第一章 魔法使い改め魔法剣士に向かって
Gardenに『武器や防具は装備しなきゃ効果はないんだぜ』と言う台詞はない。
持てるだけ持てるし、付けられるだけ付けられるし、着られるだけ着られる。効果も相乗するが、現状そんな能力アップのアイテムは買えないので関係ないだろう。
そう俺は思っていたのだけれど。
「魔法使い……か。そりゃなんてーか、災難だったな」
サラの父親はダイスケと名乗り、俺の事情を聞くと好きな武器を持って行けと言ってくれた。ゲームなんだから、家計の心配も要らないと笑って。
どうにも、ダイスケは家計を火の車にした前科がありそうだ。
「使い方次第だと思うんだ。それを試したくてな」
適当にスチールソードを手に取る。ここはあまりリアルでないのか、重さはあまり感じない。これなら思い切り振り回しても良さそうだ。
「試し切りか? それなら、ちょっとこっち来い」
と手招き、店奥の暖簾を潜るダイスケ。
暖簾を潜れば、熱を発した竈や重そうな金槌が転がる部屋、工場だった。
どうやらダイスケは、武器職人でもあるようだ。と言う事は、あの樽に入った武器達は失敗作だろうか。
しかし、武器職人。
その技術、現実に持ち帰っても何の役にも立たないよな……。いや、それこそ俺達冒険者もそうなのだが。
住民には珍しく、ダイスケも俺達と同じ、現実で出来ない事を体験しに来たということだろう。
その工場をスルーして、更に奥へ行くと、ちょっとした中庭が広がっていた。
狭くも広くもない、二人くらいが武器を満足に触れる程度の広さで、端には案山子がある。
どうでも良いが、窓から夥しい数の武器の頭などが見えていて、一体この一家はどこに住んでいるのか不安になった。
「ほれ、ちょっとここでやってみろ」
と親指で中庭を指すダイスケ。こくこく頷くサラ。
なんというか、あれだ。
失敗したらどうしよう。
こういう不安な時は、真逆のことを言ってみれば良い。
「見てろよ、俺の剣技。すごいからな」
後が無くなって、展開のどうしようも無さに逆に気合いが入るから。
スチールソードを持って中庭へと降り、適当に歩いて地面の感触を確かめる。
バグで地面に埋まったり、そのまま異次元の彼方に飛ばされたりしたら嫌だ。
RPGの要素を詰め込んだらしい魔法使いなら、あるかもしれない。
最初は何度か適当に素振り。剣を振るたびに風斬り音が鳴るので、結構良い線行っているのではないだろうか。
しょっぱい物を見るような目をしている二人は無視。
『女神様』のヒントを思い出し、スキルの発動を試みる。
「じゃあ、行きますか」
精神統一、一度目を閉じて息を整え、身体を巡っている何かを意識する。
体内で息づく粒子は、俺の意志に沿って身体を縦横無尽に駆け巡る。
ゲームの設定では魔素と呼ばれる、身体の動きをサポートする『気』みたいなものだ。
MPがなくなっても消えないそれを手、そして握ったスチールソードへと流し込む。
瞬間、スチールソードから俺の体内に粒子が逆流してきた。
俺の体内にいた粒子が影響を受け、全身が逆流して来た粒子に浸食される。
身体が勝手に動き、スチールソードを勝手に構えた。
これは剣に取り憑かれたのではなく、スチールソードに付加されたスキルの発動を意味する。
武器にはアシストタイプのスキルが設定されており、扱いが素人の人でもこのようにスキルを発動させれば、勝手に身体が武器を操り、技まで出してくれるのだ。
俺は身体の主導権を完全に粒子に任せるべく、身体の力を抜く。
途端、身体が流暢に動き出した。
右方向への薙ぎ払い、刃を返しながら前進し、左斜め上への切り上げ。剣の軌跡がクロスを描くように、抜刀するように左腰から右肩へと鋭い一撃を放つ。
最後の一撃時、俺の体内から粒子が剣にまとわりつき、斬撃の延長線上に居た案山子を激しく揺らした。
長剣スキル[クロスブレイク]のフィニッシュだ。
フィニッシュ後、粒子の動きが穏やかになり、身体の主導権が俺に戻って来る。
いや、元々今の一連の動きに介入しようと思えば出来たので、その表現は間違っているかもしれない。所謂、スキルキャンセルという奴が可能なのだろう。
パチパチと小さな拍手と歓声が沸いた。
「凄いよナイン君!」
サラがぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいた。
見た目より随分と幼い仕草は可愛らしく、見ているこちらが照れてしまう。
「なに照れてんだ! 武器のおかげだろうが!」
そんな俺を勘違いして、ダイスケがばしばし叩いて来た。こいつは、自分の剣にちゃんとスキルが設定されていて嬉しいのだろう。
そして、
「……まあ、なんとかなるかな」
俺も少しだけ、嬉しそうに笑ってみた。