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第一章 真実の前

 キングから力が抜け、ガランと大剣が床に落ち、がしゃんと崩れ落ちた。

 いとも呆気なく、最後の戦いは幕を下ろした。



 戦闘終了後、Levelが上がった。視界に、新たな魔法の習得を知らせる文字が走る。なんと、Levelは12も上がった。新しく覚えた魔法とアビリティを確認。

 その後、名前通りの働きをした[王族殺しの剣]と、キングの大剣、[敗北を許さぬ断罪の剣]をアイテムボックスに収納。

 ハラハラする場面も合ったが、結局は魔法使いの圧倒的力を見せつけての勝利だ。

 喜んでも良いはずなのだが、生憎まったく喜んでいない。


「いや……その、悪かった」


 無言で近づいてくるフィリアに怖じ気づき、背を丸めて目をそらす。

 抱きつかれた。


「…………」


 怒られるとばかり思っていたので反応出来ず、いつぞやみたいに押し倒された。

 だがさすがに二回目だ。HPはOFFにして、ちゃんと受け身を取る。

 人の話を聞かないのはお互い様だな、なんて言おうと思ったがその言葉は飲み込んだ。


「……ばか」


 涙を目に溜めて俺を見下ろすフィリアに、何も言えなくなった。何もせずには居られなくて、抱き寄せて頭を撫でる。


「……心配かけて、ごめん」

「……うんん、良い。……解ってた」


 どうやら怒りを通り越して呆れ、心配してくれていたみたいだ。

 フィリアが上目遣いで俺を見つめる。その瞳は真っ直ぐで、とても直視していられない。でも、目を逸らす訳にも行かなかった。


「私は、あなたの味方だから」

「——っ」


 繰り返された言葉は、俺の胸に苦しいくらいに心地よく響いた。

 思わずフィリアを抱きしめた。恥ずかしいが、抱きしめておけば顔を見られずに済む。

 あと少しだ。頑張れ。言葉を嘘にしちゃ駄目だ。

 まだ、泣く訳にはいかない。

 情けないな。

 批難されると、怒られると、嫌われると思っていた。全人類を敵に回してだって、不敵な態度を取れると思っていたのに。

 たった一人に認められたら、そんな虚構も崩れ去ってしまうのか。

 気がつけば、抱きしめていたのは俺だけじゃなく、ぎゅっとフィリアも俺を抱きしめていた。そして、胸に響かせるように、けれど空気に流すように、自然に言葉を紡ぐため唇を動かす。

 ほんの少しだけ見える、微笑みと一緒に。


「助けてくれて、ありがとう」


 どうしよう、胸が苦しい。

 胸の痛みを無視する今日この頃、そろそろ限界だろうか。

 やばいな、なんか変な病気にかかった。変な心の病気だよ、これは。



ーーーーーーーーーーーーーーー



 50の文字を通り過ぎ、最後の扉を開けると、拍手が俺達を出迎えた。


「いやぁ、意外や意外。まさか一週間でクリアする奴がいるとは思わなかった。おまけに今日。この最後の一日に」

「……誰だ?」


 幼い笑顔と拍手で俺達を出迎えたのは、年も対して変わらないような少年だった。

 少年らしい長くも短くもない銀髪が、部屋の明りで照らされる。黒と白のロングコートを羽織った、実に現代的な少年。

 今までとまるで違う、近代的な白い壁の部屋だ。もっとも、天井にある照明以外に物らしい物は無い簡素な部屋。


「ん? お前、俺が……。おっと、この姿で会うの初めてか。なら、自己紹介といきますか」


 にんまりと笑顔を浮かべ、少年はぺこりとお辞儀をする。


「今回このゲームのお目付役を授かりました、『鬼ごっこの人』です。よろしく」

「……え? 鬼……何だ?」

「鬼ごっこの人だよ。略してキジンかな。二度も言わせんな、恥ずかしい」


 それなら、そんな名前名乗るなよと言いたい。


「さて、不在のゲームマスターに代わって挨拶させてもらうかな。ようこそ冒険者」

「ふ、不在?」


 ゲームマスター、このゲームの管理者が不在? 俺の攻略が早過ぎた、ということか? それとも、ゲームマスターは……。

 俺のそんな疑問は無視して、えーっとと口に出し必死に台詞を思い出しながらキジンは語る。


「よくぞここまで辿り着いた。約束通り、この先に進めばGardenから解放される」


 そうでなくては困る。

 そうでなければ、俺は一体何のためにここまで来たと言うのか。


「その前に、ここまで到達した冒険者に尋ねよう。何が君をここまで来させたのかと」


 そう言って、チラリとこちらを見るキジン。

 どうやら答えてほしいようだ。


「俺は、何故このゲームがデスゲームだったのか知りたい。そう思ってここまで来た」

「……なるほど、ね」


 呟き、キジンは何度か頷く。

 そして、


「まさかお前、ここまで来てまだ気付いていないとはな! こいつは滑稽だぜ!」


 笑い出した。

 何がおかしい。


「かははっ! こいつは笑える。まさか、それに気付かずにここまで来るとは! ……いや、よく考えると難しいヒントが一個だけか。そりゃ気付かないな。すまんすまん」


 尚も笑い続けるキジンに、俺は必死に頭を働かせる。

 俺は何かを見落としているのか?

 このデスゲームの意味を。

 そう考えたとき、真っ先に頭に浮かんだのは、廚爺の言葉。


『七つの願いがこの世界を作った。御主は既に五つの願いを垣間見ておるじゃろう』


 七つの願い。その内五つは解ると言う。

 だが、抽象的過ぎてさっぱり思い浮かばない。


「ヒント。攻略対象は、洞窟じゃなければならなかった。タワーじゃ駄目だったんだな、これが」


 キジンが至って真面目な顔で呟く。

 奴の言った事は疑問だが、そんな疑問は普通抱かない。

 何故攻略対象が洞窟なのか、そんな事考えるか? 


「ヒント。洞窟を攻略出来なければこの箱庭から解放されないって仕様。そいつの意味に気付かないか?」

「巫山戯るな。意味なんてある訳が無い。攻略出来なければ解放されないなんて、当たり前だ。クリアせずに止められるデスゲームなんてあり得ない」

「…………クリア、ねえ」


 何か言いたげに唇を歪めるキジン。

 何が間違っているって言うんだ。


「ヒント。完璧すぎて無駄にさえ思える程のリアリティ。お前がもうちょい解り易い特別だったら、これから気付けたかもしれないな」


 解り易い特別?

 確かに俺は、道具として生み出されたり魔法使いだったりするが、解り易い特別?


「じゃあ、最後に一つ。とっておきのお話をしてやろう」


 その話を聞いて、俺は絶句した。


 俺は間違っていたのだ。


8/20、0時完結予定。

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