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また、たまごを割って、卵液をつくった。食糧保管室を見たが、たまごがいっぱいだ。誰かの要望があったのか、還元のあれやこれやで手にはいったのか、近場の農家さんがいっぱい運んできたのか。とにかく、ありがたい。オムレツに限らず、たまご料理は融通が利く。
ディロさんがオムレツを食べながら、楽しげにタイティーダさんに話していた。「それでね、チヒロさまが、おいしい荒れ地菓子をつくってくださったの。勿論、わたし達にじゃないんだけれど、お相伴にあずかったからほんとに幸運だった」
「よかったね。わたしも、チヒロさまにはパンを戴いたことがあるよ。洗濯場にさしいれをしてくだすって」
「チヒロさま、お菓子もパンもお上手だよね。香辛料のきいた、トマトのパンがおいしくて、わたしも大好きなの」
ルクトくんが大きなお鍋を火から下ろし、魔法でひやしているのを見ながら、卵液を平鍋へ流し込んだ。あれはストックだ。もう片方の大きなお鍋には、さっきベシャメルソースが追加されている。お午はシチューらしい。とりを焼きにかかっているから、あれを解していれるんだろうな。パンは仕込んであるし、パスタもあったと思う。パンでもパスタでもおいしいよなあ、シチュー。おかわりしよ、絶対。
平鍋の中身をかきまぜていたら、班長がやってきた。警護班ふたりと一緒に。
「マオ、荷運びをしてもらう。裏へ来なさい」
ルクトくんが、お鍋の前から、こちらへ移動する。俺はきょとんとしていた。荷運び、と、頭のなかで単語が踊っている。班長にこんなふうに話をされたのは、いつ以来だろうか。
班長は云うだけ云って、すぐに出て行く。とりまきも一緒にだ。
卵液が平鍋のなかで、じゅうじゅういっている。ディロさんがごくんと口のなかのものを飲み込み、呆れたみたいに云った。「なに……あれ」
「はやく来るように」
警護班がひとり戻ってきて、むっとしたみたいに云い、またすぐ出て行った。ディロさんの唖然とした顔。タイティーダさんは眉を寄せ、出入り口辺りを睨んでいる。
俺はスパテラを置いて、戸惑いつつ、そちらへ向かった。はっとして、ルクトくんを振り返る。「ルクトくん」
「大丈夫です」彼は頷いて、スパテラを掴む。「仕上げておきます」
「ありがとう」
ほっとして云い、俺は厨房を出る。ディロさんとタイティーダさんが不審げに顔を見合わせたのが、一瞬だけ見えた。シチューおかわり計画は頓挫したらしい。おいしそうなとりにく、さらば。




