対立
「忘れ物を先生に」
意味深な言葉を投げかける大家。
「忘れ物したかなあ? まったく覚えがないんだが…… 」
忘れ物? 落とし物? やはりピンとこない。
大家さんがこの村に来たのも一昨日知った訳で。
そうするともはや何が何だか。
「お戯れを先生。一連の事件の真相解明に参った次第です」
「それはそれはさすがは大家さん」
頼りになる大家さん。まさかこの山奥の村にまで駆けつけるとは驚きだ。
彼女をそうまで駆り立てるのは何なのか? 探偵としての執念?
やはり昔探偵だったからだろうか場慣れしてる感がある。
まあ浮気調査か人探しかペット探しだろうと思っていたがもしかしてあり得る?
大家さんがこの難事件を解決する未来。それに賭けるのも悪くない。
私と助手に大家さん。
誰が一番先にこの難事件に辿り着こうが関係ない。
この村の為に一分でも早く解決すればいいのだ。
ある意味チーム戦。
大家さんか…… ただの金持ちで過去や探偵としての実力もあまり知らない。
「滅相もございません。先生の為ならいかなることも辞さない所存です」
どうも大げさで時代錯誤なんだよな……
「そうするとすべて分かったと? 」
大家は頷く。
「しかし第三の消失は昨晩起きたばかりだよ。
どんな名探偵だっていきなり解決などいくら何でも信じがたいなあ」
疑いの目を向ける。
大家さんは悪い人じゃないけど早とちりが過ぎるのと思い込みが激しい。
捜査に思い込みは禁物。
いくら正しそうに見えても必ずどこかに綻びがある。
もし気付かずに嵌ってしまえば取り返しのつかないことになる。
だからいつも言っている。慎重にも慎重をと。大家さんの受け売りでもある。
決して批判するつもりはないがもう少しゆっくり落ち着いて考えるべきだ。
「先生。まさか疑うんですか? 」
大家の目を見る。
「先生…… 」
耐えきれずに視線を外す大家。
これは何かある?
「何ですかその目は? 私の言葉を信用できないとでも言うのですか? 」
機嫌を悪くしてしまったか? またはこれも大家の作戦?
「いやそうじゃない。早急過ぎる。このまま行けば必ず大変なことになる。
捜査はもう少しゆっくり丁寧に。大家さんだって言ってたじゃないか 」
大家は決して自分を曲げようとしない。頑固で困ってしまう。
「確かにおっしゃる通りで反論するつもりはありませんが…… 」
何が言いたい? 前置きはいいから早くして欲しいものだ。
「お言葉ですがいくら時間をかけたところで分からないものは分からないんです。
真相に近づくことができてもそこまで。そのうち真相から遠ざかってしまう。
捜査とはそう言うものです。不可能なものは不可能。
そこを理解も割り切りもせずいつまでもだらだら無駄を重ねて何になるんです?
先生は捜査を進めていたとは思いますが結局地下牢に閉じ込められてしまった」
説得力はある。だがそれは私のミスを指摘しているに過ぎない。
これはあくまで捜査。殺人事件の捜査なのだ。
推理ショーでも推理対決でもなく現実に起きた事件を解決するもの。
そこを履き違えてはダメだ。
仕方なく大家の意見に耳を傾ける。
まあこれくらいでストレス発散になるなら安いもの。付き合ってやるか。
納得するまで話し合うのが探偵と助手と言うもの。
短い間だったが助手の役割をこなしてくれたのは事実。
「うーん。そこを突かれると弱いんだよな」
もう項垂れるしかない。
大家さんは勝ち誇ったように胸を張る。
残しておいたそば汁を一気に流し込む。
周りには人がおらずより大胆な行動に。
声を張り上げると大家は自慢の推理を披露する。
「では第一の事件から順に説明して参ります。
ちなみに先生は第一の事件とそれ以降の消失は関わりがあると思いますか? 」
「当主の岩男氏が亡くなった事件だね。うーんまだはっきりと断定はできない。
村の者からも相当恨まれていたようだ。もし他殺ならば誰にでも動機がある訳だ。
ただ第二の事件の前夜に亡くなっている事を考えると……
今度の犯人によるものと考えるのが普通だろうね」
恐る恐る反応を見る。うん。怒ってないな。
セーフ。ギリギリセーフ。
続く




