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第一章 RPG

 四十六層からは地形が洞窟に戻っており、いよいよ洞窟も終盤と言った所だろう。

 出てくる魔物は、これまでの混成。洞窟の道幅も広くなっており、小さめの恐竜型の魔物も普通に闊歩している。

 だが未だに、雑魚的に対して俺の魔法はアドバンテージがあった。


 消費MP56の全体攻撃魔法、[ブラックホール]を使えば漏れなく魔物は吸い込まれ、どこかに消えて行く。危なく俺達も巻き込まれそうになったとか、そういう失敗談は要らない。


 爆発系最強の魔法、[極爆裂炎]を使えば、洞窟が消し飛ばんと言うくらいの大爆発に、倒壊するじゃないかと言う程の大振動。やり過ぎ感が滲み出た。


 責任転嫁、魔法が効かない敵が出ないのが悪い。


 中には魔法一発では倒せない敵もいたり、強力な魔法は発動まで少々時間がかかり使えないこともあるので、剣だってそこそこ使う。どこで使うかと言うと、ボスやボス並みの強敵だ。


 四十五層もクリアした俺は、もう大体ボスなどの強敵の倒し方は解っている。

 一つ、ボスはオークのように攻撃、防御、敏捷が高い奴が多い。だから、真っ正面からぶつかると厳しい。

 一つ、ボスは魔法(恐らく異能全般)に弱い。だが、ある程度耐性も持っている。奴らは魔法で攻撃を受けると、必ずひるむ。そこに畳み掛けられれば倒せるのだ。俺のように、一発高威力の魔法を放って慢心していると痛い目を見るという事。


 ボス攻略法は簡単に言えばこうだ。

 魔法でひるませる。その隙をついて好きな攻撃をする。以下繰り返し。

 まあ実際の所、奴らも生きているような反応を見せ、調子に乗って同じ事を繰り返せば痛い目を見る。攻撃をワンパターンにしないよう注意すれば、まあ大抵大丈夫だ。

 フィリアとの連携もばっちりで、俺が魔法で倒し損ねた敵をやっつけてくれたり、剣で攻撃しようとしているとアシストしてくれたりする。

 そのまま問題なく攻略して行き、俺達は四十八層まで攻略した。




 四十九層、そこは明らかに違っていた。転移の間から四十九層に入る扉を開ければ一本道で、ほんの少し先にボスフロアの重厚な扉が見える。扉の前に立てば、一応左右に道があるが、ここからでも宝箱が確認出来た。


「……ボス戦前」

「だな。宝箱の中身は……二つとも回復アイテムか」


 でっぷりとした瓶と細めの瓶で、どちらも水色かつ見た事が無い。鑑定よろしく、審察眼を発動。


 [Name] エリクサー

 [効果] HP、MP、状態異常全回復。使用から一定時間のみ不死状態。※服用もしくは身体に振りかけて下さい。甘い。何かを得るためには、何かを犠牲にしなければならない。


 [Name] 生命の水

 [効果] あらゆる怪我を回復する。※服用もしくは患部に直接掛けて下さい。魔法の水。いつか売り出そう。


 相変わらず突っ込みたくなる説明文だ。

 中でも、エリクサーの効果。使用から一定時間不死状態になると言うのと、意味深なコメント。効果は絶大だが、使いたくなくなった。


「……じゃあ、行くぞ」


 頷くフィリアを確認して、俺はいつにも増して荘厳な二枚扉を押し開けた。

 扉が最後まで開き切ると同時に、天井からカッと弱いスポットライトのような光が降り注いだ。その光は俺達ではなく、フロアの奥にいたボスを照らす。

 正確に言えば、ボス達である。

 細身の銀色の身体は甲冑を思わせ、その手に握られた武器は、俺が使用するジェイダイトなんかとなんら遜色ない見事な出来映えだ。


「……ロボット?」


 スポットライトの元で輝く八体の金属フォルムには、まるで生命を感じない。だが、もし仮にコレが動くのだとすれば、あまり想像したくない事態が起こりそうだ。

 八頭身のスリムなボディーに、細部まで作られた関節。これに人の皮を被せれば、人間と言っても過言ではないレベル。

 攻撃、防御、俊敏。いずれのステータスをとっても、間違いなくこれまでで一番の強敵に思える。ブレスを吐くドラゴンや、トラック並みの速さで暴れる恐竜とは違った強さだ。

 オーク戦の教訓から、一応盾を取り出しておく。[鏡の盾]と呼ばれる、四十六層の宝箱から見つけたアイテムで、相手のブレス系統の攻撃を跳ね返せる補助効果がある。どう考えても兵士がブレスを吐く事は無いはずなので、今は完全に単なる盾だ。


