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ユラちゃんは怒り顔で、湖に手をつっこみ、掬いあげたお水をまた、宙でまるめる。魔法で水の玉は、水風船みたいな感じになっていった。
「リッター、護衛士の矜持がどうのと嘆くだけならお辞めなさい」ユラちゃんの声には威厳があった。さすがに、公爵令嬢だ。「あんたのその、たまにしおらしく後悔すると思ったらやたらとしつこいのは、もううんざりなの。それくらいの状態、いい癒し手や錬金術士の薬でなんとかなるわ。ぐずぐず煩いとここに沈めるわよ」
「しかし」
「お黙り」
ユラちゃんは水風船のようなものをリッターくんへ投げつけた。「主人が辞めろと云ったら辞めるの。その反抗的でわたしに逆らう性格を反省なさい!」
リッターくんは顔の水気を袖で拭う。
ネクゼタリーさんが口を開いた。が、ユラちゃんが先んじる。
「それと、ネクゼタリー卿。わたくしのような女が口をはさむのが失礼だというのは重々承知ですが、うちの従者はばかでまぬけで気がききませんの。ですから、愚か者が浅瀬で溺れてもがいているのだと思って、しばらく放っておいてやってくださいません? 幾らばかでもしばらくすれば我に返って、立てばなんでもないと気付きます。その間にハイオスタージャ卿に不埒なことをするような知恵も働きませんから、安心してくださいな」
長広舌+毒舌に、ネクゼタリーさんはさすがに微笑みをなくし、ぽかんとした。
しかしすぐに、ぎこちないが微笑みをうかべる。
「え……ええ、そのようにいたしましょう」
「ご配慮、ありがとう存じます」
ユラちゃんは軽く頭を下げた。
リッターくんはニニくんにまた、口移しでお水を飲ませている。俺は近くで、それを見ている。
ネクゼタリーさんとユラちゃん、ほーじくん、それに寝てしまったサーダくんを抱えたダストくんが、湖から少し離れたところに立って、相談していた。
「もう夜も更けて、移動は危ないぜ」
「車輪があれですからね。ここで休ませてもらいましょう」
「それがいいと思いますわ」
「ぼくも……」
ほーじくんはリッターくんを見る。
「リッター、大丈夫かな」
「だからあのばかでもすぐに気付くわ」ユラちゃんは肩をすくめる。「あの子はね、ひとから云われたことをすぐにのみこむのが難しいのよ。自分で理解して、納得したいの。ばかだからよ」
ユラちゃんはぱっと、ネクゼタリーさんを仰ぐ。「ネクゼタリー卿、マオが駆使している魔物達もここへ呼び寄せるべきだと思います」
「ああ……それは……わたしは賛成できません」
そのやりとりで、タスがいつの間にか居なくなっていると気付いた。




