88 チェスに残るは2人だけ
あの日以来、リサは部屋から出てこない。時折笑い声が聞こえるけど、それだけだ。
私はといえば、部屋を追い出されたからセナの部屋で寝ている。中将にもなると、ものすごく広い。他の隊員に泊めてもらうのは無理だったしね。
そんなことしたらどうなるか……。女子寮とはいえ、男子隊員だって入ってこられないわけじゃないし。
「イアータ」
「なに?」
簡易ベットの上で本を読みつつ、戻ってきたセナに意識を向ける。
「リサ・オーテスの『処分』が決定した」
「『処分』ねぇ……。それってさ、ゴミの処分ってこと?」
本を閉じて、セナの方を向く。……ねぇ、どういうこと?
「ああ、その通りだ。もう使い物にならない人間だ。それに、秘密を知る人間は少なくていい」
「なるほど。……まぁ、仕方ない。こうなる原因は、私とリィにあるし」
「淡泊だな」
「お生憎様。家族の情はもう、なくしちゃってて」
リサのことは、私とリィの責任だ。それに対して泣き叫んだって、仕方がない。
泣いても今さら覆ることはないだろうし、セナに迷惑をかけるだけ。
「まぁ……あの子が元に戻ることは、ないだろうね」
「そうだね。……死んだ方が楽になれる」
死はすべてからの解放だ。でも……同時に、繋がりを断つこと。私はまだ生きていたい。だから、まだ楽になろうとは思っていない。
「あんたは、楽になりたくないのかい?」
「まだ思わないね。どうせ、これから先も苦しみが満載だろうし。この見た目も能力も声もすべて、私の人生を決めている。せっかく映画さながらの人生が待ってるのに、みすみす死ぬわけにはいかないでしょ?」
「さすがだね、イアータ。そんなにいい顔で言い切られるとは思わなかったよ」
私はくすりと笑った。
「ねぇ、私たちはこれからどうなる?」
「しばらくただの兵士として経験を積んでもらうよ。一応は私の下につくことになる。まぁその前に、兵士になるための訓練をしてやろう。戦い方も全く違うし」
セナの稽古ねぇ……。まぁ一流の兵士になるのもそう遠くない未来ってことかな?




