骸骨部隊
ヘンリー骸骨たちが竜族の支配地域に攻め込んでいきます。
竜族の小さな村々を襲っていたヘンリー骸骨たちは部隊の強化を実感しだし、次の目標を話し合いだした。
『倒して食らった竜族も、骨となれば我らが手下となった。その数は数百にものぼった』
他の人間型骸骨も、
『もうすでに竜族といえども数体、いや、十数体を一度に貪れるだけの力量を我らは手にしたのだ。これからはさらなる上位を目指そうではないか』
先ほどの骸骨が、
『そうだ! さらにさらなる力を求め、次なる標的に襲いかかろう! そこで提案だ。この先にある奴らの城塞都市を貪り食おうではないか』
それにはヘンリー骸骨が反対した。
『それは止めた方が良い。奴らが本気になる』
『なに弱気なことを言うのだ? 今までだって危ないことなど無かったではないか』
もう一人の骸骨も、
『そうだ、そうだ! 我らが誘き寄せでしくじったことなどない!』
全体が歓声に包まれ、結審が終わった。
その城塞都市は近隣の村と比べれば四五十倍の規模を誇っていた。が、城塞と言ってもその守りは過去の戦いのもので、今では殆どが朽ち果てていた。
それで遠目から眺めた偵察隊は、防備の薄さから簡易なものと判断し、
『我らなら夜中に忍び込むこともできますし、闇にまみれて潜むことも出来ます』
しかし、ヘンリー骸骨は、
『いや、奴らの嗅覚を侮っては駄目だ。我らは骨とは言え独特な匂いを放っている。それは生き物とは違い、奴らにしたら忌み嫌う匂いだ。だから……』
そこで先ほどの骸骨が遮り、
『お前は何にでも反対だな。少しは有益な提案が出来ないのか!???』
『だから、潜むのではなく、誘き寄せの戦法が最適かと』
『その手は使う、が、城内に忍び込んでの挟撃をもやる。これでどうだ?』
それでもヘンリー骸骨は反対したかった、が、これ以上言っても自身が拘束されても無に帰すだけだからと最善を尽くす覚悟に方向転換した。
『では、潜入隊を決める。希望者はいるか?』
そこでヘンリー骸骨は挙手した。
「あん? お前は反対ではなかったのか?」
『だからだ、最善を尽くす。ただそれだけだ』
『ならいけ! 他には? 少なくとも五十人は必要だろう?』
と、ヘンリー骸骨に視線を向けた。勿論、骸骨だから顔色などは窺えない。が、動きでなんとなく分かるようだ。
それでヘンリー骸骨は、
『そうだな、多すぎても少なすぎてもいけないが、五十人程度が適任か』
こうして五十人の選抜が終わったのだが、そこでヘンリー骸骨は自分に指揮権を与えて欲しいと求めた。
『よかろう。反対しただけあって、何か思うところがあるのだろう』
と、主立った骸骨が許可を与えた。
ヘンリー骸骨は敵城塞に近づく前に、どこそこで見かけた獣、犬の類いでも猫の類いでも、家畜の類いでもいいから、殺しそれを持って付いてこいと命じておいた。
闇に紛れての潜入はいとも簡単だった。が、問題はその先にあった。
『お前達、先ほどの死骸の血を体にこすり付けておけ。そしてその死体を体に結わえておくんだぞ。竜族に不審がられたら死んだふりをするんだ。体に結んである死体で、お前達の匂いも誤魔化せるだろう』
こうしてヘンリー骸骨と五十の骸骨たちは、その時まで死んだふりをし、身動き一つせずに横になっていた。
そのしばらくして戦闘の気配がし出した。
遠くでの叫び声は仲間同士の伝達なのだろう。それと共に破壊され崩れ落ちる瓦礫の音も大きくなる。きっと敵か味方の攻撃で建物などが破壊されたのだろう。
そのうち戦闘員なのだろう、集合してゆく足音も響いてきた。
そしてその足音が場外へと向かっていった。
この時を待っていたヘンリー骸骨は、
『総員、攻撃を展開せよ! 残っている竜族は戦闘員ではない。ひ弱な一般市民か弱者の雌型だ! 一匹一匹、食らって食らって吸い尽くせ!』
五十の骸骨が近場にあった建物に突入し、悲鳴を上げた竜族に飛びかかった。
ヘンリー骸骨の想定通りにその竜族はいとも簡単に骨と化していった。
『よし、次に行くぞ!』
そこに異議を申し出たものが、
『これなら手分けした方が良いのでは?』
『いや、一匹に時間は掛けられない。それに用心に越したことは無いからな。良いか、紙一重でも勝てば良い、が、紙一重で負けてしまったら全てが無に帰す!』
『はい!』
こうして一匹釣りが始まった。
次々に襲っては骨にしていくヘンリー骸骨は益々肥え太っていった。
『おぉ!! すこぶるうまいですね!』
と、骸骨の仲間が吠えた。
『おおぉ! 俺なんて来た時の二倍にまで膨れあがったぞ!』
骸骨どもは竜族の生気を吸い、肉を食らって霊力をどんどん天井知らずに増強していった。こうなると、一匹を倒す時間もさらに短くなっていく。
その勢いを見てヘンリー骸骨は判断をし、
『良し、ここで四手に分かれる。竜族の骸骨も含め、二十五ずつに編成せよ』
