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40 片をつける④種明かし

 はっきり言って、一方的な戦いだった。


 ダークナイトの勢の条件は、敵を斬ること。

 斬れば斬るだけ勢が上がる。

 俺はのびのびと加速し、存分に黑閻劍を振るった。


 この程度の相手なら、勢を考える必要すらない。


 一太刀で一人を斬り。

 次の一太刀では二人を斬った。

 三人をまとめて串刺しにし。

 逃げた二人の首を後ろから刎ねた。


 それで終わりだ。

 俺にはわざわざ敵を嬲るような趣味はない。

 片付けられるものはすぐに片付ける。

 それだけだ。


 最後に残ったのは奴隷商だ。

 ルドルフとか言ったか。

 地べたにへたり込み、失禁している。


 俺はルドルフに黑閻劍を突きつけ、問い詰める。


「おまえはどこまで知っていた?」


「ば、バフマンのことか……?」


 ルドルフがあたふたと言った。


「他にもあるが、まずはそれだ」


「ど、奴隷を竜に喰わせていることくらいは……」


「奴隷を手配したのは当然おまえだな?」


「せ、セブンスソード以外では合法だ!」


「そんなことは聞いてない。

 ファイアスプライトの核はどうしていた?」


「ファイアナイトの拝剣殿からの横流しだ……。

 こちらは代わりに奴隷を用意する。

 余った分はこちらで使って構わないと……」


「なぜファイアナイトはそんなことを?」


「あ、焦っておったのだろう。

 聖竜討伐でファイアナイトは数を減らした。

 おまけに近年はSランクが出ていない。

 セブンスソードでの発言力が下がると……」


「……そんなくだらないことのためにか」


「バフマンはわしに取引を持ちかけた。

 竜を進化させて魔剣を造る(・・)

 その力でSランクになる。

 そうなった暁には便宜を図ってやる。

 だから協力しろと……。

 すべてあいつの言い出したことだ……」


「ふん、奴隷の言いなりになる主人がいるかよ」


「ど、奴隷といえど、反乱することもある!」


「利害が一致したから協力したんだろうが。

 竜の進化ってのは、どこかの情報だ?

 人を喰って竜が進化するなんて聞いたことがない」


「し、知らぬ。本当だ。

 バフマンがそう言っておっただけだ。

 血の気は多いが、計算はできる男だ。

 根拠がなかったとは思えぬ」


「バフマンの情報源に心当たりは?」


「バフマンは元剣奴だ……。

 その頃に得た情報だと思っておった。

 剣奴の出自は様々だからな……」


「悪名高い『剣闘』か」


 南で行われているという剣闘。

 奴隷にした魔剣士同士を戦わせる見世物だ。


 そこでふと、思い出して聞く。


「おまえは堕剣に関わってるのか?」


 堕剣が二本同時発生している。

 しかも、アクアナイトとウィンドナイトだ。

 バフマンの目論見とタイミングが一致してる。


「だ、堕剣だと?

 し、知らぬ」


「…………」


「ほ、本当だ!

 だ、だいいち、どう関わりようがある!?

 都合よく魔剣士が堕ちるわけがなかろう!」


「……まあな」


 嘘を言ってる様子はない。

 この状況で嘘をつく余裕もない。


(言ってることも筋は通ってる)


 堕剣については偶然だとしてもおかしくはない。


「なら、もう用はないな」


「待っ――」


 黑閻劍を振るう。

 ルドルフの首が宙に舞った。



    †



『さて、どういうことか説明してもらおうか?

 なぜおまえはダークナイトの力が振るえる?

