818
帰ろうとすると、市場の端に古本屋さんが居た。運がいい。
表紙がぼろぼろだったり、口が日に焼けていたりするけれど、中身は読めると云う触れ込みだった。売り子の女の子(小学校高学年くらい?)に、魔法の本は、と訊いてみると、二冊示す。
「二冊あわせて銀貨1枚でいいよ」
「いいの?やった。じゃ、下さい」
銀貨1枚渡し、本をうけとる。女の子はにっこりした。
市場からちょっと離れると、アーレンセさんのおごりの揚げパンをぱくついて、サッディレくんが云う。「マオ、魔法の勉強?」
「ん。俺、こういうの全然知らないから」
「解らないことあったら、教えてやるっすよ」
「わたしも」アーレンセさんも揚げパンをぱくつく。「一年くらい、みっちり勉強してたんです。マオさんの役に立てるかも」
ありがたいので、ふたりにはしっかりお礼を云った。
四月の雨亭の食堂はからになっていた。調理台を磨いているグロッシェさんから、精査が終わったので客室で寝ている、と知らされる。
「皆さん眠そうだったので、お部屋へ案内したんです。あ、食器は片付けておきましたからね」
「ありがとうございます!」
五人とも頑張ってくれたし、グロッシェさんが整えたベッドでぐっすり寝てもらわないと可哀相だ。「じゃあ、今日は開けられますね」
「マオさんならそういうと思いました」
グロッシェさんは何故だかくすくすした。
厨房に残されていた帳簿、過払いについてまとめた羊皮紙の束を収納し、朝食の準備にかかる。
キャベツを幅広に切って炒め、お塩とこしょうをして、ドーナツ状にする。まんなかにたまごを落とし、火を通せば、キャベツの巣ごもりたまご。腸詰めをボイルして添えればメインの完成。
大根は千切りにして、甘酢和え。後は、蕪と刻んだ蕪の葉を牛ストックで煮込んだ、蕪まるごとスープと、ジャムをはさんだクッキー、焼きたてのチャパティ。朝食完成。
ツァリアスさんが手伝ってくれたし、途中からリエナさんも参戦したので、作業量は少なくて楽だった。巣ごもりたまごは誰も見たことがないお料理みたい。リエナさんがはしゃいでいた。「これ、面白い形ね。鳥の巣みたいだわ」
鳥の巣はこっちの世界にもあるんだなあ、と思った。
どうやら、俺が一日くらい行方不明だったことは、お客さんにも知られているらしい。
数組来てくれたお客さんに、トレイを運んでいくと、しきりと気遣われたのだ。大丈夫か、と訊かれたりはしていない。寧ろ、決してそのことについては触れないように、気を遣われた。いつもなら軽く口説いてくるおじさん達が、軒並み無口になってしまっているのだ。