非戦闘員だった竜族も肉を失って骸骨になったら、骸骨の特質が備わったのか、強力な戦闘員になっていた。それは、かつては仲間だった竜族の肉が食いたいからだったのかも知れないし、生気を吸いたいからなのかも知れない、が、仲間に対しての異常なほどの敵愾心、あるいは憎悪を発揮し、我先にと襲いかかっていた。
この増殖はとどまることを知らず、最初の五十が百になり、瞬く間に千になっていた。
『増員した分、どんどん分裂した編成にしろ! そろそろ場外の戦闘に加わるぞ』
こうヘンリー骸骨が命令している時には、場外で大戦闘が行われていた。
場外に誘導していった骸骨軍団は、所々に待ち伏せ、そして強襲しての捕食に余念が無かった。
これに対抗するには組織だった作戦でなければ太刀打ち出来ないのに、竜族は自画自賛したために、早い話が自惚れたために骨の軍団に突撃しか仕掛けない。
そのために、次から次へと仲間を減らしていった。
骸骨軍はその反面、どんどん戦闘員を増やし戦闘力を強化していった。
その構図に気が付いたときには、前に骨の軍団、後ろにはヘンリー骸骨の軍団によって挟撃状態にされた。
「うぬぬ!!!! 仕舞った!」
その数、数百となった竜族は一塊となって身震いしていた。
「こうなったら一斉攻撃しかあるまい!」
しかし、他の正員が、
「突破する手もありますが?」
指揮官らしいものが、
「馬鹿を言え、個々を突破してどこに行く? これほどの醜態を晒して我らが生き残れるとでも思うのか? あの赤龍帝を思い出してみろ!」
先ほどの正員が震え上がり、
「分かりました。ここが我らの墓場と心得ました」
「それが良いだろう。その方が楽に死ねるというもんだ」
竜族を取り囲んでいる骸骨軍団の総勢は二万を超えたいた。なのに竜族の戦闘員は数百であった。
こうなれば蹂躙という言葉が思い浮かぶ。
『あいつらはまだやる気だぞ! 気を緩めず襲いかかれ!』
骸骨集団にしてみたら、餌場に群がるのと同じだ。食い扶持は早い者勝ちと決まっている。そして食った分だけ自分が強くなるのだ。だから、躊躇などしていられない。
が、竜族とて並の戦闘員ではない。ここまで生き残ってきたと言う強者である。その強者が死を覚悟しての一撃だ。
凄まじい破壊力があった。
ヘンリーが放つようなファイヤーボールが数百メートルの範囲に降り注ぎ、放電球が次から次へと転がってくる。そのたまに近づいただけで弱い骸骨なら粉砕され、強い骸骨なら耐えきるのだが、かなりの消耗を余儀なくされた。この場合、一撃は耐えても二撃目を耐えることが出来なかった。
その数百の竜族が放つ魔法で群がり襲いかかった骸骨集団の半分は溶けたのだが、生き残った者達が竜族の群れの中に入り込み、竜族の攻撃を封印し、勝敗が決した。
『我らの勝利だ!!!!!』
こうして骸骨軍団はその城塞都市で生き残っていた竜族を悉く見つけ出しては肉を食らい生気を吸い取り、骸骨化させて仲間に加えていった。
ついに骸骨軍の数量は三万程となって強さの点で誇るようになった。
だが、現実的には骸骨たちの認識とかけ離れていた。
竜族には、ここにいたような恐竜的な竜族と、ドラゴン的な竜族がいた。そのドラゴンの強さと言ったら、恐竜など蟻に等しかった。
だから、この骸骨集団が、たとえ恐竜の竜族と等しいほど強くなったとしても、ドラゴンの足下にも及ばない。
しかし、その事実をこの時の骸骨軍団には知るよしもない。
なのにヘンリー骸骨は意味深な発言をした。
『みんな聞いてくれ! 俺たちに拠点なるものが必要だろうか? 俺たちに子供、あるいは子孫など望めるのだろうか? 答えは否だ! だったらここに居座る意味などないではないか! それに……』
と区切ったヘンリー骸骨に、主立った者が、
『それに? 何が言いたい?』
『我らが国を持つとしたら、そう考えたことはないか?』
主立った骸骨はすぐに頷き、
『なるほど、我らは元は人族だからな。そのことを言いたいのだろう?』
『そうだ、国を持つとしたら人族の国を切り取って、我らが王国としようではないか!』
その主立った者の目が光った。そう、『王』という言葉に惹かれたのだ。
『では、この地は?』
『この地は竜族にしてみたらほんの一部分にすぎないが、ここまで荒らされたら、さすがに奴らも動き出すだろう。竜族に聞いたら、化け物がわんさかといるらしい。だったら、ここは適当に掃討した後、撤退するのが良いと思う』
(この時のヘンリー骸骨の脳裏には、オスカル正規の名前をエドワードと言う男の子の姿が映っていたのかも知れない。それで人族の国を切り取ろうと言い出したようだ)
『では、早速、そこら中の村々を襲いまくれ。各自、好きなようにするんだ。ただし時間的期限を設ける。今から一週間後に集合だ。遅れたものは知らんぞ!』