表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/35

35_LUCK&STAR

 マーヤの情報によれば、ステラピースのいくつかは東の大陸にあるという。海を渡らなければならないので、次の目的地は港町だ。

 棒切れで遊ぶ子どもみたいに、ラックは白い剣を振る。少々危なっかしいが正面には誰もいないのを確認済みだ。


「次はどんな街や村があるか楽しみだね、エリー」

「うん……」


 やはりエリーの元気がなく、足取りもラックより十歩以上は遅れている。


「エリー、もしかしてまだあの街にいたかった? そういや全然買い物とかしてなかったし、もっとゆっくりしたかった……よね?」


 半ば強制的に街を出たことに怒っているのかもしれない。ステラピースを探すためとはいえ急ぎ足になりすぎてしまった。

 不安そうにラックが後ろを向くと、エリーは慌てて両手と首を振った。


「ううん、違うの。ラックの気持ちは嬉しいんだけど……でも、わたしは……」


 ついにエリーは立ち止まってしまう。

 エリーには、ずっと溜め込んでいるものがあった。


「昨日は勢いでラックと一緒にいていいって思ったけど、やっぱりわたしの口からはっきり言わなきゃいけないよね。だから……話を聞いてくれる?」

「……わかった」


 白い剣をしまい、ラックも止まってエリーとの一定の距離を保つ。

 なにを話すのか、大体予想はついている。


「ずっと黙ってたけど、もう知ってると思うけど……わたしはただの人間じゃない、魔族と人間の血が両方混じってるの」

「……うん」

「ラックは、星の魔女って知ってる?」

「最初は知らなかったけど、ピネスから聞いたよ」

「そっか、やっぱりピネスさん気づいてたんだね……そう、わたしはたくさんの人間を殺した魔族の娘。人間から忌み嫌われてもおかしくない存在なの」


 自分の母親を悪く言うのは、エリーにとっても辛いだろう。

 辛くとも、エリーははっきりと伝えていく。


「わたしはそれが怖かったから、星の魔女の娘であることも魔族の血が混じっていることも隠してた。ラックに避けられたくないから、嫌だって思われたくないからずっと黙ってた。でも、ずっと隠してたままじゃダメだって今回でわかったの。だから、ちゃんと言うね」


 涙を見せず、堂々とした立ち振る舞いでエリーは声を上げた。


「わたしは魔族と人間の混血種だけど、種族なんて関係なくみんなと仲良くなりたい。ステラピースもお母さんの唯一の形見だから、全部集めたくて旅に出たの。他に目的なんてなんにもない。だから……だから!」


 声が震えているのがわかる。

 精一杯振り絞り、エリーは続きを発した。

 心からの、嘘偽りのない本音。


「もしよければ、わたしと一緒に旅を続けてくれませんか……?」


 初めての出会いを思い出す。あのときはラックから誘いをかけたが今度は逆だ。

 エリーはうつむいたまま、ラックの返事を待っている。

 ラックとしてもすぐに答えたいが、一つだけ問いかけたい。


「ボムフラワーを倒したとき、エリーは星魔法を使って本名を名乗ってくれたよね。もし俺がその時点で星の魔女を知っていたらまずいと思うんだけど、どうして使ったんだ?」

「それは……ラックを守りたかったから咄嗟に。エリースターって名乗ったのもつい勢いで……もしバレて気味悪がられたら、そこでお別れしようと思ってたの。ちょっとだけ気絶させてから」

「最後のはちょっと物騒だな」


 知らないことで良い方向に向かうときもある。

 無知も悪くないものだと、ラックはくすっと笑った。


「エリー」


 一歩ずつ近づくも、エリーはまだ顔を上げない。断られるとでも思っているのだろうか。

 彼女の不安を吹き飛ばしてあげよう。

 目と鼻の先になると、ラックは。

 エリーを優しく抱き寄せた。


「…………ラ、ララララララック!?」


 不測の事態に硬まるエリー。

 構うものかとラックは体勢を変えなかった。


「大好きな人にはこうやってぎゅーってすればいいんだろ? エリーが言ってたじゃないか」


 そう言いつつも完全に密着ではない。ややぎこちなく寄せているだけであり、体はそこまで触れ合っていなかった。

 どこまでもラックは奥手である。

 だけど、好きだという気持ちは変わらない。


「さっきの返事だけど……喜んで。きみがいなきゃ俺の旅は始まらないよ、エリー」


 エリーと旅に出てから、こんなにも充実した日々はない。

 願わくば、ずっと彼女と。


「……ほんとに、ほんとうにいいの?」

「当たり前だろ、むしろこっちからお願いしたいくらいだよ……そうだ、忘れてた」


 いったん離れ、ラックは鞄からアクセサリーを取り出す。

 星と剣が重なった、銀色のネックレス。

 丁度いいやとうつむいたままのエリーにネックレスをつけた。

 ようやくエリーは顔を上げると、星と剣の飾りをそっと手にする。


「これは……?」

「ほら、前に買ったのは壊れちゃったからさ。その代わりというかなんというか。結構高くてケルベル討伐の報酬金ほとんど使っちゃったけど……よければもらってくれないかな」

「………………ラック!!」


 ラックの笑顔が、エリーにはあまりにまぶしくて、嬉しくて。

 今度はエリーが思いっきり抱きつくと、勢いあまってラックもろとも倒れてしまった。

 ラックに覆いかぶさりながら頬ずりするエリー。

 ご乱心状態だ。


「もう限界、さっきラックが起きたときだってこうしたかったのに嫌がられると思って我慢してたんだからっ! でももういいわよねお互いが大好き同士なんだから遠慮なんかいらないもんね!!」

「むおおおおおお……」


 見事なまでに密着され、ラックは身動きがとれない。

 だけど、いつもの天真爛漫なエリーに戻ってくれた。


「わたし、すごくすっごく幸せだよっ。改めて……ありがとう。本当にありがとう! これからもよろしくね、ラック!!」


 嬉しさが最高潮に達し、エリーの笑顔から涙がこぼれる。

 その表情は、いままでで一番美しかった。


「こちらこそよろしく、エリー。……さ、旅を続けようっ」

「うん! ずっとずっと一緒だよ、途中でやっぱり嫌だって言ってももう遅いんだからねっ。絶対に逃がさないんだから!」

「怖いこと言うなよ……でもありえないけどさっ」


 そして二人は笑い合い、また歩き出す。

 なにがあっても、この先二人で――




 与える攻撃は1ダメージ、不思議なスキル『オビット』を持つラック。

 超強力な星魔法の使い手だが、星の見えない昼間では魔法が使えないエリー。

 どんな困難が待ち受けても、二人一緒なら絶対に乗り越えられる。


 なぜならラックとエリーは、最強で最高のコンビなのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