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ただ純粋な、  作者: 横山裕奈
チェス編 第四章
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61 安寧

 記憶の整理が終わった。そろそろ、目覚める頃だろうか。そう思うけど、なぜか私は、暗闇を揺蕩たゆたっていた。

 不自然な温かさが、むしろ落ち着く。なんか私みたいだな、この暗闇。……ああ、私が作り出してるのか。戻りたくないってことだよね。

 そうだね、ここにいてもいいかも。


 でも、リィには会えないか。


 それは嫌だな。ああでも、とりあえず今は眠い。眠りたい。また後で、考えればいい。今はただ、この安寧を手放したくない。

 なにも感じなくていい。ぼんやりしてればいい。

 暗闇に沈む意識は、徐々に溶けていくようだった。このまま、このまま……。


 *


「イア……! お前、いつまで寝てんだよ」

 30時間を超えた。ここまでずっと眠ることはなかった。整理することが多いからか? でもそれなら、0歳からずっと24時間前後だったのがおかしくなる。

 ……お前、逃げたのか。この世から、自分の中に。

「バカが……! イア!」

 早く戻って来いよ、頼むから。お前がいないと、俺はまた、人間じゃなくなる。あの日みたいに、また……。

 イア。頼む。俺はもう、失いたくない。お前がいなくなるのは、それだけは嫌だ。


 イチかバチか……触れるか、イアに。攻撃されれば、俺だってタダじゃ済まねぇだろう。それでも……俺が死ぬことはない。イアより、強いから。

 銃は使えねぇ。ナイフだけだな。イアは、首の後ろの襟にナイフを隠してたな。あと、袖口に2本。まぁ大丈夫だ。


「イア、帰ってこい」

 左腕を強く握る。すぐにイアの目は開いた。ただ、あの()色に染まっている。

 袖口からナイフを出して、俺の首を狙ってくる。左手は右肩を狙う。右手を出したら肩が死ぬ。両利きでよかったよ、まったく。

 左手でイアの腹を殴る。恨むならお前の強さを恨めよ、手加減したら俺が死ぬから。


「げほっ。――手荒だね、リィ」

 何度かき込んで、イアはいつもの瞳で俺を見る。……戻ったな。

「お前が強いのが悪い。……おかえり、イア」

「……ただいま」

 少し、イアの目を不安がよぎる。


「夢でも見たか」

「リィは、ずっとここにいたの?」

「ああ。本がなくなって困ってた」

 俺絡み、だな。で、ここにいたかどうかを気にしてる。あいつらと俺か。


「寄ってたかって、お前の悪口でも言ってると思ったか」

 瞬きをして、イアははにかんだ笑顔を浮かべる。

「なんでもお見通しだね」

 お前がなにを考えるかなんて、大体知ってる。

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