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ルルさんとラトさんが、食べものを沢山運んできた。ナッツとドライフルーツをまぜて焼いた、かたいケーキもある。いつもどおりのはちみつ漬けだ。はちみつがつやつや、きらきらしている。香り豊かなはちみつで、お皿の隅のほうで一部が結晶のようになっていた。
俺はナジさんに手をひかれ、椅子に座った。呼吸をしよう、と考えている。ちゃんと息をして、ちゃんとしていなくちゃ。普通の顔をしていなくちゃ。こんなところでなにが起こる。なにも、こわいことは、おこらない。そんなのありえない。ネクゼタリーさんがなにをすると思っているんだ? なにも起こる筈ないだろう。理性のある人間なんだ。
でも、砂山に隠れるみたいにして、怪我したニニくんを捕まえていたじゃないか。誰かに怪我させられたニニくんを。それに馬車のかげで、ニニくんになにか、プレッシャをかけていた。ニニくんは怯えてた。最後に頷いたのだって、どこまでがニニくんの意思かわからない。
俺はなにも理解できていない。
ほーじくんがネクゼタリーさんに厳しい目を向け、ニニくんからひきはなそうとしているのが、なにかおそろしいことの前触れのように思える。そんなものはないと信じたい。
スパイスの香りがたった、かりっとしていそうなクッキーが、大きなボウルで運ばれてきた。可愛らしい花形のものだ。あれは、ドールさんのスパイスいりで、リーリさんが焼いたのに違いない。焼いてそんなに時間が経っていないのかな。それがテーブルに並ぶと、かすかに熱を感じた。オーブンは、ここから近いんだろうか。
山羊の乳にスターアニスと、俺の知らないハーブや木の皮みたいなものがうかんでいるのも、大きな木製のボウルで出てきた。あれは、悲嘆木の皮かもしれないな。湯気がたっていて、甘い香りがする。山羊の乳だというのは、香りで判断した。表面が脂でてらてらしている。マドラーみたいなものがいれられているので、飲みものだろう。パンチの荒れ地版と云ったところか。木製の大きなボウルというのが、もてなしの丁寧さを感じさせた。こんなもの、御山でだってめったにつかわない。
牛の血の牛乳割りも、少量ずつゴブレットにはいって運ばれてきた。以前、ここでもらったものよりも色がうすいので、牛乳の割が多いのだろう。シアナンさんとヤームさんが笑いながらそれを並べ、笑いながらテーブルを離れる。みんな楽しそうに笑っている。
俺が喋らないことなんて、なんでもないみたいに。
そんなふうに装ってくれているのだとしても凄く気が楽だ。




