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第一章 裏技

「——っ!」


 叫ぶフィリアを背に、俺は一人ボスへと立ち向かう。戦略に基づき展開された機械兵は、余裕とも取れる沈黙状態。いや、連携なんてやった事がないからか。


 一対五。圧倒的戦力差の前に、少しばかり身体が震える。


 俺の剣が奴らのHPに防がれ届かない事は百も承知。強力な魔法を使う余裕が失われたのも大きい。魔法は強力になればなるほどエフェクトも大きくなり、こちらも動きづらくする。

 逃亡は不可能、という状況ではない。だが、繰り返した所であのキングの圧倒的一撃に対抗策は見えない。いくら複数の攻撃判定があった所で、[パーミエイト]の無効化はそうそう発動する物ではない。

 それでも、挑まぬわけにはいかない。

 俺のレベルがどれほど上がろうと、こいつと戦う時のリスクは変わらない。埋められない程の巨大なステータスの差が、俺達の間にはある。この差はレベルがカンストしようと、変わらないだろう。

 一対五という条件は、そんなに悪くもないはずだ。ここで多少リスクを冒しても、問題ない。


「まあ……怒られるだろうな、フィリアには」


 ばんばんと結界を叩くフィリアに顔を向けられない。

 安心してほしいが、伝えようも無い。だから、せめて最初の一撃くらいは綺麗に決めてやろう。俺の勇姿に酔わせられれば重畳だ。


 俺はレベルアップで、魔法の他にいくつかのアビリティを習得して来た。

 例えば、[成長回復]。レベルアップに伴い、HPMPが上限まで回復するアビリティ。空を飛べるようになった[飛行]。そういったアビリティの中に、[根性]と[最後の盾]いうものがある。

 [根性]は、どんな激しい攻撃を受けても、一度だけHPが1残るというアビリティ。[最後の盾]は、HPを全消費することで攻撃を完全に無効化するというものだ。

 俺は奴らの攻撃を二度までは受けられる計算となる。だから前回、HP0にはならなかったのだ。


 そして、こちらには[裏技]がある。


 おそらくこのゲーム唯一のバグを利用した、レベル、ステータスを無視して、システムすらも超越して敵に傷を負わせる、そんな一撃が。

 正確な距離は解らないが、最大射程は二メートルから三メートルの間。

 問題は必殺ではないことと、俺の耐久力の無さ。

 一撃でも喰らえば、俺は吹っ飛ばされる。そこで体勢を崩されてしまえば、非常に危うい。さらに、このエンカウント状態では、転移系の魔法は使用出来ないのがセオリーだ。

 エンカウント状態を破棄し、フィリアを連れて逃げるという選択肢は無いに等しい。ターン制で無くなった奴らに、それだけの隙が生まれるとは思えないからだ。

 両手を両膝の上に乗せ、いつでも敵の攻撃に反応出来るようにして準備完了だ。チャリオットを引く馬が嘶く。


「さあ、始めるか」


 激しい地響きと共に、ルークとフィリアに攻撃したナイトが馬を走らせた。

 先に到達するのは、ナイト。

 迫る地響きにごくりと唾を飲む。一瞬でも眼を離すな。ぎりぎりまで引きつけて、確実に致命傷を負わせる。

 五メートル先、ナイトが馬を走らせながら剣を構える。ルークはまだここまで来ない。

 迫り来る騎兵に、鼓動が高まる。

 一メートル、ここだ!

 交錯するのは一瞬だった。その一瞬を逃さない。

 ナイトの剣が届くより先に、発動した[裏技]に手応えを感じる。

 ナイトと俺が交錯し、直後、背後でナイトが崩れる音が聞こえた。HP貫通、ナイトが鉄屑に成り果てた音だ。

 確かに俺の攻撃は、馬と騎士を貫いた。それを見ないでルークの迎撃に向かう。

 土煙を上げて突っ走ってくるルーク。槍の一撃を[アクセレーション]により上昇した敏捷で横に回避し、俺は再び[裏技]を使う。


「はぁああああ!」


 多少接触しても構わない。HPを消費して、ルークに肉薄した状態からそれを起こす。見れば、乗っている機械兵に足は無く、チャリオットに同化していた。ならば狙いは、チャリオットの車輪。

