36 ノーラの昔語り
あたしが孤児院を始めたのは、15年前。始めることを決意して、家を用意したその日……。イアは、玄関の前に捨てられていました。まだ眠っているイアを抱き上げると、目を開きました。その目は強く、美しく……『悪魔の瞳』であることには、しばらくして気づきました。
そして、その後7年間を2人きりで過ごしました。そんなある日、1人で散歩に出かけたイアは、2人で戻ってきました。
血まみれで、放心状態の男の子を連れて。同い年で、名前はリークス。リィを見つけたのは、間違いなくあの子で。そして、その頃から2人は、不思議な運命にあったのでしょうね。
リークスは、強盗を殺していました。さらには、致命傷ながら未だ生き永らえ、もがく母親を……。頑ななまでに心を開かなかったリィの心を、イアは解きほぐしました。リィが泣いたのは、そのときの1回だけです。それ以来は、見てませんね。
そのときから彼らは、不自然な関係でした。イアはリィの言うことを全面的に支持しましたが、決して主従関係ではなく。しかも、リィがイアに振り回されることも多いのです。対等なのか、なんなのか……。未だに、答えは知りません。
そして4年後、彼らが11歳のときに、立て続けに4人来ました。……話してもいいかい?
……最初に来たのはパーシー。祖母と2人暮らしをしていましたが、ある日仕事から帰ると、祖母は老衰で亡くなっていました。それ以降、仕事が手につかなくなり、彼は職を追われ、孤児院の扉を叩きました。
次が、ナタリー。父親に騙され、そこの広場に置き去りにされていました。盗みを生業としていたその父親は、ナタリーには清廉潔白であることを説き続けました。そして、彼女はほとんど洗脳に近い状態でした。盗んだ金で買ったものなど食べない、と何日も食事を放棄して。
イアが洗脳を解いて、今の彼女になりました。
そして、ラーフとリサは同時です。
ラーフは母と弟の3人暮らしでした。幸せだったそうです。ですがある日、母親が弟を殺すのを見てしまいます。なぜだと問い詰めると母親は、口減らしと答えました。あんたのお姉ちゃんだって、弟の幸せを望んでる。
その言葉に、ラーフは悟りました。姉も、口減らしに殺されたのだと。そしてそこからは、母を憎む毎日です。嫌なところしか見えなくなり、最後には、母を刺し殺しました。
リサは両親と3人で暮らしていました。ですが、ある貴族の気まぐれで父親が殺されました。母娘はクロスタウンからスラムに堕ち、母は奇しくも同じ貴族に、いわれのない罪で殺されました。いたぶられる母の前で、彼女は泣いて助けを求めた。けれど、誰も助けようとはせず……見て見ぬフリをしました。
食べ物がなく飢えていたリサを、ラーフを連れ帰る途中で見つけました。ラーフは、盗みを働こうとしていたのです。
こんな風に集まった6人は、強い絆で結ばれている。けれど、やっぱりあの2人は別格なのです。
歪な者が合わさって、人間になったような。リィを人間に戻したのはイアで、イアに人間らしさを与えたのはリィなんです。だからこそ、どちらかが欠けては生きていけない。
互いを必要とし、互いのために生き、互いを大切にする……。それが、あの2人です。
これであたしの長い昔語りは、おしまいです。……少しでも、彼らの決断を理解していただけましたか?




