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『第一村人』殺人事件   作者: グミさん
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第一章 二話 旅の終着点

駅。


急がなくてはいけない。乗り換え時間が迫っている。


小走りに助手の後を追い駆ける。


財布以外の荷物を助手に預けているのではぐれたり乗り遅れたりしたらシャレ


にならない。助手の方が幾分か若いのでついて行くのがやっとと情けない限り。


探偵としての自覚が足りないと指摘されても文句は言えない。


まあ助手は言える立場にはないが。


乗り換え時間は十分弱。ダッシュまでは必要はないがもしこれを逃すと二時間は


待つことになる。相当なロスだ。


もちろんこの辺にも観光スポットはあるだろうがそんな余裕は今の我々にはない。


助手の案内で今のところ順調に進んでいる。


私はなるべく外を見ないように何も感じないように必死に前を見る。


助手のロングヘア―に一点を集中させて。



電車だろうか? 汽車だろうか? えらく古い型のトレインに乗車。


乗ってすぐに助手が弁当を食べ始めた。そう言えば私の腹も悲鳴を上げている。


おにぎりとサンドイッチをバックパックから取り出しさっき買った紅茶を一口。


急いで腹を満たす。ふう。ひと心地。


隣で幕の内弁当を豪快に頬張る助手の隙を突き唐揚げと卵焼きを強奪。


「先生酷い…… 楽しみに取っておいたのに」


これはまずかったかな。スキンシップのつもりだったんだが。


「弁当ばかり食べてないで外の景色でも見たらどうだい。


せっかくの窓側の席なのにもったいない」


心にもない言葉で助手の動揺を誘う。


「先生。嫌味を言わないでくださいよ。今はトンネルの中。あと五分は続くんでどうぞご心配なく」


怒らせてしまったかなあ。この後に響くとまずいな。


助手は最後の一口を食べ終えデザートのミカンに手を出す。


先生もどうかと勧められたが断る。


「デザートにミカンとはクラシックな奴め」


「何ですか? 」


悪口を言ったつもりはないが何でもないと言ってごまかす。


トンネルだったとは気が付かなかった。どおりで暗いわけだ。


さあ後三十分もすれば目的地。ひと眠りするか。


スケジュール管理は助手の仕事。秘書検定も持っておりその辺は間違いがない。


優秀な助手で助かる。



午後二時。


バスに乗り換える。


我々を除き乗客は一人。どうも地元の方のようだ。


バスはどんどん山道を奥へ進む。


でこぼこ道が続くせいか揺れが激しく座っていてもどうも落ち着かない。


助手に全て任せっきりの体たらく。バスはどこに向かっているのやら。


左に行ったと思ったらすぐに右に迂回。そうかと思うとまた左に。


くねくねとした山道をひたすら前へ前へ。



三時過ぎ。


乗り換えて最後のバスに。


これでバスは二本目。トレインは三本。合計五本の長旅。


朝早くに出発した我々はこれでようやく最終目的地へ。


合計九時間とは恐れ入る。


「ふう。疲れたな」


「先生まだですよ。歩きが残っています。


三キロほど歩くと目指す村が見えてきます。さあ頑張りましょう」


もう限界をとうに超えている。助手がいなければ投げ出していたかもしれない。


「うそ。冗談だろ。まだ歩くのか? 」


「まだ歩くって? 一歩だって歩いていないくせに。ラストスパートですよ」


非情な助手。頑固でいけない。


疲れたがしょうがない。最後の力を振り絞って歩き出す。



青い空に燃えるような赤い太陽。それ以外はほぼ緑。道を切り開いて前に進む。


「おい。本当に大丈夫なのか」


「ええ。この地図通りに行けば間違いなく辿り着けます。心配ご無用です」


地図を見ながら懸命に草を掻き分ける助手。


その後姿は都会で見せる弱々しい感じとは正反対の印象。頼もしい限りだ。


「ああ。都会の喧騒が懐かしい」


柄にもないことを口走ってしまう。ただ本当に自然は結構なのだ。


「もう先生ってばそんなこと言ってないで交代してくださいよ。さっきから何だか暑くて暑くて」


確か三月のはずだよな。なぜここまで暑い? 季節外れの夏日は体に堪える。


夏の暑さに慣れてればまだ対処できるがこれではいつ倒れてもおかしくない。


熱中症に気をつけこまめに水分を取る。そのせいで水筒の中身はもう空っぽだ。


「だから何度も言っているだろ。私には冷静な判断と真っ直ぐな目で物事を捉える必要がある。決して偏った見方をしてはならない。そのために君がいるんだ」


「はい。分かりました。もう何も言いません。たとえそこがぬかるんでいようが」


「うん何だって? うわああ」


ぬかるみに足を取られ危うく転倒するところだった。


「先生大丈夫ですか? 」


声が笑っている。そうでなくても顔が笑っている。


本当に心配してくれているのだろうかこの助手は。


「もう遅いわ。先を急ぐぞ」


「そうですね。もうあとちょっとのはず。ほらそこから何か見えてきませんか」


助手の影に隠れて良く見えない。


「もしかしてあれ…… 」


遠くの方に村が見えた気がした。


                 続く

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