 [裏技]に使用した[覇王の槍]が使えなくなるが、それでも構わない。

 [裏技]によりHPを無視して[覇王の槍]が車輪に突き刺さる。車輪を破損し操作不能に陥ったチャリオットが勢いを殺せず大破した。

 これで、後三体。

 キングは再び不動、ナイトはビショップの前で盾となり、こちらを警戒するように固まって窺っていた。

 馬鹿め。確かに[裏技]は警戒し得る攻撃だが、距離を置く事は間違いだ。

 俺は戦士じゃない。

 魔法使いだ。

 いくら強力な魔法の発動に時間がかかると言っても、魔術師とは違う。魔力を流すだけで発動するのが魔法だ。

 金属は熱に弱い。火属性最強の魔法、[極閃波]。

 放たれたプラズマの拡散により、視界が閃光に包まれる。

 しばらくして眼を開ければ、無事のキングが見えた。HPの結晶とは違う、膜のようなものがキングを守っているのが見える。だが、その隣には完全に溶解したナイトとビショップらしき金属。


「さて、あとはキングだけだな」


 どうやら、キングは魔法では倒せないようだ。

 ならば、[裏技]しかあるまい。

 俺は手ぶらでキングへと歩む。[覇王の槍]を使ってしまった以上、接近戦に持ち込むしかない。


 キングが再び大剣を大上段に構えた。余裕が出来て来た俺の頭は冴えていて、絶対の安心を誇る一つの魔法を発動させる。

 ちらりと余所見をしてフィリアを見れば、危ない! と叫んでいるような気がした。

 無問題。ターン制でなくなり一対一になった時点で、もう奴らに勝ち目は無い。


 振り下ろされる剣。解き放たれる闇の一撃。

 俺はそれを、足を止めるだけで防ぐ。

 ターン制でなければ、予備動作が見えるのならば、キングの一撃は何の脅威にもならない。

 消費MP26、守備魔法[守護の霧]。一度だけHPにダメージを与える攻撃を無効化するという魔法だ。これには、攻撃判定の回数は関係ない。

 俺の前に現れた水色の霧に触れた瞬間、闇の一撃は消滅して行く。

 十秒程経てば、振り下ろした剣が虚しく見えるキングとご対面だ。


「…………」


 コミュニケーション機能はないのだろう。無言でキングは剣を構えるが、どこか投げやりだ。

 ターン制においては脅威であった一撃を、エーテル一本分にも満たないMPの魔法で無効化された訳だ。人であれば喚き散らしてもおかしくない不合理。

 理不尽だろう?

 それが、リアルなこのゲームに様々なRPGの要素を突っ込まれた、魔法使いと言う存在の正体だ。

 剣を構えるキングにあわせて、蛍火のような粒子を散らして現れたジェイダイトをしっかりと握る。


「終わりにしよう」


 最後は、剣で止めをさしてやる。

 切り掛かる最中、俺は審察眼でキングのステータスを見た。


 [Name] king [Level] 100

 [HP] 120000/120000 [状態] 異常なし

 [攻撃] 9999 [防御] 9999 [敏捷] 1000

 [種族] 自動機械


 さすが王様。こいつも十分チートだった。

 キングが剣を構え、踏み込み、大上段から振り下ろす。釣られて剣降るが、俺の体格にジェイダイトではキングに届かない。

 だが、キングの攻撃は俺には届かなかった。 

 HPにも届かない。


「ガガガ……」


 逆に、俺の攻撃はキングを貫く。

 攻撃力、リーチともに劣るジェイダイトではない。



 その名は、随分と前に考えていた。俺が攻略までの七日間、武器だけで攻略をしようと努力した期間は無駄にしていない。

 歩く道具袋こと魔法使い。その最大の利点、アイテムの召還収納を一瞬で行える能力。

 それを利用した、魔法使いだけが使える最強のバグ技。



 アイテム召還。

 二十八層のボス、嘆きの騎士ドロップアイテム[王族殺しの剣]が、キングの身体を貫いた。


 

 召還されたアイテムは、召還位置に存在する物を消失させて現れる。

 それゆえレベルもステータスも関係ない。バグであるが故に、システムを超越する。

 俺はこの技を思いついたヒントに因んでこう命名した。



 [タンス人間殺法]と。



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