10/26
第四章 名前
「収容完了。今から樹海入り口へ戻る」
担架の上、白布で覆われた男の遺体が運ばれていく。
見つかった時とはうって変わって静まり返る隊列。
誰一人として、口を開かなかった。
それは死に対する畏怖か、あるいは――そこに漂う説明できない“気配”のせいか。
搬送用の救急車が待機していた。
ストレッチャーを押し込むと、警察官が一人、歩み寄ってきた。
「彼の特徴、何かありませんでしたか」
「破れたスニーカーに、黒のパーカー。あと、右腕に赤いラバーバンドが」
警官が無言でメモを取り、病院側と連絡を取り始める。
――数分後。
「確認が取れました。遺体の服装は、行方不明者の一人――“シュン”のものと一致しました」
空気が一段、冷たくなる。
「……第一発見者のリョウに確認させたそうです。
彼が最後に見たとき、シュンは黒パーカーを着て、他の三人と別行動になったと」
主任が静かにうなずいた。
「ふざけた遊びの結果じゃないな。……一度署に戻るぞ。人員と資材を要請しろ」
警察の無線が忙しなく動き始める。
周囲にテープが引かれ、現場はただの“捜索現場”から“事件現場”へと姿を変えた。
木々は何も語らない。
だが、その沈黙が、やけに生々しく感じられた。
遺体が見つかったあの枝先には、まだわずかに赤黒い雫が、落ち続けていた。




