渡しの儀式 西の館へ
一日が終わりを迎えるように辺りは闇に包まれようとしている。
へそを曲げ夜道を歩く助手をルーシーと共に追い駆ける。
単独行動は危険すぎる。村人を刺激してしまうことになりかねない。
なるべく大人数で行動すべく横へ。
「あっ…… しまった」
助手はさも無念と言ったように遠くの空を恨めしそうに睨む。
またくだらないことを思いついたか思い出したかしたのだろう。
どうせロクのことではないはず。一応は話を聞いてやる。
「もう先生のせいで美しいサンセットがまた見れなかったじゃないですか」
「おいおい。私のせいだとでも? まったくお前って奴は……
ここに何しに来たかまさか忘れたんじゃないよな」
「いえそんなこと…… 」
バツが悪くなったのか下を向く。
「だったら我慢しろ。事件が解決したら後でゆっくり皆で見に行けばいいさ」
少し非情過ぎたか。まあこれくらい言わねば堪えないだろう。
「でもサンセット見たかったな」
諦めきれずにまだうじうじ言っている。
「オーサンセット。ベリーベリービューティフルと思うね」
「ルーシーもそう思うでしょう。ああ残念だな」
まったく……
残念そうに下を向く助手を置いて先に近くの定食屋へ駆け込む。
時を同じく湖では儀式の準備が着々と進められていた。
幻想的な夕陽をバックに湖の周りでは男共が集結。
彼らは今夜遅くに西の館に籠っている二姫を迎えるための最終確認を行っている。
「渡しの者出てこい」
力強く通る声を発する男。
「はい」
コウが負けないほどの大きさで返事をする。
「よろしい。では始めよう」
この祭りの責任者でリーダーの汗っかき男がコウを睨みつける。
鬼のような厳しい視線に耐えられずについ顔を下げてしまう。
直視することは難しく首のあたりをチラチラ見る。
「伝統により貴様はその上に乗るのだ」
手下に計りを持ってこさせコウの体重を計る。
「六十・五キロ」
ふう。危ない危ない。第一段階突破。
心の中で嬉しさを爆発させる。
何と言ってもこの祭り、いや儀式において重さは大事な大事な守るべき重要事項。
「それでは頼んだぞコウ」
「分かりました。お任せください」
昨日も渡し自体は行ったが行きも帰りも一人で体重を気にする必要はなかった。
だが今、湖の上に浮いているオンボロの船には重さ制限があるだ。
荷物の量にもよるので正確ではないが約百キロ。
前回の儀式でもそうだったが百キロを超えると沈んでしまう。
多少の余裕はあるものの気をつける必要がある。
三日前の送りの儀では問題なく二姫を送り届けることができた。
今回もさほど気にしてなかったがもし二姫との合計が百キロを超えるとアウト。
儀式は延期に。最悪中止になることも。
そうなっては渡し失格。慎重には慎重に。
三日間断食し籠っている二姫。迎えの儀では四十キロを切っているだろう。
三日前は自分は五十九キロ。彼女は四十一キロちょっと。
正確には二人の体重は百キロを超えていたが単に目安であり余裕を持たせた制限。
予想では百五キロでも大丈夫。まあここがラインで百十キロまでいくと沈没する。
日付が変わる頃さっそく乗り込む。
すっかり暗くなった湖をゆっくり漕ぎ出す。
エンジンもあるが昔からの伝統と言うか慣習みたいなものでオールを使う決まり。
今夜は天気にも恵まれており先程まで薄く曇っていたとこから月が姿を現した。
十分もするとちょうど中間地点に到着。
湖の幅が極端に狭まっている箇所に差し掛かる。
「通行証を」
西の館に行くにはここを通らねばならない。もちろん帰りも同様。
面倒くさいがこれも昔からの伝統。
彼らは儀式以外の普段から詰めている訳ではなくこの期間のみ監視をしている。
実際先月は自由に行き来できた。
「早く通行証を出さぬか」
慌てて懐から書類を取り出す。
「お前一人か? 」
「はい。迎えの儀式です」
「積み荷は…… まあいいか。行くがよい」
迎えの儀式が終われば封鎖されるので彼らもさほど注意を払わなくなっている。
儀式の間中詰めていた彼らは今夜ようやく解放される。
もちろん明日までは形式的にはいなければならないが誰も見ていない。
西の館へ。
月の光に照らされ船を漕ぐコウの姿が映す出される。
時折止まっては方角を確認しまた漕ぎ出す。
いくら光があるとはいえ湖は広く月明りとは言えまだまだ暗い。
迷うことはないが時間がかかっては儀式が滞ってしまう。
何としても時間通りにやり切る。それが儀式に参加する者の責務。
迷うこともなく予定通りの時間に西の館へ。
ここからが忙しい。
続く




