50 表玄関にて
「あ、ノーラ。現状は?」
イアの声は、蜂蜜のような声だった。……ああ、本気だな。笑顔だけど、目は紅い。この状態のイアに不用意に触れると、殺される。
俺は別に攻撃を防げるが、リサとかラーフになると殺されるかもな。一撃で。
「あと4人だが……これが殺し屋でね! そっちは?」
「すべて片づけた。念のため裏口には罠を仕掛けてある。即死するやつな」
なんのことはない、ただ爆弾を放り投げる装置だ。10人くらいなら一気に吹き飛ぶと思うが。
「うわぁっ!?」
2メートルはありそうな大男に吹き飛ばされたナタリーに、パーシーが駆け寄る。
「ナタリー! おい、大丈夫か?」
あのナタリーが押し負けたか。……まぁ、見るからに鍛えてるぜって感じの脳筋野郎だな。
「イア。殺れるな?」
「当たり前じゃん」
おい、とパーシーが叫ぶが、既にイアは大男の懐に飛び込んでいる。まぁ、後は大丈夫だろう。
「リィ。あたしは上に行って、チビを助けてくる」
「分かった、ノーラ」
ラーフが殺し屋の1人に後ろから奇襲を仕掛ける。避けられたが、一瞬の隙ができた。……十分だ。
ナイフを投げて背中に突き刺し、こちらを向かせる。向いた瞬間に眉間を撃ち抜いて、1人完了だ。そしてついでに、後ろから剣を振り下ろそうとしている殺し屋にも銃弾を一発。角度はいい感じだったらしく、銃弾は顎から後頭部を抜けた。
「もうリィ。私の分、1人しか残ってないじゃん?」
「お前が手間取ってるからだろ。まぁいい、譲ってやるよ」
「そりゃどうも」
言うが早いか、近所の家の陰からこっちに銃を向けている殺し屋のところへ走る。殺し屋は当然引き金を引くが、不幸なことに暴発だ。あーあ、残念だったな。
イアが苦し紛れに走りながら放った銃弾が、いい感じに銃口に入るなんて。
「いっ、痛い……!」
殺し屋の額に鉛弾を埋め込んで、すぐに帰って来る。
「ねぇ、あいつらホントに殺し屋? すっごく弱かったけど」
弱い? とパーシーたちが呟く。
「手応えねぇな。……弾は何発使った?」
「ここでの戦闘だけなら、3発。さっきのも合わせたら29発かな。手持ちはあと20発」
「どうにかなるな。……イア、ちょっといいか」
イアの耳に唇を寄せて、指示を伝える。考えられる最悪の状況とともに。
「……分かった」
「俺たちは広場に行っておく。……頼んだ」
任せられるのは、イアしかいない。他のやつらを信じていないわけじゃない。ただ、なにかを任せられるほど、信頼しきってはいない。
あいつらには到底言えない、俺の本音だ。




