プロローグ
エリック・アルデライトにとって、此度の任務は彼の今後を大きく左右するものであった。
というのも、この任務で一定の成果を挙げられなければ、彼は現在所属しているチームから追放されてしまうからだ。
何故そんな事になってしまったのか……その理由はごく単純、彼が弱いから。その一言に尽きるだろう。
この世界に存在する全ての生命には、闘気と呼ばれる特殊なエネルギーが宿っている。
纏えば肉体の強度と身体能力を著しく向上させる事ができ、外部からの干渉を防ぐ鎧にもなる。
この世界の戦いにおいて、この力の扱いが全てを左右すると言っても過言ではないだろう。
それ程までに重要視されるものなのだ。
そういった力を自由に扱える者達のことを、気導師と呼ぶ。
エリックもまた、そんな気導師達の1人である。闘気を扱う為の最低限の技術は修めている筈だった。
しかし彼は弱者の烙印を押されている。
というのも、彼の闘気にはとある欠点が存在していたからだ
闘気にはそれぞれ固有の『性質』が備わっている。
例えば火の性質を持っていれば、その闘気には本物の火のような高熱や、物を延焼させる能力が付属され、冷気の性質を持つ闘気には、物を冷やし凍結させる能力が備わる。
と、そう言った具合に、各々の性質によって特殊な能力を得ることができるのだ。
エリック・アルデライトが劣っているとされるのはまさにその部分である。
彼の闘気には性質が存在しない。これは闘気を扱う者として、致命的とも言える弱点だ。
闘気による身体能力の強化に加え、性質による特殊能力の行使。本来ならば気導師達はこの二つを武器として戦う事になる。
しかしエリックは無性質だ。最初から手札を一枚失っているに等しい。
そしてその一枚の損失が、他者との絶望的な差を生み出してしまっているのだ。
「これでようやく足手まといから解放されるな」
「ほんと、ずっと疑問に思ってたのよね。何でこんな役立たずが、私達と一緒に行動しているのかって」
そう吐き捨てるように言葉を発したのは、エリックと同じチームに所属するメンバーである、それぞれの名をカルロとリーネだった。
二人は自分達よりも実力の劣るエリックを目の敵にしており、こうして度々小言を漏らしている。
「……仮にも仲間に向かって、その言い方はないだろう?」
「はぁ? お前さ、いつから俺達に物を言える程偉くなったんだよ?」
「だいたい、あんたなんかを仲間と思った事なんて、一度だってないわよ」
エリックが咎めるが、二人はまったく聞く耳を持とうとしない。
弱者の戯言など聞くに値しない、そういうことなのだろう。
エリックの性格上、本来ならばこの様に相手を侮辱する発言は、到底許容できるものではない。
しかし彼自身、自分が弱い事は痛い程分かっている。悔しいが、彼らの言い分は的を得ているだろう。
それ故に強く出られない、気導師の世界は実力主義だからだ。
侮辱されているのが自分だけだというのもまた、彼の反発が小さい要因だった。
罵られるのが自分だけなら、ただ自分が悔しいと思うだけで済む。耐えられない程ではない。
だがそんなエリックの他にも、二人に対して憤慨の念を抱く者はいた。
「もぉ! 二人ともまたエリックに突っかかってるの!?」
長い桃色の髪をツインテールに結んだ少女が、眉を寄せて叱りつけるような口調で二人にそう言い放った。
彼女の名はミナ・カーテナル。エリックとは幼馴染であり、現在このチームで唯一と言える、彼の味方でもある。
「エリックも大事な仲間でしょ! どうしていつもエリックを邪険にするの!?」
「何故って、そいつが弱いからだろ? そのくせいつまでも付き纏いやがる」
「足手纏いが一人いるとチーム全員が迷惑を被るのよ。罵倒されて当然だわ」
自分達が何か悪い事をしたか?と言った顔で反論するリーネとカルロ。
彼らがエリックを罵り、そんな二人をミナが諫める。それがこのチームの普段のやりとりとなっていた。
「だからこそ……!支え合うのが仲間ってものじゃない!それをあなた達はーー」
「いい加減にしろ、お前ら」
ミナが悲痛な表情でそう訴えた時、ここでようやく、チームのリーダーであるアランが口を開いた。
「カルロ、リーネ。はっきりと言っておくが、お前達二人の実力は俺どころか、ミナにすら明確に劣っている。
他人の事をとやかく言える立場か? 自分よりも下を見つけて悦に浸っているようじゃ、程度が知れるな」
「うっ……」
バツの悪そうな顔で縮こまる2人。
リーダーであり、5人の中で最も実力の高いアランにそう言われては、流石の二人も言葉を詰まらせる他なかったのた。
「それにまだエリックを追い出すと決まった訳じゃない。全ては今日の働き次第だ。
……まぁ、残る可能性は低いだろうがな」
鋭い、睨みつけるような視線をエリックに向けながら、アランがそう言った。
そう、一見するとエリックを庇ったかのような発言ではあったが、彼は決してエリックの味方ではない。
そもそもエリックを追放しようと提案したのは彼である。
元々このチームはエリックとミナとアラン、この三人から始まったものだ。
つまりエリックは最古参のメンバーということになる。その上ミナの反対もあった、リーダーであるアランがその気なら、カルロとリーネが何を言ってきても突っぱねる事ができた筈だ。
しかしアランはそうしなかった。2人に同調し、エリックを追放する選択を取ったのだ。
一応ながらチャンスは与えられているが、それは困難かつ理不尽なもの。達成できない事を前提に出されたものだ。
自分達のやっている事は遊びではない。それにアランにも立場というものがある。エリックもその選択には納得していた。
――納得はしているが、諦めてはいなかった。
(絶対に、考えを改めさせてやる……!)
心の中でそう誓う。エリックのエメラルドのような緑の目は、炎の様にメラメラと燃えていた。
ここで止めるわけにはいかない。彼には彼の夢があるからだ。




