第十一章 樹海〜再び〜
タクシーを降りたリョウは、薄暗い樹海の入口に立っていた。
足元の枯れ葉が風に吹かれ、かさりと鳴る。
月明かりは雲に遮られ、辺りはほとんど闇。
それでも、リョウはためらわずに足を踏み入れた。
覚えている。
このあたりで、ふざけ合いながら歩き始めた。
右に曲がり、緩やかな坂を下って――
リョウは記憶をなぞるように、慎重に進んだ。
木々はどれも同じに見え、方向感覚はすぐに狂い始める。
それでも彼は必死に思い出そうとした。
メモ帳を拾ったのは、たしかもう少し奥だった。
そこまでは、行けるはずだ。
一歩、また一歩。
乾いた枝を踏むたびに、周囲に微かな音が広がる。
何かが背後からついてきている気配――
リョウは振り向かない。
振り向けば、終わりな気がした。
やがて、見覚えのある倒木が目に入った。
「……ここだ」
小さく呟き、リョウは足を止めた。
倒木の脇に、かつて落ちていたメモ帳。
あの場所だ。
あの日、自分たちはここで、何かに遭遇した。
ここから、シュンが逃げ、皆がバラバラになった――。
胸の奥に冷たい痛みが走る。
リョウは震える手で、倒木に触れた。
そのときだった。
耳元で、かすれた声がした。
「……かえれ」
リョウは息を呑んだ。
誰もいないはずの闇の中、確かに声が聞こえた。
背筋をなぞるような、冷たい感触。
呼吸が浅くなる。
それでも、リョウは一歩、また一歩、奥へと進んだ。




