52 助け
「落ち着きな。イア」
ノーラの声が耳に届く。……ああ、やっぱりまだ、私は経験が浅いなぁ。
しばらく目を閉じて、音を聞く。
「4人。でも……足音が、ほとんどしない。殺し屋の可能性が高い」
あいつら……どれだけ殺し屋を雇ってんの。1人1人は弱いけど……数が多い。迎え撃つなら……どこだ。
「廊下はやめときな。吹き抜けから自由に上がってこられる。部屋もまぁ、きついけどね」
右肩を手で押さえながら、ノーラが言う。
「分かった。……リィが来るまで、あと3分くらいだと思う」
「広場は遠いからねぇ。でも、あんたは死なないさ。リィから離れたところで、死ねるかい?」
茶化すような口調のノーラに、少し微笑む。……死ねるか、ねぇ。どうだろう。リィの命令なら死ぬけど――そのときにならないと分かんないな。
「――来たよ、ノーラ。大丈夫?」
その瞬間、勢いよく開いた。扉ではなく、窓が。
慌てて後ろを向いて、入ってきたやつを撃ち殺す。窓に駆け寄って確認すると、そいつ1人だけだった。
バタン、と音がする。次は扉か……! なんなの、こいつら!
ナイフを投げて、1人殺したところでむせる。ヤバイ、煙が……!
「熱っ! 火が……」
もう回ってきてる。このままだと、死ぬ。窓から……? いや、誰かいたら……でも、そうするしか。
「イア! ……逃げな。窓から……足止めくらいならしてやるよ」
ノーラの太ももから、血が出ていた。まさか……さっき、私が窓を見たとき?
――これじゃ、ノーラが窓から逃げられない。
『生きている人間だけ、連れてこい』か。生きてるから、ノーラも助けないと。
「イア! とっとと逃げるぞ!」
数秒で殺し屋たちは全員片付いた。……強いなぁ、リィは。いいな。
「リィ! ノーラが」
「あぁ? ……とりあえず逃げるぞ。立てるか、ノーラ」
「無理だよ、もう。……窓から逃げな。まだ、死んでないやつがいるから。早く」
嘘でしょ、生きてるやつが?
「あーあ、こんなことになるなら……あのとき、剣を捨てるんじゃなかったねぇ」
その瞬間、液体が私たちにかかった。……なにこれ、灯油?
「早く行きな2人とも! 死んじまう!」
待って、と言おうとした瞬間、ノーラが炎に包まれる。
断末魔の悲鳴なら、何度も聞いた。なのに……ノーラの、この悲鳴を聞いたら、身体が動かなくなった。炎が、まるで蛇のように近づいてくる。あと2秒で、私にも火がつく。
「……来い」
リィの声とともに、腕を引かれる。待って。ノーラが。
「もう、無理だ。分かってんだろ」
抱きかかえられた、と思った瞬間、私たちは宙を舞っていた。すぐに振動があって、地面に下ろされる。
「行くぞ、イア」
「足、大丈夫?」
「当たり前だ。そんなにヤワじゃねぇよバカ」
ノーラが、死んだ。脳に直接切り込んでくるような悲鳴と、皮膚が溶けて波模様になった顔を思い出す。
「……イア? 立てるか」
大丈夫。まだ、大丈夫。もう見てしまった。だったら、もう一生、この映像はついてくる。慣れるしかないんだ。
「大丈夫」
慣れるしか、ないんだ。




