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9 いくらダンジョン攻略が難しかろうと、所詮は幼女である

9 いくらダンジョン攻略が難しかろうと、所詮は幼女である


 あれほどの雨が嘘だったかのように。空は晴れていた。もう夕暮れ時で、赤紫に染まった空と雨上がりの湿った土と草の匂いがなんだか哀愁を感じさせていた。

「ここが入口だ。」

 サキュバスは洞窟を見上げて言った。その洞窟は何もかも吸い込みそうなほど暗くなんだか恐ろしい。

「ところで、あのゴーストは無事なんだろうか。」

 俺の声は洞窟に響く。

「今、そんなつまらない話をするなよ。まあ、あの女は簡単に死ぬ賜じゃない。」

 サキュバスは目を合わせない。別に俺たちを嫌っているわけでもないから、そう言う人間なんだろう。

 俺たちは一歩踏み出す。

「暗いわね。私元気なくしちゃうわ。」

 復活したアルラウネは言う。アルラウネは日光がないと使い物にならないことを思い出す。

「そんなに暗いか?」

 俺はもう暗さになれていた。

「流石マンティコア。ライオンは夜行性だからね。」

 なるほど。意外と俺の能力は使えるらしい。でも、それは逆に光に弱いということでもある。急に明るくなると、目の前が真っ白になってしまう。

「きゃあ。」

 アルラウネは俺に飛びつく。

「なんだよ。」

「背中に冷たいのが――」

 きっとしずくでも垂れたのだろう。一々引っ付くな。加齢臭がする。

 俺はアルラウネを剥がして、先に進む。

「どこにブエルはいるんだ?」

 俺はサキュバスに聞いた。

「このダンジョンを抜けた先に頂上へと進む道がある。」

「それはどこに?」

「ダンジョンだから、刻一刻と姿を変える。」

 こういう時、そういう設定嫌だよね。

「何か化け物はいるのか?」

「基本的にはいない。ただ、野垂れ死には多いな。」

「止めてくれよ。」

「いいや、事実だ。」

 化け物は飢えて死ぬことはないが、延々と彷徨い続けるかもしれない。

「なんかいい方法はないのか?」

 俺は怖くなって聞く。

「まあ、こういう時、壁をずっと伝っていくと、ゴールに着くってのが定番だよね。」

 スライムはいつもの調子で言った。

「もしくは――」

 サキュバスは珍しく俺を見て言う。

「壁をぶっ壊すかだ。観月先生もそうしてただろ?」

「分からない人に説明しておくが、カードキャプターさくらだ。」

 何故俺がわざわざ説明をしなきゃいけない。というか、サキュバス、見てたんだな。


「ぜぇ、はぁ。」

 俺は息を荒げている。壁を何十枚も壊したのだ。そして、ようやく階段へ。

「四角い正方形の形に場違いな階段の形。ダンジョンの定番だよね。」

「なに、冷静に言ってんだ。」

 俺は疲れながら、スライムに言った。

「ここは何階まであるのかしら。」

「さあな。百階まであるかもしれない。」

「俺、死ぬ。」

「怪物は死なないさ。」

 何をクールに言ってやがる。俺は死にそうだ。

 みんなは俺より先に階段を上っていく。いたわる気持ちとかないのか。まったく、俺の扱い酷くないか?異世界生活ってこんなものだっけか?