 闇の魔剣は奉納したのではなかったのか?』


 すべてが終わったところで、ザカーハが言った。


 俺は黑閻劍を左手に戻す。

 全身を覆う闇色の甲冑が解除される。


「といっても、気づいてたんだろ?」


 ルディアが竜鱗の影響で倒れた時のことだ。

 こいつは俺の左手にこれがあることに気づいてた。


『まあな。

 魔剣をおのが身体のうちに取り込んだ、か。

 およそ人間のすることではない』


 ザカーハの声には恐れが含まれている。


「魔剣士の腕を分けるのが何か、知ってるか?」


『むろん、魔剣を使いこなす技倆であろう』


「そうだな。

 魔剣に振り回されるのが三流の魔剣士。

 魔剣に歯止めをかけつつ戦うのが二流の魔剣士。

 そして、魔剣を使いこなすのが一流の魔剣士だ。

 だがな、その上がある」


『その上、だと?』


「魔剣の本質を身体に刻み、自らが魔剣と化す。

 それが、超一流の魔剣士だ」


 魔剣は魔剣士の分身であり、

 同時に、魔剣士が魔剣の分身となる。


 魔剣士と魔剣は、伴侶ではない。

 魔剣士と魔剣は、半身(はんしん)ですらない。

 魔剣士と魔剣は、一身にして一心。

 魔剣士と魔剣は、一にして二ならざるもの。


 魔剣士は魔剣という「物」であり、

 魔剣は魔剣士という「者」である。


 互いが互いに寄生する、

 もはや分かつことのできない、

 一個の完成された歪なイキモノ。


 全ての魔剣士が焦がれてやまない至高の頂点。

 全ての魔剣士が恐れてやまない最悪の堕落。


 魔剣士はおのれを滅却して生きた魔剣と化し、

 魔剣はおのれを握る者を通して魔剣士と成る。


『それは……比喩であろう。

 文字通り、魔剣と一体化するなど……』


「そもそも、魔剣ってのはなんだった?」


 唐突な問いに、ザカーハが戸惑う。


『む? 魔剣とは……

 魔物が魔力を現象へと変ずる「仕組み」の残骸だ』


「だな。

 魔物は、体内で魔力を現象に変換できる。

 魔物の死後、その仕組みだけが残ったのが魔剣だ。

 だから、魔物を倒すと魔剣が生まれるわけだな」


 サリーがルディアに教えてくれた通りである。


 今さらな話に、ザカーハが訝しげに聞いてくる。


『ナイン。おまえは何が言いたいのだ?』


「魔剣は、元は魔物の体内にあった。

 人間の臓腑と同じ、ひとつの器官としてな。

 つまり、魔剣は魔物の一部なんだ。

 だとしたら――

 魔剣を、人間の内に取り込むこともできるはずだ。

 剣ではなく、臓腑のようなひとつの器官としてな」


『なぁっ……!?』


 俺の言葉に、ザカーハが絶句した。


「自分の中に魔剣という『仕組み』を取り込むんだ。

 そうすりゃ、体内で魔力を現象に変換できる。

 俺は魔剣になり、魔剣は俺の一部になる。

 肺は空気を取り込む。

 心臓は血液を全身に送る。

 魔剣は、俺の魔力を現象に変える。

 俺は、魔剣を臓腑のひとつとして取り込んだ。

 そういうことだ」


『そういうことだ……ではないわ!

 わかっておるのか!?

 それはすなわち……

 おまえが魔物になるということではないか!』


「体内に魔剣を抱えてるって意味じゃ同じだな。

 だが、それがどうしたってんだ?

 そうすれば強くなる。

 そうとわかっててやらない理由がない」


『……狂人の発想だ』


「それは否定しねえよ。

 ま、そんなわけで、俺の左手にはこいつがいる。

 本当はこいつも奉納するつもりだったんだがよ。

 切り離す方法がなかったんだ。

 それで、未練がましく残してたってわけさ」


 俺の言葉に、左手が不服そうに唸った。

 といっても、剣が声を出したわけじゃない。

 不服そうな気分が伝わってきただけだ。


「俺はもともと左利きでな。

 ザカーハも左で握ろうとしたんだが……」


『そやつが抵抗した、というわけか』


 俺はザカーハを右手で抜いた。

 伸ばした左手が、他の魔剣を拒んだからだ。


「ああ。無理強いしてもしょうがねえ。

 右手でも戦えるし、おまえは右で握ることにした」


 ルディアの発作の時にも抵抗されたな。

 あの時は、無理やりザカーハを握らせた。

 治癒の剣を使うだけだったからな。


 以降は右手でザカーハを握り、戦ってる。


『慣れぬ右手、慣れぬホーリーナイトで……。

 おまえはそんな状態で戦っていたというのか?

 あのバフマンという男とも』


「あれはちょっと危なかったな。

 もう少し慣れてればとは思ったけどよ」


 ルディアの活躍があったおかげで助かった。

 かなり手を焼いていたのだ。

 ファイアナイトだけに……ってわけじゃないが。


『なぜ、左手のそれを使わなかった?』


「自分で自分に課した制約なんだ。

 あの程度の奴相手に破れるかよ」


 まあ、その後の崩落ではズルをした。

 闇の巡でルディアを抱えて逃げたのだ。

 ホーリーナイトの巡では間に合わなかったからな。


 それに、ダークナイトで長く戦うのは危険だ。

 俺が、じゃない。

 一緒にいたルディアが、だ。


 そもそもそのためにホーリーナイトになったのだ。

 なお、今はルディアとは別行動をしている。


「疑問は解けたか?」


『む、ああ……。

 思った以上にとんでもない男だったのだな』


「まだまだ半端者さ。

 結局こいつを解禁しちまった」


 俺は苦笑いして首を振る。


「さ、種明かしが済んだら行くぞ」


『どこへだ?』


「もう一件、カタつけとくとこがあるからな」

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