42 報酬は弾んでよ
「このリスト全部?」
何十人もの名前が書かれたリストをリィと一緒に覗き込んで、思わず声を上げる。
非難する響きになったのも仕方ない。だって35人殺せって言われたんだから。
「全員がスラムにいるわけ?」
「私の調査ではな。生死は不明だが……。こいつらはみな、凶悪犯罪を起こした者たちだ」
ニュースになった人間に関しては、知ってる。でも見たところ、揉み消されたっぽいやつもいるけど。だって知らないし、『本』にないから。
「分かってるなら逮捕しちゃえば?」
「できん。証拠不十分により、釈放されている。貴族の息がかかっておるのだろう」
予想通りの答え。大変だね、王さまって。
ナタリーが能天気に声を上げる。
「王様が命令すればいいのに」
ああナタリー、そこまで頭が悪かったなんて!
「ナタリー。王さまは、あまり政治に関われないの。君臨すれども統治せず。それが決まりだから」
「ある程度の意思ならば、尊重もされるがな」
「えっと」
ダメだ理解できてない!
「だからな、ナタリー。王様は偉いけど、この国を動かせるわけじゃないんだ。王様が公園を作ってほしいとして、『作ってくれ』と言うことはできる。でもな、作るかどうかを決めるのは王様じゃないんだ」
ナイス、パーシー! 分かりやすいね!
「分かったー!」
……分かってることを祈るよ、ナタリー。
「それで、だいぶ時間はかかるけど、いい?」
これだけの人数の所在や安否を確認するのは、相当時間がいる。
「構わん。野放しにしておくわけにはいかんが、失敗はもっと悪い。どうも貴族と結託して国家転覆すら狙っている節がある。それは食い止めねば」
「データに残るけど、いいの?」
「お前たちをぞんざいに扱わねば、大丈夫なのだろう?」
「ま、一応ね」
にっこりと微笑んで、王さまを見上げる。
「あとは報酬。もちろん普段の15倍以上にはしてくれるよねぇ?」
「じゅっ……!? お前、私は王といえど簡単に金を出せる立場では! 5倍だ、5倍!」
「じゃあ断ろっかな。ついでにデータもばらまいて」
「7!」
「データ」
「……9!」
「そこまでいったらキリよく」
「……。ああっ、分かった10倍だな!?」
よし、交渉成功。なにかあっても安心だね。孤児院のみんなが、1年以上は暮らせるし。




