第三章 四話 悪夢
探偵であることを告白しコウの協力を得る。
「では三姉妹の現在地を教えてくれないか。さっそく明日にでも訪ねたい」
「さっきも言ったように一人は東の端。もう一人は西の端の湖に。三人目は北の端。長女、二女、三女の順です」
隣の村のコウ君がここまで詳しいのは逆に不自然な気もするが彼も儀式の参加者。
当然と言えば当然か。
「詳しいねコウ君」
「当たり前ですよ。参加者なんですから。何でも聞いてください」
鼻息荒いコウ。これくらいでないと逆に困る。助手も見習ってほしいものだ。
「ほう。長女は東の端か。ならば門を抜けてすぐってところかな」
簡単な地図を描き確認してもらう。
「はいはい。そうですね。今長女の一葉さんが断食の真っ最中。神聖なものですから決して邪魔をしてはなりません。それだけはご理解ください」
村にとっても一族にとっても決して侵してはならない神聖な儀式。その最中と。
「その…… 中止する訳にはいきませんか? 」
もちろん受け入れるとは思わないが今のうちに手を打っておく必要がある。
「それはちょっと…… 」
儀式が始まってはもう止められない。コウは首を振る。
「ほら聞こえませんか? 女の幽かな声が聞こえませんか? 」
ふざけてるのか本気なのか? とにかく儀式を中断するつもりはないらしい。
「冗談は止めてくれ。聞こえるはず無いでしょう」
助手は嫌な気配がしたのか酷く怯えてぶるぶる震えている。情けない。
それではただの臆病者だ。
「いえ冗談ではなくこの家は一葉さんが今籠っている場所から一番近いんですよ。
特に離れは目と鼻の先で昨晩も何やら叫び声や祝詞が聞こえてきて。
もし村と村を仕切る大きな囲いが無かったらすぐにでも行けるのに」
なぜか笑っている。どこがおかしいのか理解できない。
もしかしたら助手が怖がるのを見て楽しんでいるだけなのかもしれない。
「そうだ。離れに行ってみませんか? もっと鮮明に聞こえるかもしれないし手掛かりを見つけられるかもしれませんよ」
せっかくの誘いだがもう疲れもピーク。早く寝たい。
「どうですお二人とも」
「離れに行く? 冗談でしょう。それだけは勘弁してくださいよ。ねえ先生」
同意を求められても困るがここは誘いを丁重にお断りする。
「先生…… 」
助手は離れと言う言葉に敏感に反応。もう参ってしまっている。
コウ君の執拗な攻撃。いくらなんでもからかい過ぎだろう。
「そうですか。ではごゆっくり」
明日の準備で忙しいのだとか。
コウ君は悪ふざけが過ぎたことを謝り離れに戻る。
飯も食い話も聞いた。後は寝るだけだが……
「先生…… 」
果たして今夜は眠れるのか。
「おやすみなさい」
怯える助手の側にいてやる。
眠れぬ夜を過ごす。
案の定寝つけずに羊の数を数える羽目に。神経質になっているのかもしれない。
本来だったら旅の疲れから十分もあれば夢の世界へ行けただろう。
初体験に緊張と興奮で自分をコントロールできずに眠ることさえできない。
情けない限り。
ぶつぶつ
ぶつぶつ
隣ではやはり羊を数えているようでうるさくて敵わない
注意してやりたくても泣きつかれたら厄介。
子供じゃないんだから自分で何とかすべき。
羊を数えること一時間。ようやく眠気がやって来た。
ここを逃す手はない。集中集中。
ついに夢の世界へ。
夜中。
叩く音で目が覚める。
トントン
トントン
誰? 誰だ?
呼びかけても返事が無い。
それにしてもどこから音がするのか。
トントン
トントン
風の音?
気になって仕方がない。
ドンドン
ドンドン
音が激しくなる。
うるさいなあ。
ガンガン
ガンガン
静かにしろ。
いくら叫んでも届かない。
誰もいない。幻聴か?
迎えに来たよ。
君は誰?
ムカエニキタヨ
誰? 一体君は誰なんだ?
幻にいくら言っても仕方がない。でも言わずにはいられない。
私はサライ。
サライ?
ワタシハサライ
サライ?
そうサライちゃん。
サライちゃん?
サライチャン
サライチャン?
イクヨ
いやだ止めてくれ。
イクヨ
来るな。
モウオソイ
うおおおお
モーオーソーイーイ
ぐわああ
サライチャン
ごめんなさいサライチャン。助けて先生。
「おい。起きろ。何時だと思っているんだ」
「サライ? 先生…… 助かった」
朝、開門の時間が迫る。
続く