「フィリア、頼んだ」

「わかった」


 フィリアは取り出した狙撃銃を片手で握り、引き金を引く。

 バァン! と激しい炸裂音が響いた。右端にいる機械兵一体の頭部に銃弾が当たった音だ。


 だが、機械兵は倒れない。


 それどころか奴は、フィリアの攻撃でピクリとも動かなかった。受け流す動作の一つも無い。一歩たりともその場から動かず、フィリアの攻撃を受け切った。


「……あり得ないだろ」


 フィリアの攻撃は完全な物理攻撃だが、恐竜タイプの魔物すら昏倒させる威力があるっていうのに、冗談じゃない。

 何か、何かがあるはずだ。

 だが、俺に思考をする暇を与えずに、一体の機械兵が動いた。

 予想通り、実に滑らかな動きで歩き出し、そして——止まった。


「……え?」


 完全沈黙、先ほどと全く同じ状態。剣を構え、棒立ち。僅か一メートル程移動しただけで、奴は動く事を止めた。おまけに動いたのは八体中一体だけ。

 舐めているのだろうか。


「なら、今度は俺の番だ」


 一体一体の耐久が高さそうだが、オーク戦の時と比べて俺のMPは大部増えている。

 消費MPが多く、発動までの時間も長いのでボス戦ではあまり使わなくなったが、舐めているのなら強力な魔法を使ってやろうじゃないか。


 消費MP80の全体攻撃魔法、[流星群]発動。隕石を降らし、接触した敵にランダムでダメージを与える。消滅させると言っても過言ではないくらいの威力だ。轟音、熱風、振動、砂煙とエフェクトが酷いのが難点。


 天井付近に巨大な赤黒い魔法陣が現れた。

 そして、怒鳴り声も聞こえない程の爆音と共に、燃え盛る隕石が魔法陣から顔を出し、機械兵達に飛来する。

 立っていられない程の振動に、思わず顔を覆う熱風。現実で考えればそれほど過剰な演出ではないが、ゲームにしてはやり過ぎだ。

 最後の隕石の落下と共に魔法陣が消えた。壮絶な攻撃に激しく煙が舞う。

 これだけの攻撃、一体くらいはやれたんじゃないだろうか。


「……と思っていた時期が俺にもありました」


 無傷。

 機械兵は一体たりとも死んでいなかった。


「じょ、冗談じゃないぞ」


 先ほどの攻撃なんて無かったかのように、再び機械兵が動き、またすぐ足を止めた。

 舐められても仕方が無い。俺達の攻撃は、どちらもほぼノーダメージ。

 これは……やばい。


 待てよ? この不自然な動き方、俺達を舐めているのではなく、これが奴らの仕様なんじゃないだろうか。

 いくら何でも、動かないと言うのは舐め過ぎだ。他のボスと違いすぎる。

 何かのイベント、だろうか。ゲームにおいてはイベント終了まで無敵、という判定がある事は珍しくもない。

 だが、何かが違うような気がする。


 僅かながら、着実に俺達との距離を縮めてくる一体の機械兵。けれどそこには、必ず待ちが発生する。

 待ち? ……いや、もしかして。


「フィリア、俺の指示があるまで動かないでくれ」


 もしも俺の予想が正しいとすると、非常に厄介だ。

 運が絡んでくるかもしれない。


 ジェイダイトを出現させ、俺は慎重に前へ一歩踏み出した。機械兵は動かない。更に一歩一歩確認しながら進み、五歩目でついに機械兵が動いた。

 俺が五歩目を踏み出す一瞬先に、恐るべき速さで移動する。だがそれも以前と同じく、数歩分だけ前に進むだけだった。

 予想通りの動きだ。


 今度は右に四歩移動し、様子を見る。が、機械兵に動く様子は無い。そこから消費MP8の単体攻撃魔法、[火炎弾]を発動。

 サッカーボール並のサイズにシュートの速さで炎の塊が飛び、一人動いていた機械兵にクリーンヒットした。機械兵は炎に包まれ、数秒後には無傷の姿でまた動き出した。奴は直進するだけだ。


