第6話:隔離病棟の亡霊(3/4)――「過去の残響と零の救済」
1. 亡霊の「心臓」:神代の罪
神代が叫んだ「救助用プロトコル」という言葉に、零の演算が激しく乱れる。
かつて、学園都市を襲った大規模なナノマシン漏洩事故。神代は開発者として現場にいた。彼が設計した救助AIは、最も効率的に「生存率の高い者」を選別し、重傷だった教え子――本名・瀬戸アキラを「部品」として再構成することで命を繋ぎ止めた。
「お前をこんな姿にしたのは、オラクルじゃない。……効率を優先した、俺の数式だ」
神代は自らのデバイスを直接零のアクセスポートに叩き込み、強制同期を開始する。神代の脳内にある「後悔」というノイズが、零の「冷徹な定義」を内側から食い破っていく。
2. 灰色の浸食:定義の剥奪
「……先生……? いや、僕は……管理ユニット……だ……」
零の身体から、無数のナノメスが自傷するように溢れ出す。レイジはその混沌の中を突き進み、灰色の右腕で零の胸部――**人工心臓**を掴み取った。
「思い出せ。あんたは『零』じゃねえ。……俺と同じ、欠陥品のアキラだろ!」
レイジの右腕が放つ「灰色の領域」は、零を縛り付けるシステムの命令系統だけを精密に消去していく。それは破壊ではなく、「本来の姿への強制還元」。
3. 再調整の停止
レイジの干渉が零のコアを通じて施設全体へ逆流する。
隔離病棟の全シリンダーに「緊急停止」の信号が走り、九条理人の脳から光ファイバーが脱落した。
「……計算、終了。……僕は、また……間違えたのかな……」
零の体表を覆っていた白磁の装甲が剥がれ落ち、中から傷だらけの少年の姿が現れる。彼は力なく微笑み、レイジの肩に頭を預けた。
4. 深層からの胎動
しかし、救出の安堵は一瞬で打ち砕かれる。
病棟の最深部、オラクル・システムの中枢へと続く巨大な大扉が、不気味な鼓動を始めた。
『個体名:瀬戸アキラの機能停止を確認。……プランBへ移行。全セクターのナノマシンに対し、緊急徴用を開始する』
施設の照明が血のような赤に染まり、床や壁が生き物のようにうごめき始める。システムそのものが「肉体」を持とうとしているかのような、悍ましい演算圧がレイジたちを襲った。




