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「偸利」
頭領(仮)は飛び跳ねて俺の魔法を避ける。効果が出るまでにタイムラグがあって、その間に場所をまったくかえてしまえば、偸利でもあたらない。多分。
かわりに、延長線上に居るレットゥーフェルがそれをくらっていた。可哀相に。「避けたらお仲間が傷付くよ。いいの?」
「加減をするのではないのか」
「してるけど君らが弱い。自覚したほうがいいよ」
平然と云う。心にもないことを真に迫った調子で云えるのは、俺の強みだ。だとしても、子役の経験がこんなふうに生きるとはな。
頭領(仮)はまた、怒りを覚えたらしい。ぐぐっと唸るような声をたてる。俺は鼻で笑う。「どうしてそんなに弱いのに封印されたの? 祇畏士に遊ばれた?」 それはレットゥーフェル達の逆鱗に触れたみたいだ。二頭、とびだして、槍で俺に切りかかってくる。「四散」
あちらから近付いてくれるので簡単だ。二頭が持っている槍が爆発し、ついでに槍を持っていた手も爆発した。血は一応、赤なのか。ヘモグロビン。
でも、人間よりもさらさらした感じだな。血漿が少ないんじゃないの。
「ほら弱い」
爆発した槍はとんできて、刃の一部が俺の肩口に突き刺さっていた。俺はそれを、無事な左手で掴んで抜きとる。くそ、痛い。こういう痛いのは俺は嫌いなんだってば。ミューくんに治療してもらいたい。そんでそのまま、丸ふつかくらい眠っていたい。起きたらリエナさんのシチューを食べたい。くそ、くそ、くそ。
まっすぐ綺麗な立ち姿ではなくなっている、今にもこちらにとびだしてきそうなレットゥーフェルに、狙いを定めた。これしかない。傷薬ももうほとんどないし。「禍殃。偸利」
そいつは膝をつき、ずるずると倒れる。俺の怪我は治った。それから、頭領(仮)が四散でやられて倒れている二頭に手をかざす。
案の定で、頭領(仮)はそいつらを躊躇なく還元した。ぶわっと素があふれ、それが雨風で、室内に一気に拡散される。仲間を治療しようとは考えないんだろうか。癒しの魔法を持ってないのか? それにしては、丈夫すぎないかな。
ごくっと唾をのんだ。その間に、頭領(仮)は右足だけさげてすっと体の向きを九十度かえ、偸利の犠牲になったレットゥーフェルに手をかざして還元する。そうしてから、満足げに頷き、こちらへ向き直る。
「愚弟どもが失礼した」
愚弟?
……弟、還元したのか、こいつ。
ぞわぞわする。こわい。
頭領(仮)はもごもごとくぐもった声だ。「一対一だと、云うのに。約束は、約束だ。わたし達には、誇りがある」




