34 初仕事⑨介入
「ぎゃああああっ!」
ギャリスに斬られた奴隷が悲鳴を上げる。
そばにいた他の奴隷も悲鳴とともに逃げ出した。
「逃げんなっ!」
ギャリスが魔剣と烙印を感応させる。
「ぐあああっ!」
身を襲う高熱に、奴隷たちがのたうちまわる。
その一人一人を、ギャリスが斬った。
斬り殺したのではない。
死なない程度に加減して斬ったようだ。
「そらっ、竜のところに行くんだよ!」
ギャリスが蹴飛ばし、奴隷を竜の方へ押しやった。
「ちっ、深く斬りすぎたか」
動けない奴隷の脇を抱え、竜に運ぶギャリス。
「まさか……」
俺がつぶやく。
俺の隣で、ルディアが青い顔をしていた。
バフマンが、奴隷の一人を掴んで竜の前に運ぶ。
「さあ、亜竜!
俺が憎いか!
たっぷり憎め!
復讐したいならその力をくれてやる!
こいつらを喰うんだよ!
もうじきおまえは真竜になる!
その力で俺を殺してみろ!
他におまえの生きる道はねえぞ!」
竜が淀んだ目をバフマンに向ける。
竜はもはや動く気力もないようだ。
あんな状態では生きてるだけでやっとだろう。
だが、
「言うことを聞かねえか、クソ亜竜が!」
バフマンが手にした魔剣に力を込める。
烙印との感応だ。
が、反応したのは奴隷たちではなかった。
――グギャアアアアッッ!
亜竜が、縫い付けられた身体を暴れさせる。
「なっ……あれは……!」
亜竜の全身に、烙印があった。
亜竜は、真竜と違い、竜鱗は一部にしかない。
その竜鱗も、ところどころ剥がされている。
竜鱗のない地肌一面に、赤い烙印が光っていた。
百や二百では効かない数だ。
「あいつら……!」
亜竜を地面に縫い付け。
さらに奴隷の烙印で従えた。
竜は、魔剣士にとって討つべき敵だ。
だが、だからといってこんなことは……。
「喰えっ、喰えよ、亜竜!」
バフマンが命じる。
俺の背後でルディアの動く気配がした。
俺は即座に、ルディアを岸壁に押し付ける。
「うぐっ……は、離してください、ナイン!」
飛び出しかけたルディアを止めたのだ。
前と同じ過ちを繰り返すつもりはないからな。
「落ち着け!」
「これが落ち着いていられますか!?」
「わかってる。
俺もこれを見過ごすつもりはない」
「だったら……!」
「作戦は必要だ。よく聞け――」
俺はルディアに作戦を耳打ちする。
ルディアの身体から抵抗が抜けた。
†
「――待てよ」
俺は、円形の台地に飛び乗り、そう言った。
バフマンとギャリスが振り返る。
「あっ、てめえはいつぞやの……」
「おまえは、拝剣殿の時の……」
ギャリスとバフマンが驚いて俺を見る。
「亜竜を真竜に進化させて魔剣にするって?
そんな企みを看過するわけにはいかねえな」
「ほう、面白い。邪魔立てするというのか」
バフマンの全身から殺意が膨らむ。
「あん時はわけのわかんねえうちに負けたが……
今回は二体一だ!
勝ち目があるかよ!」
「前回も二体一じゃなかったか?」
しかも人質までいた。
「う、うるせえ!
こいつはなぁ、Sランクにもなれる逸材なんだよ!」
ギャリスがバフマンを指して言う。
「Sねえ……」
たしかにいい腕をしてるが、Sかというと微妙だ。
もっとも、ホーリーナイトの俺よりは強いだろう。
「この企みは、おまえの主人の命令なのか?」
俺はバフマンに聞いた。
「主人? ハッ、誰のことを言っている!?」
「誰って……」
「あの奴隷商か?
あんなもの、斬ろうと思えばいつでも斬れるさ」
「まあ、そうだろうな」
烙印があるとはいえ、不意をつけばいいだけだ。
他に護衛がいてもバフマンならやれるだろう。
「奴隷を集めるのには便利だったからな。
利用されてやったまでだ。
奴は俺が恐怖で従ってると思ってるがな」
「違うのか?」
「ふざけるなよ」
「奴隷に甘んじてる奴のことを、奴隷という」
「……んだと?」
「利用してる。
いつでも斬れる。
そう言っておまえは主人に尻尾を振ってるのさ。
主人は主人で、おまえの目論見を利用してる。
拝剣殿に取り入る道具にしようってんだろう。
いくら吠えても飼い犬は飼い犬だ。
主人の喉笛噛みちぎる度胸なんざないのさ」
俺の挑発に、バフマンが重く沈黙した。
「……取り消せ」
バフマンが赤黒い顔でぼそりとつぶやく。
「取り消せッ! その言葉を!」
「やだね。
自分は奴隷じゃない、だから亜竜を奴隷にする。
だから亜竜に奴隷を喰わせる。
そうやって、自分は奴隷じゃないと言い聞かせる。
必死すぎて笑えるぜ」
「……てめえは……殺す!」
ぎぢり、とバフマンの奥歯の軋る音がした。