「そう言えば、お宝とかあるのかしら。」

 アルラウネは楽しそうにうきうきとしている。

「ああ。あることにはあるが、近づかない方がいい。あれはどんな化け物より恐ろしい。」

 俺はミミックを想像してしまう。ミミックのモンスターとかいるんだろうな。


「ああ。もう、無理。」

 五階ほど登って、空が見えるところまで来た。

「ここからが本番だ。」

「はあ・・・」

 この先は坂が続いていた。きちんと舗装してあって、球でも転がせそうな坂・・・

 ごろごろごろ。

 嫌な予感がした。

「嘘だろ。」

 坂の上からまあるい石が、いや、岩が転がり落ちてくる。お約束っちゃあ、お約束だけど。

「おい、スライム。何とかしてくれ。」

 俺より強いスライムならなんとかできると思ったのだ。だが、スライムは岩が目前に迫り、何事もなく、体を変形させて岩と壁の間に潜り込む。

「嘘だろ。」

 サキュバスは羽を伸ばし、ぱたぱたと空を飛んで逃げる。

 空、飛べたんだ。

 アルラウネは蔦を伸ばし、岩肌に逃げる。

 うわあ、便利。

「うおおおおあああああ。」

 俺は全速力で逃げる。あんな岩、壊しただけで体が潰れる。それに飛び越えられないほどの高さ。

 もう、嫌。

 俺はトマトのように潰された。


「なあ、もうこんなの嫌なんだけど。毎回毎回。」

 目を覚ました俺は抗議する。

「でも、再生能力高くなってない?」

「まだ、潰れて一時間だな。」

「少しは俺の心配しようよ。」

 休憩?したのか俺の疲労はとれていた。

「さあ、行くよ。」

「お前が一番最低だよ。」

 スライムを筆頭に一同は山を登っていく。

 山の頂上には、アールピージーで出て来そうな魔王の城。

「ここにはどんなヤツがいるんだ?」

 参考までに恐る恐る聞く。

「サタンにベルゼブブにルシファー。」

「最強ばかりじゃん。」

 逃げ出したくなってきた。空には星が見えているというのに、城の上空だけに黒い雲がかかり、雷がごろごろ言っている。

 風が吹く。

 その風にあおられて、城が倒れた。

「倒れた?」

 そこに現れたのはちゃぶ台でお茶を飲む四人の幼女。みんな悪魔っぽい恰好をしている。

「秘密を知られたからには生きて還さんぞ。」

 俺は幼女にデコピンする。

「うわああん。痛い。」

「まさか、ルシファーを倒すとは。しかし、ヤツは四天王最弱。」

「生麦生米生卵。はい。」

「にゃままみにゃままめにゃままも。」

「失格。」

 二人目の幼女も倒れた。

「くっくっく。ベルゼブブはしてんにょうしゃいじゃく。」

「アウト。」

 ばたり、と最後の幼女も倒れる。

「どんな茶番だよ。」

 最後までお茶を啜っていた幼女が言う。

「お前がブエルだな。」

「いかにもたこにも。」

「一番まともそうでよかった。」

 俺は胸をなでおろす。

「で、用はなんだ?」

 ブエルは温かいお茶をすする。

「天使の呪いを解いて欲しいんだ。」

「これまた厄介な案件を持ち込みよって。」

 ブエルはお茶を置く。

「だが、悪魔はただでは動かん。何か代償を貰わねばな。」

 サキュバスはポケットから飴を出す。

「合格。」

 ちょろいな、悪魔。


 安定しない俺のように下る坂をブエルを連れて降りていくと、なんだか胸騒ぎがした。

 その正体に気が付いたとき、誰も口を開けないでいた。

 森が燃えていた――



 ブエルについて

 そこそこ有名なソロモン王の使役した悪魔の一人。72柱と言った方がいいのか。ソロモン関係なので当然旧約聖書の登場であるが、のちの魔術での悪魔使役において非常に重要視され、四つくらいの魔導書に描かれている姿が最も有名。(ほら、ゴエティアとかね)

 本来の姿は五つのヤギの足を持つライオン。ちょっと魔導書とかに書かれている姿は面白いので画像検索してみてもいいかも。悪魔ファンならバフォメットの次にに有名?かも。あとはベルフェゴール?

 薬学の知識を教えてくれるという、72柱最高の哲学者。(もう一人似たような悪魔もいたけど……)

 今作では知識の披露のみとなる。戦闘能力は皆無。だって、幼女だもの。そもそもに72柱ってそんなに戦闘系の悪魔いないからね。

 人間体は眼鏡幼女。ライオンっぽい鬣のついたフードを被っているかも。


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