こんにちは、初恋①
「沙樹!コンタクトにしたんだね」
真理は驚いた顔でこちらを見ている。
「まぁね。眼鏡壊れちゃったし」
振り返ると何度あの眼鏡はぶっ飛ばされたのだろう。
コンタクトならそういう心配はない。
その事に気づき、翌日休みだったので、早速眼科に行ってコンタクトを購入したのだ。
目が痛くなりそうと思って避けてきていたが、つけてみると大したことはない。
慣れてしまえば、何もつけていないかのような感覚で、なんなら眼鏡より快適だ。
「やっぱ印象変わるね」
真理は仲間ができたと嬉しそうだ。
教室に入ると、お調子もんの男子が朝から騒がしい。
そんな中でも、早乙女はぶれることなく静かに読書している。
沙樹はポケットの中の生徒証を掴んだ。
昨日はメガネがなかったせいで、顔ははっきり見えなかった。
なので、早乙女が助けてくれたのかはわからない。
(でもきっとあの声はそうに違いない)
沙樹は緊張しながら、早乙女へ近づいていく。
「沙樹?」
真理も周りのクラスメイトも沙樹の行動を見ている。
「あの、早乙女くん、これ」
生徒証を差し出すと、ふっと顔をあげる。
美しい顔と目が合って息が止まりそうになる。
「昨日はありがとう・・ございました」
自分の心臓が壊れてるのかと思うほど、ドキドキが止まらない。
頬も熱くて、恥ずかしい。
「別に」
早乙女はそう言ってさっと生徒証を受け取って、すぐに本に目を向けた。
(クールと無愛想は違うだろ)
沙樹はサーっと気持ちが冷めるのを感じた。
しょせんこいつもゴリラや野良犬の仲間なのだ。
もういいやと静かに引き下がろうとした。
すると、小さな声で「いいじゃん」と聞こえた。
早乙女が本に目を向けたまま言った。
「そっちの方が俺は好み」
沙樹は全身の血が煮えたのではないかというくらい、熱くなった。
目を伏せたまま、ゆっくり後ずさりすると、教室を出た。
沙樹はしばらく廊下を歩いて、へなへなと座り込んだ。
「沙樹!」
真理が心配そうな顔で追いかけてきた。
「あいつに何言われたの?!」
“そっちの方が俺は好み”
あの瞬間を思い出して、さらに体温が急上昇した。
その後ふらふらになった沙樹は、真理に連れられて、保健室で午前中過ごすことになった。
その日以来、沙樹の視界には早乙女が入ってくるようになった。
コンタクトにして見えやすくなったからだろうか。
「それは、恋だね」
真理はニヤニヤしながら、お弁当のプチトマトを頬張る。
「沙樹が早乙女様にねぇ・・」
「いや、恋とかそんなんじゃないし。というか、恋とかしたことないからよくわからない」
恋とは今までの自分の人生と関係なすぎて沙樹は自信なさげに返事をした。
「恋ってなんなの?どういう状態?」
「そうだねぇ・・・」
真理は唐揚げをじっと見つめながら考え込んだ。
「なんてことない日常で、早乙女様に全然関係ないことで、早乙女様のことを思い出したら恋をしていると言えるかもね」
「え?」
「例えば、このおいしそうな唐揚げ」
唐揚げをこっちに見せてくる。
「これを食べた時に」といって沙樹の口へ放り込む。
「おいしい」
「美味しい唐揚げを早乙女様と一緒に食べたいなぁとか早乙女様は唐揚げ好きかなぁとかそういうこと考えるようになったら、おめでとう、初恋の始まりだ」
真理のお母さんは料理が上手い。
たまにお弁当をおすそ分けしてもらうが、どの料理もよく食べる家庭料理なのにすごくおいしく感じる。
(これを早乙女が食べたら―)
“そっちの方が俺は好み”の言葉が蘇る。
唐揚げも好みがあるのだろうか。
普通の?ニンニク強めのやつ?
「さーき!沙樹!聞いてる?」
「へ?」
「早乙女様のこと考えてたでしょ?」
「そ、そんな」
動揺で声が裏返って恥ずかしい。
「いい加減認めなよ。恋はしんどいけど、楽しいこともたくさんあるよ。私も応援するからさ」
沙樹がまだ返事をしていないのに真理は満足そうに頷いた。
「じゃあまずは美容院だね」
「え?」
混乱する沙樹に「まぁまぁ」といってスマホでパパっと美容院の予約をする。
「髪を変えると女は変わるんだよ」




