序幕(カイ視点)
窓から差し込んでくる日光は、とても穏やかで、少し埃っぽかった。
倉舞中学校の平凡な中学2年生、カイは頭の中で眠気と壮絶な戦いを繰り広げながら、板書にノートを写していた。
「ということで、前回の朝テストを返すぞ。順番に前まで来い。」
なにが「ということ」なのかは知らないが、テストを返却する流れになっていたらしい。この朝テストは合格していてほしい。
「カイ、惜しかったな。放課後に再テスト、来るように。」
ああ、やっぱりこの世界は非情だ……なんて思っているうちに、授業が終わった。
「カイ〜!テスト、どうだった?」
「あぁ、リオ。残念ながら、ギリギリ不合格……。」
リオは、幼稚園の頃からの腐れ縁で、僕の黒歴史を一番知っている、このクラスで唯一の理解者だ。
「へぇ、カイにしては珍しいね。」
「で、リオは合格できたの?」
聞いても無駄だと思いながらたずねる。
「もちろん再テストだよ!あ、でも前回より2点あがって十点中五点は取れたよ。」
「ま、まぁ、成長してはいるんだね。」
「えへへへ」
いや褒めてない!と、突っ込もうとしたけれど、どうせ聞かないのでやめておいた。ふいに、廊下から、すごい!というようなざわめきが聞こえてきた。見てみると、Aクラスの3人が複数人の生徒に囲まれて褒められていた。
「Aクラスのテスト全部難しかったんでしょ。全問正解って、すごいな〜。」
「だって前の中間考査でも学年最高点を3人そろってとってたんだもんね。」
あの三人――ミラ、ゼン、サラは、学年内で常にトップを取っている、いわばエリートだ。今日のA組のテストもとても難しかったらしいが、三人は余裕で満点を取ったらしい。
「へぇ。流石だね。私とは雲泥の差だ。」
「うん。ほんとに。」
「そこ肯定しないでよ!」
でも、事実なのだからしょうがない。すると思い出したようにリオが言った。
「そういえばカイ。ちょっと今度の演劇部の公演で練習したいところがあるんだけど、 手伝ってくれる?」
「え?でも、今日は部活休みだよ?」
「え、いや……で、でももうすぐ本番じゃん。」
演劇部の活動は、火曜日、木曜日、土曜日のはずだ。今日は水曜日。
「リオ、まさかだけど、なにか企んでないよね。」
「そ、そんなことないって。いいから今日の放課後絶対来てよね。」
最後は早口でまくし立てて、そのまま教室に戻っていってしまった。明らかに動揺している。顔も熱を持っていたし、絶対に何か隠しているはずだ。
「はぁ……。まぁ、行くか。」
しかたなく呟いて、僕は教室に戻った。




