不安そうに口を挟む。
それに答えたのは、アリサではなく、背後から音もなく歩み寄ってきたシレーヌだった。
「だからこそ、定期的な『ローコスト・コンタクト(軽度な接触)』が必要なのよ、脳筋の皆さん」
「シ、シレーヌ先輩!」
アリサが振り返ると、シレーヌは優雅に扇子をパタパタと揺らしながら、ガルドたちを冷ややかに、しかし的確に見つめた。
「あなたたちは一度仲良くなると、すぐに『家族同然の付き合い』を求めたがる。けれど、異業種の人脈を維持するために必要なのは、熱烈な友情ではなく、【お互いの視界の端に、時々映り込んでおくこと】よ」
「視界の端に、時々映る……?」
「ええ。例えば、街で学者先生を見かけたら『先日の森の調査はどうでしたか?』と一言だけ声をかける。商人のお店に立ち寄ったら『また珍しい研磨剤が入ったら教えてくださいね』と挨拶だけして帰る。あるいは、彼らが困っていそうな噂を聞いたら、自分にできる小さな情報を提供してあげる……。一回につき、わずか一分程度のやり取りで十分よ」
シレーヌの言葉を、アリサが慌てて手帳にメモしながら補足する。
「そうなんです! 年に一回、大掛かりなお祝いをするよりも、数ヶ月に一回、一言二言の短いメッセージを交わす方が、人間の脳内では『親近感』が維持されやすいんです。これを現代のビジネス、あ、じゃなくて私の魔法では【コンタクトの頻度(ザイアンス効果)】と言います!」
「ざいあんす……?」
またしても知らない専門用語をドヤ顔で繰り出すアリサに、ガルドたちは圧倒されながらも、なるほどと深く納得した。
「なるほどな……。わざわざ一緒に飯を食いに行かなくても、すれ違いざまの挨拶や、ちょっとした世間話を切らさないようにするだけで、あの学者先生や商人のおっさんとの『細いパイプ』は繋がり続けるってわけか」
「その通りです! その細いパイプがたくさんある人ほど、いざという時に『誰も知らない秘密のルート』や『特注の装備』を手に入れられる、最強の情報強者になれるんですよ!」
「細いパイプを、たくさん維持する……。よし、分かった!」
ガルドは大きく頷くと、テオ(学者)と行商人が待つテーブルへと力強く戻っていった。
「テオ先生、商人のおやっさん! これから俺たちは、あんたたちの『ちょっとした顔見知り』として、長く付き合っていきたい! 街で見かけたら声をかけるし、珍しい魔物の素材が手に入ったら真っ先に情報を持ってくる! だから、お互いのギルドカードの通信番号を登録させてくれ!」
ガルドの、不器用ながらも裏表のない真っ直ぐな提案に、テオも行商人も嬉しそうに顔を綻ばせた。
「ええ、喜んで! 僕もフィールドワークの時は、ガルドさんのような頼れる護衛がいてくれたら百人力です!」
「ワシも、腕の立つ冒険者に研磨剤のモニターになってもらえるなら大歓迎だ。これからよろしく頼むよ、ガルド」
ガルドのバインダー(ギルドカード入れ)に、新しく二つの『異業種のつながり』がカチリと登録された。
彼らの冒険者人生に、身内だけの閉じた世界から、王都全体へと広がる巨大なネットワークの根が張られた瞬間だった。




