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「わたしがまもってあげる」
ジーナちゃんがミューくんの腕をひっぱった。また、目に涙がういている。表情は悲痛だが、声は真剣で、震えていない。
「先生がたは、それにラスターラ卿や証人達も、あなたの職業加護について口外しないと誓ったわ。万一、誓いが破られても、わたしがまもってあげる。あなたを危ない目になんてあわせない。あなたは、来年以降も、御山に残るのよ」
「ジーナ」
「絶対に」
ふたりがなにを危惧しているのか、わかった気がする。
ミューくんの魔力は、理論的には尽きなくなった。つまり、ミューくんには魔力薬は必要ないし、幾らでも、どんな魔法でもつかえる。恢復魔法に限定してつかえる魔力という訳じゃないからな。
だから、神聖公がミューくんに、凄く強大な魔法をひたすらつかい続けろと命令したら、ミューくんは逆らえない。
どきどきしている。魔法屋が居るから、ミューくんの能力証に魔法を書き加えてしまえば、ミューくんは人間兵器になる。ほーじくんをとりおさえていた神おろしふたりは、ミューくんの能力証について聴いたのだろうか? 聴いていないと信じたい。もしくは、聴いても誰にも喋らないと。
ミューくんの顔色は悪いままだが、ジーナちゃんの手を軽く叩いて、優しく云った。
「ジーナ、俺は自分を心配してるんじゃないんだ。いや、ほんと云うと、それも少しはある。俺は痛いのとかつらいのとか、嫌いだから」
「わかってるわ」
「ああ、弱虫なんだよ俺は。でも、こんなの……五年前のことを誰かがほじくり返して、またシアイルと小競り合いになったら、俺は前線に立たされる。君やチェスを残して死ぬのだけはいやだ」
ああ……バルドさんが云っていたっけ。数年前に、ディファーズとシアイルの国境で、小規模な戦闘が起こったようなことを。そのあと和解したのが信じられないくらいに、その当時は情勢が不安になって、その戦闘でスルくんのお兄さんが行方不明になった。おそらく、死んでいるのではと、バルドさんは云っていた。
ミューくんの声が尖った。
「そこで怪我人を治療するのなら幾らでもやるさ。味方だけでなく敵も治療するとも。俺は人間が同族を傷付ける意味がわからない。ばかばかしすぎて言葉もないね。そんな無駄なことをするくらいなら、みんなで仲好く魔物を退治に行きゃあいい」
まったくご説もっともなので、俺はなにも口をはさめない。
「良心に従って、ジーナ、俺はひとを殺せない。君を傷付ける連中は別だ。あれは人間じゃない」