 理解した。


 コイツ等は実に簡単なプログラムで動いている。単純過ぎて厄介なくらいに。

 四歩までの移動は大丈夫。五歩目の間に奴らの行動が入る。四歩までの移動に続いて攻撃を行えば、再び奴らは動き出す。

 五歩目への移動に割り込み、攻撃の後の確実な行動。

 奴らの行動は、ターン制なのだ。

 そして……。

 横一列に同一種の八体の並び、一体だけが前に動く。決められた移動距離。

 これは……。


「しょ——」

「チェス?」


 フィリアの問いに、俺は苦笑いを浮かべて頷いた。そういえば、将棋の駒の数は九だった。



 

 四歩移動し奴の横に立ち、動かないのを確認して俺は切り掛かった。

 剣が何か硬い物に接触し、けれどそれを打ち破り、機械兵を切り裂いた。


「ん?」


 その奇妙な感触は、今まで戦って来たどんな魔物とも違い、何か薄く硬い結晶にでも剣をぶつけたような不思議なもので。

 その正体に思い至ると同時に審察眼を発動。スキル、[スキャン]を発動する。


 審察眼進化スキル、[スキャン]。

 これはMPを1消費する代わりに、仲間以外の詳細情報を審察眼にて読み取れる能力だ。普通の審察眼では、敵の名前しか見えない。が、これを使えば敵の能力をステータスとして数値で表示してくれる。


 そして、俺は見た。


 俺が倒した機械兵の姿ではない。

 俺の攻撃で俺達のターンは終了、攻撃した時点で機械兵のターン。


 そいつは、俺が次の行動に入る前に強制的に割込んで来た。


 地を振るわせ駆けて来て、一瞬で俺の目の前に現れる。

 忘れていた訳じゃない。だが、少し勘違いしていた。スポットライトに照らされなかったから、八体全てを倒さなければ出ない物だとばかり。

 スポットライトに照らされなかった、二列目の機械兵の存在を。


 [Name] rook [Level] 100

 [HP] 48000/68000 [状態] 異常なし

 [攻撃] 9000 [防御] 8700 [敏捷] 8000

 [種族] 自動機械


 そいつ、チェスならば文字通り縦横無尽に走り回る機動兵、ルーク。

 鋼鉄製のチャリオットをメタルフレームの馬が引く。それに乗った機械兵が俺の目の前にいた。

 移動は既に終了している。


(まずい、まずいまずい!)


 チェスと言うゲームは、駒に機動力だけ与えて、攻撃に関しては無設定だ。敵の駒があるマスに乗れば、敵を倒せるというゲーム。一撃必殺といっても過言ではない。

 だが幸か不幸か、一撃であいつ等を倒せない事から、これは違うと言ってもいいだろう。ということは、俺が先ほど見せたように、相手を弾き飛ばしてマスに移動攻撃を繰り出す訳ではなく、相手に攻撃が当たるマスに移動して攻撃する。いわゆる、シミュレーションRPGの戦闘方式を採用しているのだろう。

