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それがどういうものかはしらんが、そのおかげでこいつらが俺以外を狙わないのなら、ありがたいことだ。
「そう」俺は小さく頷く。「約束はまもらなくちゃね」
「ああ。破れば、種族としての誇りを捨てることになる」
知らん知らん。なにその無駄な律儀さ。
でもよかった。これなら、俺が死なない限りは、むちゃくちゃな挑発を繰り返した俺に意識を集中させてくれるだろう。
ちょっと安心した俺は、頭領(仮)がもそもそとささやくのを聴いた。
「叫喚」
もの凄い恐怖が襲った。視野がぐにゃりとゆがみ、極彩色になっている。レットゥーフェル達の顔が、それまでにもましておそろしいものに見える。どうして俺はこいつらと対峙してるんだろう。逃げ
はっとした。状態異常無効が働いたのだ。それでもまだ、頭ががんがんするし、眩暈が残っている。あと、体中が痛い。
俺は片膝をついていた。どこかに傷ができているみたいで、ずぼんに血がにじんでいる。床についた右手にも、とろとろと血が流れていた。さっきくらった槍の一撃、あの怪我はもう塞がっているから、これは叫喚の所為だ。
叫喚って、くらうとこんなにつらいのか。悪しき魂のおかげで効果は軽減されている筈なのに、それでもこれ?
顔を上げた。頭領(仮)は勝ち誇ったみたいに軽く顎を上げている。俺は息を整える。
こいつ、魔力が高いんだ。魔力が高い人間は、大きな魔法をつかえるし、魔法に対する耐性も高い。いまいち俺の魔法がきいていないのは、悪しき魂だからってだけじゃない。
まっすぐに立った。頭領(仮)を睨む。「禍殃、偸利」
頭領(仮)はすっと脇に避け、背後のレットゥーフェルが俺の魔法の犠牲になった。「叫喚」
視野が極彩色にかがやき、ゆがみはじめる。これだよ、これがこわいの。
だが、俺の適応力はなかなかのものだ。極彩色になった視野で、ゆがんだレットゥーフェルの顔が見えた。
「四散」
多分、そいつの頭ははじけたんだと思う。叫喚の所為で視野がおかしくなっていて、その瞬間は見ていない。見ずにすんでよかったと思う。
数は、あと五。頭領(仮)含め。
頭領(仮)は気色が悪いくらいに冷静で、死んだレットゥーフェルを装備品ごと綺麗に還元する。「弟さん?」
「兄だ」
ためしに訊いてみると、そんな返事がある。兄弟達で行動しているってことかな。
鼻血がまた出ていた。袖で拭う。
「最初にこっちに居たひとは? 弟、兄、どっち」
「何故、気にする」
「さあ。答えたくないならいいよ。俺が殺したんだし」
「弟だ。あれは、わたしよりも強かったのに、策を誤ったらしい」




