90 3月ウサギ、再び
あたしはとてもイライラしていた。なんで……あたしが一番なのに。なんで、あの女をみんな褒めるのよ!
銀髪が珍しいから? 『悪魔の瞳』だから? 声が綺麗だから? どうして! あたしの方が綺麗なのに。
「イアータ・クローバー。今日からこの部屋になった。よろしくね」
ああ、あの女だ。あの女が来た。
「よろしく、イアータ。あたしはアーリア・ヘアマーチ。分からないことがあったら聞いてちょうだい」
あたしが差し出した手を、自然な動作で無視して、イアータは自分のベッドに歩いていく。
は……? このあたしを、無視した?
「ちょっと……!」
その瞬間、時間が止まる。あたしの目を見てただ優雅に微笑むイアータ。朝日が彼女を照らして、銀髪を輝かせる。
なんて……神々しく、美しいの。
優雅なほほえみは、ともすれば傲慢にすら見える。それでも、彼女には似合っていた。きっと……あたしがすれば、似合わない。
細身のジーンズは足のラインをくっきりと出して、この場の誰も敵わない脚線美を見せつける。
どうして……神様は、不公平ね……。
「どうかした? アーリア」
「な……なんでも、ないわ」
こんな声帯潰してしまいたい。あの透明で心に届く声に比べれば、カエルの鳴き声の方がまだマシよ。
こんな目抉ってしまいたい。あの澄んだ『悪魔の瞳』に比べれば、あたしの緑色の目なんて枯れかけの葉のようね。
こんな髪剃ってしまいたい。あのミルキーウェイそのものの髪に比べれば、蛇行したドブ川。
「イア」
「リィ。どうしたの?」
「いや、暇だからチェスでもしねぇかと思って」
「ああ、いいね。今行くよ。……それじゃあまた後でね、みんな」
全員が恍惚とした表情でうなずくのが見えた。あたしは最後の気力で、微笑み返した。とてもぎこちなく、とても汚く……。




