91 イアータの得意技
「セナ~、チェスしに来たよ」
チェスをする、というのは、セナに呼ばれているということだ。もう2人しかいなくても、チェスはチェスだし。
リサはもう、あの報告があった2時間後に『処分』された。私たちの立ち会いを拒否したらしい。
「ねぇ、アーリア・ヘアマーチって分かる?」
「アーリア・ヘアマーチ? 誰それ」
まぁセナは知らないよね。下っ端だし。
「金髪で緑色の目の普通の美女」
「悪い、普通の美女ってなんだ? 私には分からないんだけど」
「艶めかしくもない、人形のようでもない……なんの特徴もない、ただの美女。つまんないよねぇ。私並みに綺麗すぎたら、それだけで特徴になるけど……あれじゃあ、ね」
「あんたの自信満々さが怖いよ、私は」
「こいつはいつもこんなだぞ。というか間違ってもねぇだろ」
「あなたたちは結局、なにを話し合いに来たんです?」
あ。という声は3人分重なった。
「リサ・オーテスが処分されたことはもう知ってるだろ? そのことに関して、もし必要なら隊内カウンセラーの紹介をと思って」
「は? いらないけど」
「あ? いらねぇけど」
完璧に重なった声に、セナとカータは呆気にとられて私たちを見る。
「そう、か……」
「だって、カウンセリングなんて自分でできるし。それに今は必要ない」
「俺だってイアにしてもらえば済む話だ。しかも、リサのことは気にしてない」
冷たいとも思える発言は、一応私たちの非を認めて供養してる発言。もう気にしてない。だから早く成仏を。私たちが悪かった。だから恨むなら勝手に恨んでいいよ。
説明しても変な顔されるだけだけど。
「……ま、あんたたちなりの美学だろどーせ。もう気にしないことにした。理解できないしな」
いい心がけだねー、なんて笑ってみる。まぁそれが一番いいよ。理解できないだろうし、してもらおうとも思ってない。
「ところでイアータ。カウンセリングを自分でできるって?」
あらら、とおどけるけど、セナの目は本気のまま。
「んー、まぁね。ついでに他の得意技もあるけど、聞く?」
「タダで聞けるなら」
「大丈夫、牽制の意味もあるから。……私、洗脳もできるんだよね。ウォシロマ共和国大統領の娘を殺したときも使った」
セナの顔が強張るかと思ったら、いつも通りの顔で私の目を見返す。
「大丈夫? 目を見ただけでできるけど」
「私を洗脳する意味が、今はない。そうだろう?」
「まぁデメリットの方が大きいし」
まったく、セナに敵うのはいつになることやら。
「ねぇイアータ」
「なに? カータ」
「どうして洗脳ができるようになったの?」
「私ってこの見た目だし育ちも育ちだから、売られそうになったのって数えきれないんだよね。正確に言うと……ってまぁいいか。とりあえず想像もつかないくらいと言っておくけど」
大体が1時間以内に片付いてたけど。ふふふ。
「なんでこんなに、って考えたわけ。ならさ、私の見た目が人を狂わせるからってことに辿り着いた。だったらそうならないように相手を操ってしまえばいいと思って、洗脳を勉強したんだよね。結果的に意味はなかったけど。いや、洗脳技術にすら打ち勝つってすごくない? 私の外見」
しばらくカータは言葉を失って、52秒後に口を開く。惜しい、もうちょっとで1分だったのに。
「その発想に辿り着くイアータって……。……なんか昔からイアータはイアータって分かったわ」
「私は私、当たり前でしょ?」
その言葉と一緒に、カータの目を見つめる。
「ちょっと、私に洗脳かけないで!」
その反応に、私はかなり驚く。
「えー? ねぇセナ、カータって何者?」
「ただの第603期主席だ。今までで最高に強い兵士だよ。私たちみたいなイレギュラーを除けば、今だって最強の」
「なんでセナの秘書なんかしてるんだ」
リィも驚いたのだろう。珍しく人に質問を投げかける。
「だって、この人生活能力がないんだもの。だったら支えるのもいいなぁ、って思ったのよ」
その笑顔は明るい。本気で惚れこんでいるんだろう、セナという1人の人間に。
私と似ていて、でもまったく違う。支えるだけでこの2人は『2人』だ。私たちは、『1つ』の方がしっくりくる。おかしいね、同じ人間なのに。




