第二章 二話 第一村人からの挑戦状
「あれ…… 大家さん。どうしたんですか」
てっきり二人目だと思ったが目の前にはなぜか大家の姿。
残念。どおりで聞覚えのある声だと思った。
自然とため息が出る。
「ああ面接中だったかい。それは悪かったね。でもこっちにも用があってほら」
そう言うと一枚の手紙を寄越す。
「そうかそうか。感慨深い。実に感慨深い。初の依頼だ。よし開けてみるか」
「じゃあ私はこれで。私の後継者が早く決まるといいね。少し心配していたんだよ。誰も来てくれないんじゃないかってね」
大家の言っていることが理解できずに候補者は挨拶だけして上の空。
大家が退出して二人きりとなる。
「先生。あの方は誰なんですか? 」
「ああ。前の助手さ。短い間だったが世話を焼いてくれたんだ。感謝しているよ。
彼女がいなかったらどうなっていたか。これからは君に頑張ってもらうよ」
「勝手に決めないでください。私にも選ぶ権利があります。その前に確認を。
依頼多数というのは? 解決実績百パーセントは? どうも信じられません」
彼はたぶんチラシや新聞広告に書いてあることを真に受けて応募したのだろう。
まさか本気にするか? それでは探偵の助手など務まらないぞ。
助手と言えど探偵の代理だってしなければならない。
犯人に騙されるだけではない。いつ危険にさらされるか分からない。
「ああ、あれね。探偵の依頼は今回の手紙が初めてさ。
それまでは何でも屋のような仕事が中心。
それに口コミだけではなかなか客が来なくてさあ。
もちろん今までの依頼は成功しているよ。顧客満足度は何と驚異の90%越え。
だから嘘でもなければ詐欺でもない。まあ心配するな。
今年からきっちり新聞やネットで広告を出しているから。
だからこの依頼の手紙が来たわけだ」
「先生。それはないですよ」
「まあいいじゃないか。それに君はまだ採用されたわけではないぞ」
疑惑の目を向けられる前にこちらから動き主導権を握る。
これで彼ももはや逃げられない。助手は当然だが最低でも一人は必要。
彼がいなくてはすべて自分でこなさなければならない。
何としても彼を引き止める必要がある。
「はあ、確かにそうですね。でもどうしたらいいか未だに分からなくて…… 」
助手の仕事を断るか迷っているようだ。
ここはもうひと押し。揺れ動く心に訴えかける。
「大丈夫さ。それで気持ちは変わったかい? もしこの程度のことで心が揺れ動くようならこの仕事は向いてない」
マイナス面を利用して彼の心を操る。
「いえ、変わっていません。助手の仕事は私にとって天職です。どうかよろしくお願いします」
頭を下げる。
「よろしい。それでは手紙を見てみるか」
封を破り中身を確認。
探偵諸君へ。
初めまして私は第一村人。
来たるフェスティバルにおいて三名の未来ある若者の最期を見届けて頂きたい。
これは挑戦である。
日時は以下の通り。
場所はお分かりになると思うので省略致す。
何卒お間違いのないように。
三月凶日
第一村人
日時指定をしてくるとは自信の表れなのかそれとも何らかの意図があるのか。
私はこの風変りな招待状をどう扱えばいいのか正直分からない。
うーん。警察に連絡する?
いやまだ事件が発生もしていないのでは追い返されるのがオチだろう。
それに警察に頼ったとあっては探偵の名折れ。プライドが許さない。
どうする? どうすればいい? 単身乗り込むべきか…… 答えは出ない。
もしかしたらこれは私への恨みで陥れるつもりなのかもしれない。
少なくても正体が分かるまで慎重に行動するべきだろう。
もちろん恨みを買った覚えなどない。だから心当たりはない。
いや果たしてそうだろうか。探偵とは警察同様に人から恨みを買いやすい職業。
警戒は怠るべきではない。
これは私の探偵人生を決定づけるターニングポイントになるやもしれない。
チャンスだかピンチだか分からないが第一村人の挑戦を受けるべきだ。
続く