 何がまずいのかというと、こいつらにはHP、攻撃、防御、敏捷にボスらしい馬鹿みたいな高ステータスが設定されている。

 一応保険をかけてあのノーマル機械兵、ポーンの前には立たなかったが、ルークが俺の真横に来たということは、やはりチェスの一撃必殺ではないのだ。

 ならばこれから起こるのは、俺とルークの殴り合い。

 普通の敵ならば、それで良かった。俺のステータスはそこそこ、それこそ恐竜タイプの魔物の一撃を受けても優に耐えきれる。

 だが、そんな俺のステータスを持ってしても、コイツ等とやり合うには及ばない。

 俺のステータスは、確かこんな感じだ。


 [Name] ナイン [Level] 68

 [HP] 9200/9200 [MP] 680/680 [状態] 異常なし

 [攻撃] 2740 [防御] 1860 [敏捷] 2300

 [種族] 人間 [職業] 魔法使い

 [パーティーメンバー] フィリア


 あり得ない。

 何もかもが、違いすぎる。

 数値が高すぎる。あんな馬鹿みたいに高い防御、こちらのダメージがほとんど通らない。こっちが二、三メートルしか移動出来ないのに、コイツは一瞬でここまで移動してくる。

 もう、こうなってしまったらどうしようもない。


「——ぐっ」


 瞬きと同時に、チャリオットに乗る機械兵が槍を振り上げるのが見えた。その動作の緩慢さに、一つの活路も見える。

 ターン制の戦いなら、何をしたらターンを消費するのか理解していれば、その隙をついてなんとか出来るはずだ。回避が一つの行動でないならば、なんとか避けられる。

 だが無情にも、俺のその思考はあっさりと引き裂かれた。


「駄目!」

「フィリア! や、止め——」


 フィリアが銃を構えるのが視界の隅で見えた。そこまでは、システムの許容範囲のようだ。

 だが、そこからは違う。

 フィリアの銃撃は、ターン終了にあたる攻撃行動。

 すなわち。


 チャリオットの攻撃が加速する。フィリアが引き金を引く前に、俺への攻撃行動を終了させるために。盾を構える時間? 引き金を引くより遅いに決まっている。


「かはっ!」


 HPの処理が行われ俺の防御が負けて、俺の身体が弾かれる。弾かれたのは移動行動に入らないようで、俺の四歩以上の距離を吹っ飛ばされた。

 その直後、けたたましい銃声が鳴り響く。チャリオットの機械兵の頭部で激しい金属音。

 やはり機械兵は倒れない。


 それで、俺達のターンは終了した。


 敵のターンだ。


「——っ」


 次の瞬間には、再びチャリオットが動き出す。思わず、審察眼を発動。


 全ての音が消え去り、完全な沈黙が訪れた。

 これで冷静に考えられる。ゲームだと言うのに、酷い現実が見えてくる。


 この状況、軽く詰んでいた。

 吹っ飛ばされた俺に迫るチャリオット。同じように見えて、これはさっきとまるで違う。

 今回、俺はもろに奴の移動線上にいる。よく見れば、車輪が激しい砂煙を舞い起こして俺に迫っているではないか。轢かれる。

 ステータスを見ても、この状況がまずい事が窺える。


 [Name] ナイン [Level] 68

 [HP] 2040/9200 [MP] 680/680 [状態] 異常なし


 HPの減りが速すぎる。確定二発で落とされるのか。

 [スキャン]を発動し、チャリオットのステータスを確認すれば、


 [Name] rook [Level] 100

 [HP] 46000/68000 [状態] 異常なし


 フィリアのクリティカルでも、たったの二千ダメージ。笑えない。

 そして一番の問題点は、フィリアとの連携だ。

 フィリアが攻撃する事で、問答無用で俺達のターンは終了する。少なくとも俺は移動したいのだが、この状況では不可能に近い。フィリアはチャリオットを止めようと攻撃するだろう。


 どうにかしなければならない。


 HPが防いでくれるのはあと一度だけ。ただ、その一度は完璧に防いでくれる。

 Level50を越えて覚えたアビリティ、[最後の盾]。これは全HPを消費する代わりに、攻撃を完全に無効化する。

 覚悟を決め、俺は審察眼を解除した。

 音が戻り、チャリオットの爆走が始まる。

 まず、チャリオットの突進を[最後の盾]で防ぐ。チャリオットが俺と肉薄し、結晶の砕け散る音が洞窟に響いた。だが、チャリオットの動きは完全に停止。

 機械兵が槍を振りかぶるのが見える。ここからが問題だ。


 どこまでが、俺達のターンの行動に該当するか。


 盾を構える——問題ない。ならばと、槍の軌道を読んで軽く横に避ける。それも大丈夫だった。

 機械兵の槍で横薙ぎを喰らう。完全に避ける事は思考から除外し、それを受け止めるように盾を繰り出した。

 ギギギと盾と槍が擦れ合う金属音。気付けば俺は吹っ飛ばされていた。

 だが、それも予想通り。

 吹っ飛ばされたのは、フィリアのいる方向。


「——っ」


 銃を構えていたフィリアは、吹っ飛ばされて来た俺を慌てて受け止めて、尻餅をついた。

 ここから勝ち筋を見つけ出すのは難しい。何より、これほどの強敵を前にして、俺は確実に焦っていた。

 だから、思考停止。安直に行こう。消費MP10。

 魔法[脱出]を発動。

 俺達は初めて敗走した。


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