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第三章 捜索〜滴るもの〜
カサッ――
微かな音に、全員が一斉に足を止めた。
「……今の、何の音だ?」
主任が足元に目を向けた。
枯れ葉と苔に覆われた地面。その一部が、異様に黒ずんで見える。
「これ……」
懐中電灯の光を当てると、そこは土ではなかった。
葉の上に染みた液体が、赤く輝いていた。
鮮やかすぎるほどの赤。
ポタ……
肩に、何かが落ちた。
隊員の一人が思わず首をすくめ、濡れた感触に手を当てる。
「……え?」
それは、ぬるく、生臭かった。
誰ともなく、視線が上を向く。
そこに――いた。
一本の枝から、逆さに吊るされた男。
顔は原形をとどめていなかった。
目は開いたまま干からび、口元は裂けるように開いていた。
腕は不自然にねじれ、足首は太い縄で絡め取られたように縛られている。
衣服は血で染まり、腹部に鋭い何かで切り裂かれた跡がある。
そこから、まだ血が――落ちていた。
「――嘘だろ……」
隊員の一人が呟いた。
風が一度、林を抜ける。
吊るされた男の体が、ゆっくりと揺れた。
揺れるたびに、ポタリ、ポタリと血が地面に染みていく。
それはまるで、何かの儀式が終わったばかりのようだった。