入学式の出来事
エドワードのちょっとしたアルバイトです。
その日、朝からマリアは上機嫌で夫の男爵の世話にかかりっきりだった。エドワードの世話とかは侍従とかラーラに任せっきりにしていた。それは、彼女なりの考えがあってのことだ。
「これで良し! っと、流石は私の旦那様、独身貴族に見えますよ」
「馬鹿を言え、お前こそ若作りしているじゃないか! まるで独身の貴婦人だぞ」
「あら? 虫が付くかもと心配ですの?」
「まぁ、近寄ってきたらわしの鉄槌をくれてやる!」
「あら、頼もしいこと!」
そんなところにラーラが困り顔でやってきた。
「お母様、少しはエドワードに言うことを聞くように言ってください。わたしの言うことなんか、ちっとも聞かない」
「あら? どうしたの?」
「服をすぐにくしゃくしゃにしちゃうんですよ。せっかくアイロンをかけたのに!」
「あらら、それなら私がやりますからラーラは旦那様をお願い」
「はい!」
と、ラーラは嬉しそうに部屋に入ってきた。
母親がエドワードの部屋に入ると、腕まくりをし袖口に皺を一杯作っていた。
「エドワード! いっその事半袖にする?」
と、彼女は裁断鋏を動かしてみせる。
それには参ったとばかりにエドワードは、
「いえ、お母様、それには及びません」
と、まくった袖口をもとにもどした。
「それで支度の方は?」
「あとは鞄を持つだけです」
「中身は入っているのよね?」
「教科書等、完璧です」
「だと良いのだけれど、では参りましょうか!」
「はい、お母様」
と、エドワードにしてみても母親は苦手のようだった。
四人で乗る馬車が気持ちよさそうに走り、貴族学院に到着した。
馬車から降り立ったエドワードは直観で争い事を察知した。それで、家族に気付かれないように誘導し、その現場から離れていく。
その仕草が空空しく感じたラーラが、
『なに気取っているのよ! 行くんだったら行きなさいよ。後は私がなんとかするから』
と、エドワードの背中を叩くように押しやった。
『たのま!』
そう言って音も無くエドワードはきびすを返し、その争いを忍ばせた。すると、知っている男が、ヨハンソンとその仲間達に囲まれていた。
そこでエドワードは、骸骨たちとの生活で習得した生気の吸引術を使い、ヨハンソンからほんの僅かな生気を吸い取った。
エドワードは極々僅か吸い取っただけなのだが、ヨハンソンは急に気分が悪くなり立っていることすらままならなくなった。
それでよろけてしまったのだが、仲間達が彼を支え、
「どうしたって言うんだ? 昨日の酒がまだ抜けきっていなかったのかよ?」
と、悪ふざけの続きをしている。
「いや、急に目眩がしてな。少し休めば大丈夫だろう」
「じゃ、教室に戻るとするか!」
一人がそう言うと、もう一人の取り巻きが、
「良いか! これからは注意して歩くんだぞ!」
と、威張り散らしていくことを忘れなかった。
仲間の肩を借りてよろけながら歩いて行くヨハンソンに、エドワードは吸い取った生気の幾分かを戻せば、ヨハンソンが急に元気になって、
「あれ? なんだか大丈夫そうだぞ?!」
と言ったものの、やはりまだふらつくようで、
「おっとっとと!」
と幾分元気そうに消えていった。
その後を追いかけるようにエドワードが、
「よう、おはよー! これからよろしくな!」
と、ヨハンソンを追い抜きながら言葉を掛けた。
少しは元に戻ったヨハンソンは、弱音を見せまいと、
「おぉ、お前もよろしくな!」
と、出来るだけの大きな声で応えていったが、それ以上の威張ったり、エドワードを蔑んだりはしたくても出来なかった。
教室に戻ると父も母も彼を探していたようで、
「エドワード、こっちよこっち!」
と、手招きしていた。
(この時使ったエドワードの生気の吸引は極めて危険な業で、人の生気の半分以上を吸い取れば回復は望めず、徐々に死に至る。このかかる時間は残った分量によって決まり、少なければ数時間単位、多くても数日単位と短命だ)
こうして学院での入学式も終わり、エドワードは日課のようになっていたとさつ場に足を運んだ。
「こんにちは、今日もお手伝いしますね」
こう言ってエドワードは処分場に入っていった。
「おぉ、今日もよろしくな。今日は牛が二十四頭で豚が三十頭だ」
「それならちょこちょこっとやっちゃいますね」
そう言ってエドワードは牛舎に行き、なんてこと無く手綱を惹いていく。
(このとさつ場では、牛や豚も家畜とは言え気配で察するようで、牛舎に繋がれていても殺気立っている。その必死になって抵抗する牛や豚を、無理矢理引っ張って処分場に連れて行くのだから、人力ではとにかく骨が折れる)
連れて行く前にエドワードは牛の生気を動ける程度残し、後は吸い取る。そうして牛の抵抗を無にし、後はとさつするだけにしていた。そして、殺傷処分するときにも残りの生気を完全に吸い取った。
そうして彼自身は生気に満ち満ち、霊力の増強を図っていた。
(ちなみにだが、この生気が吸い取られた牛や豚の肉類についてだが、人間にとっての味覚や食感に変化はない。ただ、生気を吸い取ったり食したりする系だと、明らかな見劣りのする肉類となるのは間違いない)




