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息も出来ない  作者: 月丘 翠
沙樹side
3/15

こんにちは、初恋②

「楽しみだね」


真理はまるで自分ことのように嬉しそうだ。

土曜日の街は人が多い。

この人だかりの中で1番憂鬱な気持ちでいるのは私に違いない。

沙樹は思い足取りで美容院に向かっていた。


「なんか真理、生き生きしてるし、色々詳しくない?美容院とか」


「それはねぇ」


真理は「じゃーん」と差し出してきたのは、少女漫画だ。


「この漫画の主人公もね、地味で陰キャな女の子なの。それが美の伝道師、大道寺牡丹に出会って生まれ変わって恋を成就させる話なんだけど、この大道寺牡丹がかっこよくて、最高なの!」


「地味で陰キャ女子って。・・・ねぇ、もしかして髪を変えると女は変わるってのは」


「大道寺牡丹のセリフだよ、かっこいいと思わない?」


真理は興奮気味に語っている。

真理は無類の少女漫画オタクだ。

恋愛をしたことはないが、誰よりも胸をときめかせているし、恋愛テクに詳しいと本人は豪語している。


「たかが漫画、されど漫画。騙されたと思ってやってみようよ」

「・・・まぁもう美容院も予約しちゃったしね」

「髪形は私考えておいたから、沙樹が可愛くみえるように」


嫌な予感がしたが、沙樹も美容院でなんと頼むべきか思いつかなかったので、真理を、いや、大道寺牡丹を信じてみることにした。


美容院は苦手だ。

まずは自分の容姿に自信がないのに、大きな鏡に自分の姿が写されてしまう。

鏡の中の見ていると、気持ちが落ち込んでくるのだ。

沙樹の髪形は、黒髪でただ伸ばされただけのロングヘアだ。

ヘアパックしたり、シャンプーにこだわったりも全くない。

ドラッグストアで安めのものを愛用している。

ヘアスタイルも気温や状況に合わせて、ポニーテールになったり、三つ編みになったりするくらいで、ヘアアレンジも不器用でできない。


そして美容院が苦手な最大の理由が、美容師との会話だ。


人見知りな沙樹にとって、美容師との会話はかなりハードルが高い。

“今日はこの後どこか行くの?”

“学校は楽しい?”

真剣に答えるべきなのか、適当に流すべきかわからず、まごついてしまう。

相手は毎日知らない人とコミュニケーションをとるコミュ力お化けだ。

予想通り、様々な角度から会話のボールが投げられる。

コミュ障の沙樹が受け止められるはずもなく、苦笑いをひたすら続けて疲れるのが常だ。


ぼんやりしながら、切られていく髪を眺めていると、様々な工程が行われ、過ぎていく。

気づいたら、綺麗なセミロングになっていた。


「コテって使ったことあるかな?」

「コテ?」

沙樹が頭にたくさんのはてなを浮かべていると、美容師さんが優しく笑ってヘアアイロンの使い方を教えてくれた。

そしてついでにヘアアイロンも購入させられてしまった。


鏡に映る自分を見てみると、まるでさっきとは違う。

髪も艶が出ている。


「沙樹!いい感じじゃん」と言いつつ、真理は「さすが、私」と自画自賛している。


髪に触れるといい匂いがする。

早乙女はこれを見たら、どう思うのだろう。


”そっちの方が俺の好み”といってくれるだろうか。

想像すると頬が熱くなって、息が苦しくなった。

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