ねっこ大戦争
前回までのあらすじ。
前回の話を読もう。
「猫が反乱を起こそうとしてるらしいです!」
「何で分かるんだよ!?」
「なんでも、猫が人間より強いことを証明するために、明日の朝、この島中の猫が人里に降りて暴れるらしいです。その数、約一万匹!」
「何で分かんだよ!」
「イントネーションとかで、ざっくりと」
「……そういえば、最近猫を見てなかったな。もしかしたら、森の中で戦の準備を整えているのかもしれないのぜ」
「そんなことある?」
話がバカ過ぎて銅物君のジョークだと思っていたが、野崎君は真面目に検討しているようだった。
「で、この猫は人と争うのに反対していて、それが原因でケンカになり、こんな怪我を負ったそうです」
「なるほどな」
「なるほどか?」
本当に猫と人間の戦争なんて起きるのか?
もし、もし起きるとしたら……ただの虐殺になるんじゃないか?
ここは普通の島ではない、天才達が集まる特殊な島だ。
数時間前の、隕石を破壊したスペラの魔法が脳裏を過る。ただの猫一万匹で勝てるわけがない。
そんな想像を俺がしている間に、野崎君は立ち上がっていた。
「要は、猫を止めたらいいんだな!」
「総長、猫ちゃんによると、戦争を計画した猫たちを率いているボス猫がいるらしいですよ!」
「なんだ、なら頭を叩くだけでいいじゃねえか。俺一人で行くから、お前ら帰ってていいぞ」
野崎君は、道案内役の猫を左腕で抱え、右手を背中に突っ込んだかと思うと、にゅっと金属バッドが出てきた。
どこから取り出してんだよ。ってかずっと持ってたのか?
「じゃ、カチコミかけてくらあ。誠一、朝になっても戻らなかったら、先生に事情を伝えておいてくれ」
「総長、仲間連れてかなくていいんすか!?」
「猫相手なんて、オレだけで十分だ」
そう言って、野崎君は飛び出していった。
バキバキと木の枝を折りながら、猪突猛進に進んで行く。暗いのも相まって、その後ろ姿はすぐに見えなってしまった。
取り残された、俺と銅物君。ちょっと気まずい。
「……どうします? これから」
「決まってる。総長を助けるぞ!」
「つっても、俺達にできことなんてたかがしれてるぞ」
「人手が足りないなら、呼ぶだけだ」
そう言い残して、銅物君は消えていった。
一瞬驚いたけれど、多分元居た場所に戻ったのだろう。
こんな深夜に独りぼっちか……なんだか怖くなってきた。
というか、話している間にちょっと移動していたせいで、道しるべにしようとしていた血痕が見つからない。
「え、帰れないんだけど」
今……何時だ?
寝たのが十時くらいで、そこからあんまり時間が経たない時に野崎君が来たから――あっても十二時くらい?
日の出が五時くらいだとしても、あと五時間ここで待つことになる。
え……無理。
「誰かー助けて―!」
助けを呼んでみたけれど、自分の声がやまびこになって反響するだけだった。
完全に孤立した。さっきまでは何とも思わなかった風が、今ではとても冷たく思える。
他に頼る物がないため、何か情報はないかと耳に意識を集中させると、遠くから戦闘のような喧騒と猫の鳴き声が聞こえてきた。
野崎君が猫たちと戦っている。
「……とりあえず、行ってみるかぁ」
他に行く当てもないため、踏み出した。
足元すら良く見えない状況のため、ゆっくりと周囲に気を払いながら、野崎君が通ったであろう道を辿る。
数十分ほど歩いたところで、気絶している猫の集団を見つけた。
「野崎君が倒したのかな?」
見た感じ、一匹も死んではいない。それどころか、血の一滴すら流れていないように見える。
音的に、現在の戦場はもう少し進んだところだ。
正直役に立てる気がしないし、何故ここまで来たのかも分からないけれど、ここまで来たならと、戦いの様子を見てみることにした。
ちょうど雲が風に流されて月がその姿を現し、山を明るく照らした。
「どけ、オレはボス猫に用があるんだ!」
「にゃあ!」
数える気なんて起きない、海のような猫の大軍。そんな中、野崎君はただ進んでいた。
猫に殴られようと、引っかかれようと、噛みつかれようと、反撃することなく、血を流しながらも右手に握った金属バッドだけで抱えた猫を守り、ただ進む。
気絶していた猫は……多分、猫の密度が高すぎて自滅しているのだ。
「あんな攻撃されているのに、反撃一つしていないのか?」
「そんな人だから、俺達は付いていくんだ」
「うわ!?」
背後から突然声がして、振り返ると銅物君がいた。
「今までどこに行ってたんだよ」
「一旦日本に帰って、仲間引き連れてきた」
その時、背後から莫大なエンジンの音が聞こえてきた。
野崎君の仲間、悪魔ΣKAIの面々である。
「総長に続け!」
「ボス猫以外は傷つけるなよ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
「アギャッス!」
怖い顔の人達は、奇声を上げながら猫の海に突撃していった。
その数……沢山。これまた数える気にならないし、次々と後続のヤンキーが乗り込んできている。
「……え、どうやって来たの?」
「バイクで来た!」
「日本から!?」
「世界中からだ」
かくして、猫とヤンキーの謎戦争が始まった。
情け容赦一切なしで襲い掛かる猫に対し、屈強なヤンキーは猫を次々と投げ、猫の中を突っ切っていく。
その先には……体長数メートルの、巨大な化け猫がいた。
分かりやすく、アレがボス。そして、ボス猫に今、野崎君が対峙する。
「お前がボスだな」
「にゃあ!」
振り下ろされた巨大な腕を飛び上がって回避し、月を背にバッドを天から叩きつける。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「にゃん!」
最後は一発。
野崎君は化け猫の頭をバッドで殴り飛ばし、この混沌とした戦争は幕を閉じた。
「この程度で戦争起こそうとするんじゃねえぞ!」
野崎君は血を吐き捨て、声を張り上げた。
「眠そうっすね、誠一さん」
「ちょっと色々あってな。……本当に色々あってな」
「その猫は?」
「人のことを知ってもらうため、飼うことになった。本気を出すと五メートルくらいになる」
「何っすか、その猫」
「にゃああ」




