第三章 三話 告白
コウの狂気に恐怖する。
「心配しないで。これは自分のではありません。今鶏を捌いたから……
そんなに恐れないでくださいよ。この地方の唯一の特産品。
自慢できるのはこれくらいなもので。何でもブランド鶏だそうです。
近所の方からのおすそ分けでせっかくだから二人に食べてもらおうかと。
さっそく鍋にしましょう」
話を聞くにどうやら離れで鶏を解体していたようだ。
都会では馴染はないが田舎の方では普通に解体されているそうで。
近所には立派な養鶏所があるのだとか。
養鶏場の見学は別に構わないが離れに行くのだけは遠慮したい。
できれば近づきたくないし想像もしたくない。勧められても行くつもりはない。
「どうです。せっかくだから見学しませんか」
コウはからかっているようだ。本気で受け取るのも馬鹿らしい。
生憎私たちは忙しい。そんな時間は取れない。
それに助手がこっちを見てバツ印を出している。
少しは私を信用してもらいたいものだ。断るに決まっているだろう。
からかって反応を見るコウ君も良くないが助手の情けない態度が気になる。
これくらいのことで怖気づいてどうする。
現場ではもっと凄惨な場面に出くわすことだってある。
熱々の鍋を三人で囲み、山で採れたキノコや野菜それに魚を加える。
メインの鶏をぶち込んだら完成。鶏鍋の出来上がりだ。
鶏とキノコに魚の出汁がしみ出た鍋はそれは格別で最高。
空腹からご飯を三杯もお替り。ついつい食べ過ぎてしまうのが悪い癖。
「いやあ。美味しかった。特にこの名物の鶏肉が柔らかくあっさりしていて本当に食べやすかった」
泊めてもらった上にこんなご馳走まで頂けるなんて思いもしなかった。
まるで事前に来ることが分かっていたかのような豪華なおもてなし。
いえいえと言って後片付けをするコウ。
「満腹。満腹。もうこれ以上は入りませんよ」
助手は鶏肉以外をよく食べたようで腹を膨らまし横になる。
鶏肉は一口、二口程度しか食べなかったと後で話してくれた。
後片付けを終え布団を敷いたコウに話を聞く。
「そうですね。別に隠すこともありませんしね。お話します」
「明日から行われる祭りは村の権力者一家の代替わりの儀式。
何十年ぶりかに行われる大変貴重で大変珍しいもの。
主な参加者は当主とその娘達です。
別にイメージされているような家督争いが勃発する訳ではありません。
ただ形だけそうなってるに過ぎないんです。
後継者は最初から長女の一葉さんと決まっています。
村の者はその盛大な儀式を楽しんでいる訳です」
できるだけ多くのことを聞いておこうと思ったがこれ以上は疑われる。
やはり探偵たるもの自分の足で手掛かりを見つけなくてはいけない。
ただ、一つだけどうしても彼から聞いておかなくてはいけないことがある。
「コウ君。君にはどのような役割が? 」
「先程もお話しましたが儀式では二姫さんを湖の館から連れ戻す役割を担います。
それから村のサポートも。湖の館は自分以外の者が連れて行くことができません。
これは渡しの仕事なんです」
父から受け継いだ渡しの仕事を全うするため全力を尽くすコウ。
興奮気味に語り冷静さを欠いている。まだまだ若い。
「へえ…… それでコウ君は明日行くと? 儀式はどんな感じ」
部外者に祭りの詳細を明かすのはご法度。コウはためらいがちに話し始めた。
「いいですか。本当は口外してはならないとなってるんですがまあ特別に。
まず三姉妹がそれぞれ所定の位置に着き三日間食べずに籠ります。
断食みたいなもの。そして儀式当日に一人が役目を終え館から姿を現します。
翌日には次の者が。翌々日に最後の者が姿を現します。
そして最後に代替わりの儀式の為に全員で村の中央の館に集合。
最後の仕上げを行うと代替わりは完了。晴れて一葉さんが当主に」
眠気を堪え親切に対応するコウ。話を切り上げようとするので最後に一つと粘る。
「これには例外なんかあるの? 」
「もちろん一葉さんが何かの不運で亡くなった場合は代わりに二姫さんが当主となります。まあまずそのような事態に陥ることはないでしょうが」
さほど難しくない。長女が継げなければ二女が。それも無理なら三女となる。
「分かりました。ついでにもう一つ。三人は今どこに? 三日間籠ると言うことはもうすでに儀式は始まっていて三姉妹は別々に籠っているんですよね」
「ええ。確かにその通りです。しかしなぜそのようなことをお聞きに? あなた方は一体何者ですか? 」
コウは警戒心を強める。
疑いの目を向けられては敵わない。ここは打ち明けるのが筋だ。
「実は我々は探偵でして。差出人不明の奇妙な手紙を受け取りまんまと誘き出された次第です。この儀式で不穏な動きがあるとのことで調査に参りました」
「それは…… 」
突然の告白に驚きとためらいを見せるコウ。それ以上に慌てふためく助手。
まあ彼の言わんとしていることは理解できるが今は少しでも情報が欲しい。
コウ君にはぜひとも力になってもらいたい。
「そんなこと言って…… 誰が犯人か分からないのに。脇が甘いっすよ先生」
助手の言い分も理解できる。だがやはり協力者が不可欠だ。
「いいんだよ。正直に伝えるのが私のやり方だ。
それに手紙を送った第一村人も我々が来ることは百も承知。
結局よそ者はどんなに取り繕っても浮いてしまう。我々以外は完全に村の者。
それよりも早く打ち明けて協力してもらったほうが得策だ」
「先生。それでは危険過ぎる。それに村の者が皆良い人とは限らないんですよ」
助手の言い分も理解できるがここはあえて私のやり方を通す。
二人の口論を大人しく見守るコウ。
「分かりました。お二人は事情があってこんな山奥の村へやって来たことは理解しました。それで自分は何を協力すればいいでしょう? 」
意外にもすぐコウの賛同を得る。
続く