第二章 一話 探偵と助手
第二章。
三月上旬。昼過ぎ。
「それじゃあ悪いね」
「問題ありません。後は全部私の方でやりますのでご心配なく」
目の前には年配の女性の姿がある。彼女は何を隠そう私の……
「そうかい。何かあったら言うんだよ。いつでも駆けつけるから」
まだ心配している。もう困ったなあ。子供じゃないんだから。
「はい。何かあったらその時はぜひ協力をお願いします」
年配女性を見送ってこの後のことを考える。
一週間後。
もうそろそろ見ごろを迎える桜。
桜並木の一本道を折れ、入り組んだ狭い路地を少し進むと雑居ビルが見える。
その三階に探偵事務所がある。一階にはレストランと喫茶店。
一番奥に閉店したコンビニ。そこにはもうすぐチェーン店の居酒屋が入るらしい。
地下には小洒落たバーとダンスホール。それからジムが最近できた。
ここ最近業者の姿をよく見かける。
二階はアパート。三階はまるまる大家の持ち家。
私はその一つを好意で貸してもらっている状態。
築年数の経ったボロだが立て直すまでの間は自由に使っていいと言ってくれた。
まあもって五年と言っていたからところどころ傷んでいるが大丈夫。心配ない。
消防法上の問題も建築基準法上の問題もない。
外が騒がしくなってきた。さあそろそろだな。
「失礼します」
一人の少年? いや少々ベビーフェイスの男の子。
年はこの見た目からはっきりはしないが十代から二十代だろう。
「おお。君が第一候補だな。よく来たね。さあ座りなさい」
ルックスもよく笑顔も爽やかで誰からも愛される好青年と言った印象。
緊張してしどろもどろになっているところも初々しくて良い。
「名前は…… 」
「名前はいい。さっそくだがこの仕事を引き受けてくれるかね」
自己紹介を飛ばしいきなり本題に入る。
「もちろんです。何だかわくわくするんですよね探偵の助手だなんて……
いえ、そのあの…… 助手の仕事は任せてください。
スケジュール管理や世話は慣れてますので。
それから秘書検定も最近合格したので安心してください」
秘書検定とは頼もしい。強く出る彼に少し不安を感じるも一応の手応えを得る。
「助手の仕事はそれはきついぞ。何と言っても危険と隣り合わせだ。体力勝負にもなる。君にその覚悟はできているか? 」
「あります。ぜひやらせてください」
肩にかかるまで伸びた髪を切りもせず生意気になびかせ体全体でやる気を示す。
「よろしい。結果は追って通知する。済まないが次の者を呼んできてくれないか」
長髪のイケメンを退出させ次に備える。
「あの…… 大変申し上げにくいんですが次の方はおりません」
「何を言っている。さっきまで廊下の方でざわざわと人のいる気配がしたぞ」
椅子から立ち上がり急いで確認。
「そう言われましても私以外に本当に誰も…… 」
どうやら業者が建て替えの見積もりをとってただけらしい。
彼以外の者は本当に一人も見当たらなかった。
このビルはあと五年と言っていたが前倒しされてしまうかもしれない。
まあここは大家の善意。文句を言える立場にない。
使っていいと言われた以上最後の最後までごねるしか手はない。
その大家も最近は体調が良くないらしい。
また腰や足の不安もあって都内の高級介護施設へ移るのだとか。
「ふう困ったなあ。君一人とはどうすればいい? 」
もうこの長髪のイケメンに決めてしまうか。
いやいやそれでは何の為に大々的に宣伝したか分からない。
ドアを叩く音がした。
まだ残っていた。脅かすぜ。そうだよな。助手の仕事は楽そうだと普通思うよな。
「失礼」
喜びを隠し服と髪を整える。
本来逆なのだがこれだけ人材が確保できないとなると死活問題になる。
何としても優秀な助手を得たい。
イケメンにドアを開けさせ二人目を迎え入れる。
続く




