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厨房に戻って、髪のことを訊いてみる。
セロベルさんとリエナさんは、別の銀河の生命体を見るような目で俺を見た。「なに云ってんだお前」
「男のひとの髪でしょ? そりゃ、命と同じくらい大切なんじゃないの」
そうなんすか。
実は、今日も賭場に行くし、と思って、今朝がた髪を整えたばかりなのだ。崩潰はウルフカットにも応用できそう。俺はばっちりうなじが見えるくらい襟足を短くして、前髪も目にはいらないくらいにした。
リエナさんが目を細める。「あら? ……マオ、昨日より髪が短いのじゃない?」
「はは。あの。目にかぶさって邪魔なので」
「それはいいけど、だったらちゃんと耳飾りをつけないとだめよ。マオは可愛いんだから」
「はあ」
髪と違って、アクセサリは着脱可能だ。
だから、男は大概が髪を長くする。でないと大変な目に合うから。
「これ」セロベルさんはピアスを弾く。「つけたまんま寝ると、枕にひっかかって流血とかあるし。ずっとはつけてられねえだろ」
「はあ」
「それに、修復者の加護は髪にあるから。男のひとの場合」
「修復者?」
「そう。女の場合は歯でしょ」
話が見えない。俺が理解していないのを解ってくれたか、リエナさんがくすくすした。
「マオ、きちんと神話を聴いてなかったのね?」
「え?」
「修復者よ、修復者。かみさま」
かみさま。
えっと。
つまり、修復者という神さまが居る、らしい。
この世界の神さまはそれぞれ名前を持っているのだが、畏れおおいと人々はその名前を呼ばない。ほとんどの神さまの名前が解らなくなってしまったくらい呼ばないのだ。
でも、特定の神さまに対してお祈りや願掛けをしたい時がある。その時は、通称で呼びかける。それが、礼を失せず特定する方法だから。
「修復者」は、運とか確率に関する神さまの通称。その加護は、男なら特に髪、女なら特に歯に、強く注がれる。だから、男は髪、女は歯を大切にしないといけない。
多分、この伝承がもとで男性が髪を伸ばすのが普通になって、髪が短いと女っぽい、というイメージにつながっているんだろうな。それにしても髪が乏しい男性が可哀相である。
で、それが特殊能力になると、「大幅に運上昇」という効果がつく訳。
「魔術者」「智慧者」も神さまの通称で、特殊能力でもある。「--者」という特殊能力は、ひとりが複数持つことはない。
セロベルさんが宙を見た。「そういう系統じゃなく、もの凄い特殊能力っつったら、万能くらいだぜ」
「万能のひとなんて、わたし見たことない。セロベルは?」
「御山には何人か居た。全員ばかみたいに強いぞ。特に、魔術者も持ってるやつは、全く歯が立たない」




